両チームの守備の差と、光った土居聖真の動き【2019年Jリーグ第11節ヴィッセル神戸戦マッチレビュー】

2019年Jリーグ第11 節、鹿島アントラーズVSヴィッセル神戸戦。マッチレビュー。

試合結果

1-0

【得点】

17分 セルジーニョ(鹿島アントラーズ)

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スタメン

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK クォン・スンテ

DF 永木亮太 チョンスンヒョン 犬飼智也 安西幸輝

MF 三竿健斗 レオシルバ 白崎凌兵 レアンドロ

FW 土居聖真 セルジーニョ

失意のジョホール戦から中3日。精神的にも肉体的にもタフさを要求されるゲーム。私はこのゲームをそう考えていた。ジョホール戦はかなりダメージの大きい敗戦だっただけに、チームとしてどのように改善を重ねられるか、重要なゲームとなる。

また、このゲームを凌げば何名かの怪我人も戻ってくる事が予想される。鹿島アントラーズにとってこの試合は正に正念場だ。

また、私はこのゲームは「絶対に負けてはいけない」と位置付けていた。その理由は↓これ。

西大伍がいないのは残念だが、今シーズンの神戸にだけは負けてはいけない。それは、これからも鹿島が選ばれ続けるクラブであるために絶対に必要なことだ。

試合レビュー

早速ポイントを絞って試合を振り返っていこう。

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ヴィッセル神戸のビルドアップを封じた鹿島

この試合のポイントのひとつは、「互いのチームのビルドアップとその守り方」についての両チームの差だった。まずはヴィッセル神戸のビルドアップについて考えたい。

▼両チームの基本配置※鹿島を赤黒、神戸を白で表現

鹿島がいつもの4-4-2、神戸が4-5-1(4-3-3とも言う)だった。そして神戸のビルドアップのシーンを注目してみよう。

▼ヴィッセル神戸がビルドアップをする時の鹿島の守り方※あくまでイメージ

神戸のビルドアップに対する鹿島の守備は機能していた。重要なポイントは3つ。

  • サンペールはしっかり見る
  • 山口は見ておく程度でOK
  • ロングボールを蹴らせたら勝ち
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サンペールはしっかり見る

これはビルドアップのシーンだけではなく、鹿島が試合の中で常に意識していた事のように見えた。おそらくこれは試合前からの約束事だ。スカウティングがあったのだろうと思う。

サンペールを神戸の心臓とみて、必ず誰かがサンペールのマークについていた。

神戸のビルドアップのシーンでは、CBが広がって間のスペースにサンペールが入ってボールを受けようとする。GK-CB2枚-サンペールの4枚でビルドアップを試みる形だ。

これに対して鹿島は、「CBにはFWがいく」「サンペールにはレオ(稀に三竿)がいく」という形を取った。結果、神戸GKキムスンギュはボールを前線に蹴るしかない。しかしロングボールには絶対の自信があるスンヒョンがビジャを潰す。このようなメカニズムで鹿島の守備はある程度ハマっていた。

ちなみに鹿島が撤退した時の守備では、セルジーニョがかなり気を使ってサンペールのマークについた。決して苛烈なプレッシングではなかったが、これは神戸相手に地味に効いていた。セルジーニョの走行距離がチーム1番だったのは、「サンペールの見張り」をセルジーニョが勤勉にこなしていたからに他ならないだろう。

山口は見ておく程度でOK

サンペールに対してはきっちりマークに付く一方、山口蛍に対する鹿島の守備は緩かった。緩かったというか、「見ておけばOK」という程度の守備だった。

山口は攻撃時の立ち位置やパス精度、視野の確保において攻撃面の脅威になる事は少なく、ミスも多い。サンペールへの対応とは明らかに異なった対応を山口蛍にはしていた。これは戦術的に賢い選択だったと私は思う。

技術レベルの高くない選手が相手にいた場合、戦術は2つ考えられる。「その選手を取りどころにする」か「あえてその選手にボールを保持させることを許容する」だ。鹿島は後者を選択した。

山口に気を使わなくていい分、三竿は危険なスペースの察知とカバーリングに気を遣う事が出来た。

ロングボールを蹴らせたら勝ち

神戸のビルドアップに対して、鹿島は「ロングボールを蹴らせたら勝ち」という気持ちだったのだろうと思う。犬飼とスンヒョンの2名が、ビジャを始めとする神戸の前線の選手にヘディングで負けることは考えにくい。ウェリントンなら話は別だが、ビジャはロングボールを競り勝つためのプレイヤーではない。

この試合に見せた鹿島の「神戸ビルドアップに対する守備」は、予めデザインされたものであるように見えたし、合理的だった。良く準備していたと言えるのではないだろうか。

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鹿島のビルドアップを封じられない神戸

逆に鹿島のビルドアップに対する神戸の守備はどうだったのだろうか。これがかなり良くなかった。鹿島がこの試合を優位に運べた最も大きな要因は、神戸の守備の悪さにあったと思う。

▼これが鹿島がビルドアップを始める時※あくまでイメージ

この図の中にある程度問題点を書いているが、神戸は「前線の選手」と「ボランチから後ろの選手」の守備の意識が相当にズレていた。

これは奇しくも鹿島がジョホール戦で見せてしまった守備のような形だ。

神戸の前線の選手は矢印を前向きに強く持っており「前からボールを奪うぞ」という気持ちを見せていたが、ボランチから後ろの選手がついてこない。そんな現象がヴィッセル神戸からは何度も見られた。

「相手の前線と中盤(ボランチより後ろ)の間のスペース」が空いてる事が多いので、白崎やレオはそのスペースを有効活用することが出来た。これが鹿島のビルドアップが比較的スムースにいった要因だ。

神戸の前線の選手は、初めは強いプレッシングを行っていたが、ボランチから後ろがついてこないので、やがて前からボールを追いかけるのをやめてしまったように見えた。それが更に鹿島のビルドアップを容易にした。

また、DFラインからのビルドアップが比較的スムースに行えるので、レアンドロは「外でボールを待っている」ことが出来た。ビルドアップが不安定だと、トランジションに備えて中途半端なポジションを取らざるをえない事もある。しかしこの試合では安心して「外で待っている」事が出来た。外で待っている選手がいれば、サイドチェンジを有効に使うことが出来る。いわゆるポジショナルな配置というやつだ。

中間ポジションを支配する土居聖真

この試合は間違いなく土居聖真のゲームだったと思う。今回は先に書いてしまうが、彼がこのゲームのMVPだ。

相手のボランチ・SB・CBの中間でボールを受け続けた。

神戸は未だに守備組織の構築が上手くいっていないように見えたので、土居への対応に迷い続けた。SBが土居に付こうとすれば白崎がSBの裏へ。ボランチが見ようとすればレオが突進してくる。CBが見るならばセルジーニョにスペースを与える。

また、「相手や味方と逆の動き」を常にしていた事もポイントだ。

相手が裏を警戒しているなら下がって受ける。相手が足元を狙ってくるなら裏へ抜ける。常に相手の矢印を外し続ける動きは想像以上に厄介なはずだ。

土居のプレーがスコアに直接結びつく事は無かったが、「このゲームを常に優位に進め続ける」という意味で、攻撃では土居、守備では三竿の活躍は素晴らしかった。

本当に強いチームなら前半で複数得点

ただし、このゲームの鹿島は良かったが、それ以上に相手が良くなかった。本当に強いチームなら前半で点差を開き試合を決めきってしまい、後半はそれとなく時間を過ごしてゲームをクローズさせる。

今年のFC東京が鹿島に対して行ったような試合だ。残念ながら今の鹿島はまだそのステージのチームではない。

「相手の守備がハマっていない」と見るやいなや、肉食動物のようにゴールをハントして致命傷を与える狡猾さも備えられるようになっていきたい。サッカーの試合におけるラスト5分は、それまでの展開に関係なく何が起きるか分からないからだ。

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端々に見られた戦う姿勢

一方、この試合で良いなと思ったのは、永木とレオが言い合いになったシーンだ。

この試合、良いゲーム運びは出来ていたものの緩慢なプレーは散見された。特に自陣でのパスミスは多かった。そこで永木がレオの軽率なミスに気持ちをぶつけたのは重要だ(その後に永木も近しいミスをしていたのがアレだが……苦笑)。

また、三竿も前節から変わらず試合のバランスを保ち、チームメイトに的確な指示を送っているように見えた。

MVP

土居聖真!説明は先程したので割愛!次はこういうゲームでゴールまで奪って、本当の王様になってくれ!

 

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