【2018ACL水原三星戦2ndLeg】試合分析と采配分析

2018ACL準決勝1stLeg 鹿島アントラーズVS水原三星マッチレビュー

スタメン

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK クォンスンテ

DF 西大伍 チョンスンヒョン 昌子源 山本脩斗

MF 三竿健斗 レオシルバ 安西幸輝 土居聖真

FW セルジーニョ 鈴木優磨

まず1stLegの結果を思い出そう。ホームで2点を先制された鹿島が3点を奪い返して勝利したのが1stLegだった。この2ndLegでの目的は「決勝に進出すること」。このゲームに勝つことは目的ではない。0-0でも良いし、3-4の敗戦でも構わない。勝ち抜ければOKだ。鹿島にとって最も避けたい展開は「ゴールを奪われ、且つゴールを奪えないこと」。この前提が戦略を策定する上では重要になる。

その上で、このスタメン選定は納得だった。唯一気にかかるところとしては、昌子→犬飼でも良かったかもしれないということ。ACLの決勝Tは、準々決勝から犬飼-スンヒョンのCBコンビで3連勝中だ。ここで怪我明けの昌子を起用するのは、リスクともいえる。前の試合の浦和戦でも昌子は本来のパフォーマンスではなかったという懸念もある。

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2nLegの難しさ

このゲームは点差や展開によって自分たちのするべきことが変わる難しい試合だ。0-0の時、1-0の時、1-1-の時、1-2の時、それぞれの状況でチームの意図は変わっていく。大事なのは「意思を統一すること」だ。ヨーロッパのチャンピオンズリーグでは、2ndLegでの大逆転が起こるケースが頻繁にみられる。それは1stLegで負けたチームの方が意思を統一しやすく、1stLegで勝ったチームは点差によって意思を統一しにくいという点が影響しているだろうと私は考える。

どんな状況になろうと「意思を統一すること」だけは貫いてほしい。

試合分析

試合を分析していこう。

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狙い通りの前半

前半は鹿島にとって狙い通りといえる展開だった。水原のフォーメーションであるオーソドックスな4-3-3を敷くチームで、1stLeg同様にDFラインからパスを繋ぐポゼッション型のサッカーを志向するチームだ。水原の選手は攻撃時に自分のポジションを飛び出すような動きをする選手はおらず、鹿島はゾーンで守っていれば与しやすい前半だった。鹿島はゾーンで守るが、レオはいつも通りチャンスとあらば自分のゾーンを飛び出してボールを狩りに行く。そこはボランチの相方が三竿の時は上手く機能することが多い。つまり鹿島の守り方は簡単に言うと「いつも通り」だった。

フォーメーションの嚙み合わせ

前半における水原の4-3-3と鹿島の4-4-2の構造を考えてみよう。相手CFをCBが、相手WGをサイドバックが、相手CMFをボランチが、相手SBをサイドハーフがそれぞれ見るという形を保持し続ければ、鹿島のCBが1枚余る形になる。相手CBとアンカーの場所では相手が1枚浮く形になるが、そこは許容しても問題ないだろう。後ろで回される分にはOKだ。

水原側から考えれば、この均衡を破るには「追い越す動き」を果敢にチャレンジするのが常套手段だ。サイドバックがガンガンWGを追い越してくるような、あるいはCMFが最前線に飛び出してくるような動きだ。しかし、水原は先制された後も、前半はそのような動きは見せなかった。

優磨とセルジーニョの質的優位

鹿島は前半を優位に進めた。その大きな要因が優磨とセルジーニョの質的優位だ。基本的には鹿島はボールを保持され、攻め込まれる展開が多い。ボールを奪える位置も自陣深くになることが多い。下手に前線へのパスを奪われると波状攻撃を仕掛けられてしまうような状況だった。

それでも鹿島が不利にならなかったのは、自陣深くからのパスを優磨とセルジーニョが必ず収め、鹿島の陣地を回復してくれたからだ。優磨・セルジーニョが相手陣地深くまでボールを運んでくれるから、守備は立て直すことが出来る。水原は波状攻撃を仕掛けることができなかった。

ドイツ語で言うならばツヴァイカンプ(1対1の競り合い)。ブンデスリーガで重視されているという指標だ。優磨とセルジーニョは、水原DFの強烈なプレッシャーに負けることなく、「最低でもファウル、あわよくば自分で前を向いて運ぶ」というプレーを繰り返した。

事実、鹿島の1点目のFKに繋がったファウルは、優磨の質的優位が生み出した。

このようなゲームにおいては、ゴールを奪うだけがFWの仕事ではない。優磨とセルジーニョは、立派に「このゲームにおけるFWの仕事」をこなしてくれた。相手チームを自陣ゴールから遠ざけることも十分立派なFWの仕事だ。

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怒涛の後半

後半に入り、水原がフォーメーションを変えた。4-3-3から4-4-2にシフトし、前線にFWの9番を投入した。

前半は水原がアンカー&CBの場所で人数を余らせていたが、その「余り」を前線に回して、代わりに鹿島のCBの「余り」を無くしにかかった。同時に、攻撃の組み立て方に「ロングボール」を追加して揺さぶりにかかる。

対応できなかった鹿島の後半15分間

水原は、正確には4-4-2というよりは4-2-4で前線に4枚を張らせるようなポジションを取った。これに鹿島のDFは混乱した。このような形だ。

前線の4枚が外に張り出したり中に入ったり、鹿島のDFを揺さぶった。この4人はクロスに対してもボックスに積極的に入っていく。相手サイドバックはボックスに人数が揃っているのでシンプルにクロスを選択。

つまり、スンヒョン-昌子のゾーンに2人~3人、時には4人が入ってくるような形を取り、ゾーンで守ろうとする鹿島は混乱してしまった。

山本・西はさらにぎゅっと中に絞る。三竿はCB前のスペースをケア。サイドバックのポジションはサイドハーフが助ける。というような守備の連動が必要な後半の15分だった。

スンヒョン・昌子といえど1人で2人以上を相手にするのは不可能だ。チームとして彼らを助けてあげなければいけない時間帯だった。

流れを変えた西とセルジーニョの技術

このゲームで最も重要だったのは64分の西のゴールだ。ここではゴールそのものよりも、ゴールにつながるまでの過程に注目したい。ゴールにつながるまでの流れは以下だ。

  • 相手陣地深くからのスローイン(鹿島の右サイド)から三竿がボール奪取。
  • 右サイドの西・土居・セルジーニョがボールを回し、水原の激しいプレッシャーをかいくぐる
  • セルジーニョが右サイドでボールをキープし、左サイドの山本に展開。
  • 山本は安西にヘディングでフリック
  • 安西がクロスを上げ、逆サイドで待ってた西がゴール

このプレーにおける、西とセルジーニョのプレーに注目したい。

これは右サイドの西に水原の選手が猛烈にプレッシャーをかけているところ。画像でみても分かるように、西は驚くほど落ち着いている。

かなり狭いスペースだが、土居とパス交換をして19番と23番を外す。そしてセルジーニョにパス。

その後、セルジーニョが1対1を制して左サイドに展開しようとしているシーン。この一連の守備で水原の選手は5人を密集させてボールを奪いにいったが、西とセルジーニョの「技術」の前に外されることになる。

もちろん、水原はここに5人を集結させているので、逆サイドはがら空きだ。ここを「技術」で打開できたことが、ゴールへの布石となった。

この後、さらに鹿島は優磨のポストワークからセルジーニョが劇的な決勝ゴールを決めることとなった。

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采配はどうだった?

1.安西→永木

この交代は、いささか理解できなかった。安西が怪我したとはいえ、この時点での状況は2-3(トータルスコアイーブン)だった。この状況において鹿島が打つべき手は守りではなく攻撃だ。

  • 延長戦になればアウェイゴールの適用はなくなる
  • 鹿島にとって次の1点は1.5点の価値を持つ(アウェイゴールにより、4点目を取られても勝てる)
  • 仮に失点してしまったとしても、1点を取れば勝てる
  • 過密日程の中で延長戦、しかもアウェイでは勝率が低くなると想定できる

つまり、失点のリスクよりも得点のメリットが大きい状況だった。そうであれば、最近好調さを見せていた山口の投入が妥当だったはずだ。結果的にはこの後に逆転に繋がったが、攻撃がストロングポイントでない永木をこのタイミングで投入した意図は分かりかねる。

2.土居→犬飼

これは良い交代だった。得点後にすぐにアクションした点も素晴らしかった。犬飼を入れることで相手のFWの枚数に対してCB1枚を余らせることが出来る。チームの意思を「守備」に統一する意味でも効果的だ。

3.セルジーニョ→小笠原

これも素晴らしい交代だった。時間稼ぎとしての効果しか持たない交代ではある。しかし、ずっと鹿島を応援してきた人間ならば、この舞台に小笠原が出場することの意味を理解してもらえるだろう。中田浩二の「羨ましい」というコメントも秀逸であった。

小笠原は自分一人のためにピッチに立つのではない。曽ヶ端の気持ちも、中田浩二の気持ちも、本山の気持ちも背負ってピッチに立つのだ。

MVP

クォン・スンテとセルジーニョの両名にあげたい。

スンテは韓国国内で批判に晒されたと聞く。母国のピッチで聞くブーイングは辛いものもあったと思うが、最後の最後まで鹿島のキーパーとして素晴らしいセービングを見せてくれた。

セルジーニョは言わずもがな。技術が圧倒的だった。まだ23歳なのに、精神面の成熟度も感じられる。本当に素晴らしい助っ人を獲得した。

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