対応しきれなかった湘南式ストーミング【2019年第21節湘南ベルマーレ戦マッチレビュー】

2019年Jリーグ第21節、湘南ベルマーレVS鹿島アントラーズ。マッチレビュー。

試合結果

2-3

【得点】

49分 山崎 凌吾

52分 野田 隆之介

61分 セルジーニョ

73分 伊藤 翔

90分+6 坂 圭祐

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スタメン

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK クォン スンテ

DF 永木亮太 チョン スンヒョン 犬飼智也 小池裕太

MF 三竿健斗 名古新太郎 レアンドロ 白崎凌兵

FW セルジーニョ 土居聖真

ハイライト

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見どころ

このゲームは水曜夜、熱帯夜の埼玉スタジアムでの熱戦から中2日で迎える事になった。

選手の疲労は必須。

このゲーム、私が監督ならばある程度ターンオーバーをして臨みたいゲームだ。それほど夏場の疲労は厳しい。

しかし現状の鹿島の戦力を見渡すと、怪我人も多く、またこの夏に5名の選手がチームを去った。ターンオーバーを敷いた上で勝利を目指せるほどの戦力ではないのが鹿島の現状。

チームの戦力状況を考慮すれば、ターンオーバーをせず、現状考えられるベストメンバーでこのゲームに挑んだ大岩監督の判断は尊重したい。

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試合レビュー

ポジション

▼鹿島を赤紺、湘南を白で表現

ゆっくりゲームを運びたい鹿島とハイペースの湘南

中2日の鹿島と休養抜群の湘南。両チームの思惑は試合序盤から異なっていた。

鹿島は落ち着きながらゲームを進めていきたい。一方の湘南は試合序盤からギアを上げて鹿島の襲いかかった。

鹿島としては、真夏の中二日2連戦の2戦目で当たる相手が、湘南ベルマーレというのは「最悪」とも言える(サガン鳥栖も同じくらい最悪かもしれない)。

湘南が鹿島を苦しめた形については後述するが、湘南は特に前半、鹿島を苦しめた。このゲームは後半にお互いがゴールを奪い合ったが、鹿島は想定よりも前半にエネルギーを使わざるをえなかったに違いない。それほどに前半の湘南のプレッシャーと肉弾戦は苛烈だった。

活発なプレーから湘南は前半に何度もチャンスを作ったが、最後の精度の低さに鹿島は救われた。

湘南式ストーミング

湘南はどのような形で鹿島と戦おうとしたのだろうか?

それは湘南式ストーミングだった。

湘南式ストーミングの内容については3月の前半戦のゲームでも触れた。↓の記事参照。

内田篤人・永木亮太・クォンスンテの3人が見せた「これからの鹿島」【2019年Jリーグ第3節湘南ベルマーレ戦マッチレビュー】

このゲームで実践された湘南式ストーミングの内容は簡単に記載すると以下の形。

  1. DFラインからCFの山﨑をめがけてロングボールを蹴る。
  2. 山﨑は鹿島のCBと競り合う
  3. その競り合いのボールが「こぼれてくるであろう場所」にシャドーがなだれ込んでくる
  4. 更に「シャドーからこぼれてくるであろう場所」に齊藤未月が連動してなだれ込んでくる
  5. WBもシャドーと齊藤未月の動きに連動し高い位置を取る
  6. セカンド回収に失敗したらファウル覚悟で厳しく守備をする

おおよそこのような形。

あくまでシンプルな形だが、鹿島はこの形に苦しめられた。

特にこの日の湘南の優れた点は、ロングボールに精度があった事だ。湘南が蹴るボールは、鹿島のDFラインが簡単には競り勝てないような絶妙な場所に配給された。

鹿島はDFラインを後退させながらのヘディングを強いられるため、強いヘディングでボールを跳ね返せない。その繰り返しで、チーム全体のポジションを下げざるをえない状態にさせられた。

1失点目もまさにこの形。

山崎が競り、シャドーの二人がセカンドボールを拾う。(この時、湘南はシャドーの二人がどちらもボールを拾える位置にいたのがポイントだ)そこから高い位置を取った左のWBに預け、クロスに飛び込んでいく。

2失点目も近い形。

いずれも、湘南としてはまさしく狙い通りの展開だろう。鹿島としては、湘南のストームに巻き込まれる形となってしまった。

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湘南式ストーミングに対応するにはどうすれば良かったのか

この日の鹿島は湘南式ストーミングの餌食となってしまった。鹿島はどのような戦い方をするべきだっただろうか。

それは鹿島が湘南のDFラインにプレスをかける必要があった。

この日の鹿島は前線からプレスにいかず、2トップは湘南のボランチ2枚へのパスコースを消す役割に留まった。そのため、湘南のDFラインはフリーで精度の高いボールを鹿島のDFラインに送り込む事が出来た。

後半終了間際の上田綺世のように、ロングボールの配給元にプレスをかける事で、ストーミングのリズムを崩せたはずだ。

しかしこの日の鹿島はその手を打つことは”出来なかった”。

冒頭の話に戻るが、鹿島はこの日ターンオーバーを敷くことが出来なかった。この日の土居・セルジーニョの疲労度で、前線からのプレスを強いる事は難しいのだ。

鹿島の「戻る力」と湘南の「出ていく力」

また、苦しめられた前半では、両チームに明確な差が生まれていた。

鹿島は湘南のロングボールによって、後ろ向き(鹿島ゴール方向)に走る場面が増えた。一方、湘南は逆に前向き(鹿島ゴール方向)に走る場面が多い。

「鹿島の戻る力」と「湘南の出ていく力」にはエネルギーの差があり、そこを埋めるのは中々簡単ではなかった。

走り始める場所と時間が同じで、走力に差があるという事は、数的優位を作られるという事と同義でもある。

鹿島は各所に「エネルギーの差から生まれる数的優位」を作られながら、ゲームを優位に運ばれた。

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潰される土居とセルジーニョ

このゲームでは珍しく、土居とセルジーニョがボールをキープできなかった。この二人が最近の鹿島の攻撃のリズムを作っている事は間違いないのだが、このゲームではそのリズムを鹿島は掴み切る事が出来なかった。

潰し役として鹿島の前に立ちはだかったのは齊藤未月と金子。

特に齊藤未月は鹿島にとって厄介な存在だった。

土居とセルジーニョがボールをキープする時、Jリーグでボールを奪われる事は殆ど無い。しかし、この日は珍しくボールをロストするシーンやファウルで止められるシーンが見受けられた。

特に齊藤未月は土居・セルジーニョが「DFラインと中盤の間で、後ろ向きでボールをキープする」というシーンになると、勢いを持ってボールを狩りに来た。

中二日で疲労の色が濃い土居は、いつものコンディションならヒラリと齊藤未月をかわせたかもしれないが、このゲームではほぼ完璧に捕まってしまった。

鹿島は攻撃のリズムを掴み切る事が出来なかった。

「鹿島の弱み」ではなく「湘南スタイル」を優先したチョウ・キジェ

前節のレッズ戦の鹿島を見て、湘南はレアンドロの守備(鹿島の右サイド)を集中的に狙ってくるかと思ったが、そうではなかった。

あくまで湘南スタイルを優先し、自分たちの強みを出す事を優先してきた。

これは湘南らしさとも言えるのかもしれない。

浦和と湘南は、フォーメーションが同じ。なので、水曜日の浦和のように左CBを中心にゲームを組み立てると、レアンドロの立ち位置の不安定さから鹿島は崩れやすいはずだ。

しかし湘南はそこを集中的に狙うことはせず、あくまで湘南のスタイルを貫いたように見えた。

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湘南の運動量の低下と山本の投入

鹿島は後半にゲームの流れを掴み始める事が出来た。

その大きな要因は2つあった。湘南の運動量の低下と、山本の投入が契機だった。

湘南の運動量の低下は、解説の戸田氏を指摘していた通り、「湘南の守備のスタート位置」が段々と下がってきた事に起因している。

鹿島のビルドアップがゲーム中に進化したわけではなく、相手の動き方によって流れがこちらに来たイメージだ。

山本の投入も鹿島に流れを引き寄せた。

湘南のプレスの前に、ビルドアップで苦しんでいた鹿島にとって、「プレスの逃げ所」として山本へのロングボールが有効だった。

  1. 湘南が鹿島のDFラインにプレスをかける
  2. 鹿島はロングボールを選択
  3. 鹿島のロングボールがことごとく跳ね返される。

山本投入までは、このようなゲーム展開だった。

そのロングボールの出し先を、高い位置に位置取る山本脩斗に変える事で、山本の「高さのミスマッチ」を活かして相手陣地でボールをキープすることが出来た。

MIP

山本脩斗。

鹿島の反撃のきっかけを作る事が出来た。空中戦の強さは健在で、更に攻撃時のポジションの高さで湘南の右サイドを押し込む事が出来た。

小池も良い選手ではあるが、”ポジショニング”に関しては攻守において山本に一日の長がある事を再認識した。

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