レアンドロと白崎の守備の違いと崩され続けた理由【2019年第15節セレッソ大阪戦マッチレビュー】

2019年Jリーグ第15節、鹿島アントラーズVSセレッソ大阪。マッチレビュー。

試合結果

2-0

【得点】

50分 セルジーニョ

72分 白崎 凌兵

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スタメン

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK クォン・スンテ

DF 永木亮太 チョンスンヒョン 犬飼智也 安西幸輝

MF 三竿健斗 名古新太郎 白崎凌兵 レアンドロ

FW 土居聖真 セルジーニョ

見どころ

このゲームは中断明け2週間ぶりのJ1リーグ。中断前にはアウェイでサガン鳥栖に敗北、ガンバ大阪に引き分けと、良くない流れが続いていた。そして、このセレッソ大阪戦の後はサンフレッチェ広島との3連戦が待っている。

このゲームの結果と内容は、今年の鹿島の成績に大きな影響を及ぼすかもしれない。そんなゲームだ。

私は「優勝争いに加われる勝点」を「1試合平均2点」と考えている。この試合が始まる前までは14試合で勝点24。「平均勝点2」に4ポイントも足りない。このセレッソ大阪戦を勝って、次の広島戦・ジュビロ磐田戦・ベガルタ戦まで連勝して初めて「平均勝点2(=優勝争いに加われるレベル)」に届く計算だ。

もしセレッソ大阪戦を落とすような事があれば、更に優勝争いは遠のいていく。

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試合レビュー

早速試合を振り返っていこう。このゲームは何といっても、「悪かった前半」に比重を置いて振り返りたい。そこからどのように状況が好転したのか、そのような視点で読んでいただけると幸いだ。

フォーメーション

まず、念の為両チームのフォーメーションを確認しておこう。

▼鹿島を赤黒、セレッソを白で表現

お互いに一応4-4-2という形だった。

鹿島としては名古のJ1先発デビューということで、彼がどのようにアジャスト出来るのかは注目したい。

右サイドが崩され続けた前半

このゲーム、やはり振り返るべきはセレッソに殴られ続けた前半だ。

その主要因は、鹿島の右サイドの守備(セレッソの左サイドの攻撃)にあった。

セレッソの攻撃はほとんどが左サイドから展開され、シュートを打たれたシーンの起点は必ずセレッソの左サイドだった。

セレッソの左サイドの攻撃はなぜ機能し、鹿島の右サイドはなぜ崩され続けたのだろうか?

その要因をいくつかに分解して説明したい。

狙われたレアンドロ-永木

まずは核心から突こう。鹿島が右サイドを崩され続けた主要因はレアンドロと永木、それに名古を加えた右サイドのトライアングルの守備の不安定さにあった。

具体的なケーススタディとして1つのシチュエーションを図解したので確認してほしい。

このような形は、前半に何度も見られた。以下のような流れだ。

  1. セレッソのボランチがDFラインに入ってビルドアップに参加
  2. DFラインへのプレッシングの枚数が足りなくなるので、レアンドロが対面の木本にズルズルとプレスをかける
  3. 木本はレアンドロが来たら左SBの丸橋に簡単にパス
  4. 永木も浮いた丸橋にズルズルとプレスをかける
  5. 永木の動いたスペースに、セレッソの清武や奥埜がランニング
  6. 名古が清武にくっついて動くので中央も手薄になる
  7. 名古がいなくなった中央、あるいは永木の裏にランニングした選手を使ってセレッソは攻撃

おおよそこのようなメカニズムだ。

鹿島側の問題は②のレアンドロのプレスから始まっている。

前半のレアンドロのプレスは、「コースを限定する」わけでもなく「相手に圧力をかける」わけでもなく、ただ相手に近寄っていくだけのプレスだった。ハッキリ言ってこの守備は何も意味がない。

鹿島は最近、前からプレッシャーをかけるスタイルを標榜しているので、レアンドロとしても「ここは前に行くのが正解」という考えがあったのだろうと思う。しかし実態としては相手に何のプレッシャーにもなっていなかった。後ろの永木はレアンドロの動きを制御するか、あるいはもっと激しくプレッシングに行かせるべきだった。

レアンドロの「ズルズルとしたプレス」に引きずられ、永木までズルズルと丸橋にプレスをかけに行く場面が散見された。

鹿島の右サイドは完全に後手に回った。

前半のレアンドロと永木の守備であれば、いっそ「前からプレス」なんていう戦いは捨ててしまった方がチームのバランスは保たれた。木本のビルドアップはFWに任せ、レアンドロは丸橋を見て、永木が清武を見れば良いだけの話だ。

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浮き続けた丸橋

先程述べたようなメカニズムで、セレッソの左SB丸橋は実質「フリーマン」に近いような形でボールを受け続ける事ができた。

プロのレベルでフリーマンを作る事は、致命傷につながる。

しかも丸橋はキックが上手いので、フリーにすると逆サイドや中央に精度の高いボールを放られる可能性もある。彼のような選手に対するアプローチとして、前半の鹿島は完全に対応を誤っていた。

一方のセレッソの目線で見ると、「浮き続けた丸橋」を有効に使い続けた前半だった。

これはセレッソが試合前から狙った形なのか、試合中に「この形で殴り続けられる」と判断したのかは分からないが、「セレッソにとって優位な場所を使い続けた」という事実は間違いない。

鹿島としては嫌な所を突かれ続けた。

動かされ続けた名古

鹿島としては、名古を動かされ続けたのも良くなかった。

この試合の解説・秋田豊は「名古がもっとあそこ(永木が動いた後のスペース)を埋めないといけない」という旨の発言をされていたが、厳密には少し違うと私は思う。

実態は、「レアンドロと永木がズルズル動くから、名古が空いた場所をカバーせざるをえない」が正しい。

名古は「永木の裏のスペースのカバー」と「(DFラインに下がっていない方の)相手ボランチへのプレス」という、味方と相手の状況によって2つのタスクを担わされていたような状況だった。

名古やスンヒョンが永木・レアンドロの動きをコントロールできればベストだが、J1初先発の名古にそこまでの要求は難しいだろう。

スンヒョンや永木の判断力はもっと高いレベルを要求したい。

永木が前に出ることでスンヒョンのスピード不足が狙われる

前半は更に、永木がズルズルと前に行くことで「スンヒョンの周り」にスペースが生まれてしまう悪循環も生まれた。

スンヒョンは知っての通りスピードに弱点を持っているので、彼の周りに大きなスペースを作るのは鹿島にとっては避けたい事。

セレッソはその弱点も狡猾に狙ってきた。事前のスカウティングをキッチリしている証拠だろう。

セレッソが前半の展開を優位に進められたのは決して偶然ではなく、相手の動きを見ながらロジカルに鹿島を殴り続けた結果に生まれたものだった。

白崎とレアンドロの守備力の差

前半、鹿島は右サイドを崩され続けたが、一方の左サイドはほとんど起点を作らせなかった。

その理由は白崎とレアンドロの守備力の差にある。

白崎は、後ろの安西や三竿の動きを見ながら、対面のCB(ヨニッチ)にプレスをかける。味方が連動できない時にはプレスに行かずにセレッソの右SB松田を見る。

レアンドロは味方の状況を問わず、毎回ズルズルと対面のCBにプレスをかける。

この差だ。

しかも白崎のプレスは迫力とスピードを持っているので、相手にとってプレッシャーとなっている。

対面のヨニッチや松田は白崎のプレスを嫌がり、鹿島の左サイドから攻めるのを諦め、作り直す。(作り直されると「殴り続けられる右サイド」にボールを展開されてしまうわけだが……)

もしもレアンドロに白崎のような判断力と守備力があったならば、前半は全く異なる展開になっていたことだろうと思う。

白崎が唯一守備でぬかったのは、キムジンヒョンから水沼に通ったグラウンダーのパスくらいだろうか。

もう一度見返すのは億劫な前半かもしれないが、「白崎とレアンドロの守備」に注目するだけでも、発見がある試合だと思う。

ちゃっかり仕事をするレアンドロ

後半の話をしよう。

ここまでレアンドロのプレーを悪く書いてしまったが、後半は悪いプレーではなかった。

まず、前半はチームのウィークポイントになっていたにも関わらず、後半開始早々にPKゲットの大仕事をする。相変わらずちゃっかりしている選手だ。笑

また、守備時の動きも前半より改善されていた。

少なくとも「ズルズルと」プレスに行くような場面は減った。後半は左サイドまで迫力を持ってボールを追い回すシーンまで見られた。

ハーフタイムに監督や選手からかなり指摘があったのではないかと想像する。大岩監督もインタビューで「守備を修正した」と言っていたので、大岩監督の手腕だと信じたい。

悪い所をキッチリゲーム内で修正できた点は、大岩監督の進化も感じられる。「ゲームプラン通りに進まない展開」に対する打ち手は、これまでの大岩監督が苦手としていた事でもあるからだ。

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立ち位置を変えた三竿と名古

また、後半に入ると三竿と名古の立ち位置が入れ替わった。

前半は「名古が右、三竿が左」という立ち位置が主だったが、後半は入れ替わった。

おそらく、右サイドの「レアンドロ・永木・名古」のトライアングルの守備が機能していなかった所を、修正したのではないかと思う。

この立ち位置の入れ替えは大きく功を奏した。

名古の守備の負担は白崎と安西の守備力によって軽減され、右サイドの水漏れは三竿が塞ぐ。

また、名古は左側に立ち位置を替えたことで、白崎・土居といったテクニカルな選手の近くでプレー出来るようになり、攻撃も活性化された。名古も白崎も技術のある選手なので、相性は良いように見えた。

一方の右サイド。清武が後半からプレーしにくくなったのは、確実に三竿が右側に移ったからだろう。三竿は1on1なら清武にだって勝てる選手になった。

名古が交代してレオが入ってきた時は、レオが右側、三竿が左側に戻る柔軟性も見せた。

これは「いつもの形に戻す」という対応だろう。レアンドロとレオは近い位置にいた方がメリットが大きいのは周知の通りだ。

土居がフラフラしてきたら鹿島のペース

良い攻撃は良い守備から、と言うが、正にその通り。後半は守備が安定したので攻撃の回数が単純に増え、相手を押し込む時間帯が増えた。

相手を押し込む形になれば、松本山雅戦までの3連勝のように土居聖真が真価を発揮する。

土居聖真がフラフラと中間ポジションをうろつくようになれば鹿島ペースだ。白崎は土居の動きを見逃さないし、あとは安西・白崎・土居のトライアングルにボランチの攻撃参加を加えて相手を混乱させる得意の形に持ち込める。

スンヒョンのビルドアップに意識の変化

このゲームにおけるスンヒョンのビルドアップに、私は意識の変化を感じた。

私はこれまで何度もCBのビルドアップについて指摘を繰り返してきた。↓とか。

ユニットで戦ったガンバ、攻撃の選択肢が少ない鹿島【2019年第14節ガンバ大阪戦マッチレビュー】

今回のセレッソ戦ではスンヒョンが何度か縦パスにチャレンジしていた(失敗したけど)。

これまでは左サイドからボールが回ってきた時に、右サイドの永木に付けるパスが殆どだったが、縦パスが見られるようになってきた。スンヒョンの意識に変化が見られるようになったのではないかと思う。

ここから更に、ボールを運んでのロングシュートや対角線へのロングフィードまで見えてくるようになると、鹿島のサッカーは更に進化出来る。

チャレンジして失敗することは問題ではない。同じプレーを繰り返して相手にハメられるのではなく、自分のプレーをアップデートすることでチームに還元してほしい。

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小池の出場

もうひとつ明るいニュースもあったので触れておこう。

小池裕太の、2019年公式戦初出場だ。

今回はサイドハーフでの起用となったが、鋭い突破も見せてくれたし、エゴを出さずにチームの勝利に貢献しようという姿勢も垣間見えた。↓参照

安部がコパ・アメリカで不在となるこれからの試合では、出場のチャンスが巡ってくるかもしれない。

守備時の立ち位置がやや怪しい雰囲気もあったが、次は攻撃面で得点に絡む活躍を見たい。

MVP

クォン・スンテ!!

前半0-0で終えられたのは間違いなくスンテのプレーがあったから。このゲームのスンテは、勝点2~3に値するプレーを見せてくれた。

神様仏様スンテ様である。

↓前半のスンテが素晴らしかったのでこんなツイートもしてしまった

前半のスンテは素晴らしかったが、GKがあそこまで忙しい試合はもう再現したくない。

ハーフタイムで修正できたことは大きな収穫だが、次は「前半のうちに修正」するような展開も見せてほしい。

 

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