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2019年の大岩剛監督が克服すべき課題

鹿島アントラーズ大岩剛監督の2019シーズン続投が正式に発表された。前回の記事では、大岩監督を実績面から考察した(こちらを参照)。前回の記事で「采配や戦術的な側面から見る大岩監督の手腕に対して懐疑的」と記載したが、今回の記事ではその「戦術・采配面」の「懐疑的」な内容を掘り下げて書きたい。

この記事は決して大岩監督を批判する目的で書くわけではない。まずは現時点の大岩監督に足りていないと感じている課題を明文化したい。明文化することによって、今シーズンは改善されるのか、敢えて変えないのか(あるいは課題とは感じていないのか)、それによってチームの成績が好転したか、しなかったか。はじめて検証や批判が出来ると考えている。

※もちろん大岩監督の戦術的に良いポイントもあると思ってるが、この記事では言及しません。ごめんなさい。また、一口に「大岩監督」と書いていますが、大岩監督個人のみを指すわけではなく「大岩監督を始めとする鹿島コーチングスタッフ」と捉えてもらいたいです。

戦術面の課題

まずは戦術的な面から大岩監督の鹿島アントラーズを掘り下げたい。

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ビルドアップのプレー原則

大岩監督の戦術的な課題の 一つとして、「ビルドアップ」が挙げられる。ここで言うビルドアップとはピッチを横に3分割し、自陣側の3分の1をゾーン1、真ん中の3分の1をゾーン2、最も相手ゴールに近い3分の1をゾーン3とした時に「ゾーン1からゾーン2にボールを運ぶ方法」と解釈してもらいたい。

(↑左から右に攻撃している場合)

このゾーン1から2へのボールの運び方に、大岩監督の鹿島は課題を持っていた。

GK+4枚のDF+ボランチで相手より数的優位を作り、ビルドアップを組み立てていくのが基本ではあるが、鹿島は相手のプレスが厳しい時やメンバーが変わった時にビルドアップが機能せず、ボールを蹴り出してしまったり奪われたりするケースが散見された。2018シーズンの鹿島の主なビルドアップの方法は以下だ。

  1. FWに当てて収めてもらう(=ビルドアップを飛ばす)
  2. レオ・シルバに預けて強引にボールを運ぶ
  3. 右サイドの西大伍-遠藤康のコンビネーションで相手のプレスを外し、ボールを運ぶ
  4. 三竿健斗がCBの間に降りて疑似3バックで運ぶ

1.FWに当てて収めてもらう(=ビルドアップを飛ばす)

1つ目は、ビルドアップをすっ飛ばして縦パスを入れてFWに当てるパターン。2018シーズンは優磨とセルジーニョが、対峙する相手CBより質的優位な場面が多かったので、これで何とかなる試合が多かった。しかし、FWが質的優位ではない試合では攻撃の形が作れなかった。ルヴァンカップの横浜Fマリノス戦で、相手の屈強な2名のCBを相手に苦労し、敗退した試合などが思い出される。あるいは優磨とセルジーニョ以外の選手の2トップになった場合は攻撃の形をつくるのに苦労した。

2.レオ・シルバに預けて強引にボールを運ぶ

ボランチの1枚がレオ・シルバであればゾーン2(ミドルサード)まで運べるシーンは多かった。それはレオが相手を1枚背負ってでも振り向ける、あるいは難なくプレー出来てしまうから。しかし、ボランチがレオでない場合はビルドアップの拠り所を失ってしまうケースが散見された。また、相手はこのビルドアップの特徴をスカウティングし、レオにプレスをかけて狙ってくるチームもあった。レオが逆に弱点となってしまう試合は、ここを狙われた形だ。

3.右サイドの西大伍-遠藤康のコンビネーションで相手のプレスを外し、ボールを運ぶ

このケースは鹿島のお家芸だ。相手のプレッシングが激しくとも、西大伍はタイミングを操って相手を外すことが出来るし、遠藤は相手を背負って時間を作ることが出来る。これは数年前から鹿島のストロングポイントでもあるボールの運び方だ。

一方でこれら3つのケースが「ハマらない試合」というのは必ず存在する。そんな時、大岩監督の鹿島アントラーズはビルドアップに苦労する。FWに優磨がおらず、レオは徹底マークされ、西は欠場している。そんな試合は少なくない。

そこで光明を見いだせそうなのは、次のパターンだ。

4.三竿健斗がCBの間に降りて疑似3バックで運ぶ

これは大岩監督の指示なのか、三竿健斗の判断なのかは判別しにくいが、三竿健斗がCBの間に降りて疑似3バックで運ぶ形も何度か見られた。個人的には、これをビルドアップの一つのパターンとして、三竿健斗が試合に出てなくてもチームに組み込んでほしいと思う。

(ここからは私の妄想)ボランチがCBの間に降りて一時的に3バックの形を敷きつつ、鹿島のストロングポイントであるサイドバックは大外に位置取りさせる。その代わりにサイドハーフがハーフスペースに位置取り、CBのパスコースの選択肢の一つとなる。以下のようなイメージ。

今の鹿島のサイドハーフは、外でアイソレーションをさせるようなドリブラータイプも少ないので、むしろハーフスペースで相手の「間」で受けさせたほうが役割として適正がある。恐らく安部や中村充孝、遠藤康はハーフスペースで抜群の働きが出来る選手たちだ。

後ろは3枚+GKがいるので、基本的には数的優位を作りやすく、もし相手の中盤の守備の状態が良ければ無理に前に入れないで後ろの3枚+GKでボールを回せばいい。やり直しが効きやすい。スンテは足下も上手いので難なく適応出来るだろう。もちろんビルドアップの全てをこの形にする必要は無く、相手の前線の枚数やプレッシングの形に応じて使い分けてほしい。(妄想終わり)

ゾーン3(アタッキングサード)の再現性

アタッキングサードの「再現性」も大岩監督の戦術的課題と言える。鹿島はアタッキングサードの攻撃を、サイドからのクロス一辺倒、あるいは優磨の1対1西大伍のアイディア経由での崩しに依存しているケースが多い。あとは選手間のコンビネーションによって生まれたゴールもあったが、「再現性があるか」と問うと、首を縦に振れない。ここでも大岩監督のアントラーズの戦術に属人的な要素が強いのは否めない。

なぜ「再現性」という言葉を使うかというと、アタッキングサードでは「再現性のあるパターン」をチームがいくつ持っているか、がチャンスクリエイトの数と直結するからだ。カップ戦なら話は別だが、長いリーグ戦のタイトルは、再現性なしに語ることは出来ない。

例えばチームにカイオがいれば、「左サイドでカイオにアイソレーションをさせる」を一つのパターンにしても良いだろう。しかし、それだけでは相手はカイオのアイソレーションだけケアしておけば怖くない。相手DFがケアしてくるパターンも想定し、「相手がどのようなDFの対応をしたところで、カバーしきれないパターンを持つ」というのが理想だ。それをやっているのがグアルディオラのマンチェスター・シティだと思う。

将棋の「詰み」を作る感覚と近い。

外のアイソレーションを警戒されたら一つ内側のハーフスペースを使う選手が必ずいる。ハーフスペースもケアされた時はバイタルエリアが空くはずだからボランチが前に出て使う。そこも逆サイドの選手が絞って埋めてきたら、逆サイドにボールを振ればドフリーの味方選手がいる。例えばこのような形。アイソレーションを警戒されなかったらそのまま勝負してしまえばいいし、ハーフスペースをケアされなかったらハーフスペースを侵略してしまえばいい。ここまでやって、ようやく「詰み」に少しだけ近づく。

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戦術の属人性

上記2つに挙げたように、大岩監督の戦術的な課題の共通項は「属人的であること」

もちろん、チームのストロングポイントが属人的になることはあるし、むしろ質的優位は存分に活かすのが戦術の鉄則ではある。しかし、このやり方では「特定のメンバーが出ていないと勝てない」というチームになる。つまり、4冠は取れないということになる(昨年のACLのように特定のコンペティションに絞れば勝てるかもしれない)。

チームの全員が優磨や西大伍のような質的優位性を現時点で持っているわけではない。

おそらく大岩監督が固定メンバーで戦うことに拘った理由がここにあると私は思っている。今のやり方では、ビルドアップを支える特定のメンバーを休ませると、チームの弱点が露呈してしまうし、優磨や西大伍を休ませるとアタッキングサードの脅威が半減してしまう。

プレッシングの型

鹿島はプレッシングの型もレベルアップできる課題だと思っている。特に、優磨が前線からプレッシングをかけた時、かなり相手の選択肢を限定しているにも関わらずボールを刈り取れない場面が多かった。

優磨はプレッシングが相当上手い選手だと思う。「上手い」というのは、対面のDFがビルドアップする時に優磨自身が奪えるという意味ではなく、「コースを限定出来る」という意味だ。

優磨がいるうちに、優磨のプレッシングを鹿島の型の一つとしてしまい、他のFWでも再現出来るようになれば大きな武器となる。そしてチーム全体としても、FWがプレッシングに走った時は前がかりになってボールを奪いに行く形を作って欲しい。

ここまでの課題で述べたように攻撃面(特に遅攻)で課題を持つ鹿島は、ショートカウンターに活路を見出す方が効率的とも言える。

采配面の課題

次は采配面の課題について。

固定メンバー起用の傾向

大岩監督は、固定メンバーで戦う傾向があった。これは恐らく、上記の戦術的な影響によるものが大きい。メンバーを変えてしまうと、属人的に成立していた鹿島の強みが無くなり、勝率が大きく下がると大岩監督は考えているのではないかと思う。

もちろん固定メンバーで戦うメリットがあることも事実。しかし、鹿島が全てのタイトルを奪いに行くならば、固定メンバーで殺人的なスケジュールをこなすには限界がある。昨シーズンは本当に追い込まれた試合のみ(セレッソ戦や柏レイソル戦)で大胆なターンオーバーを敷いたが、特定のコンペティションでは勇気を持って若い選手たちに出場機会を与えるべきだったと思う。

2018年はサポーターからの期待が大きい山口や町田などに出場機会が少なかった。2019シーズンは更にユースから2選手・関川・名古・平戸と期待の若手がチームに加わる。彼らが鹿島の未来を背負う選手たちであることは明白で、鹿島としてもそのようにしていかなければいけない。ユース上がり・高卒・大卒で鹿島に来た選手たちに結果を出させ、日本代表に導き、それがクラブのブランドに繋がり、また良い若手選手が鹿島を選ぶ。このサイクルを途切れさせてはいけない。

監督という職業は、「今シーズンの成績」と「若手選手の育成」というダブルスタンダードを求められる、酷な職業だと思う。クオリティの基準を満たさない若手を使えとは思わないが、先ほど述べた2人の選手などは、レギュラーメンバーと比較しても光るものを持っている選手たちだ。もっと出場機会を増やしても良いのではないかと思う。

采配のワンパターン化

大岩監督は采配がワンパターン化している傾向がある。つまり、対戦相手の監督からすれば「想定内の手」を「想定通りの時間」にしか打ってこない監督と言える。

負けてれば60分過ぎにサイドで安西を使い、75分くらいにレアンドロを出す。勝ってれば80分過ぎに中盤に永木を入れて、90分には時間稼ぎに金森を入れる。例えばこんな感じだ。もちろん、スタメン・ベンチの状況にもよるが、多くの采配が「読めてしまう」。

サッカーというスポーツが相手ありきのものである以上、最適な手や駒、それを打つ時間はその試合ごとに異なるはずだ。

大岩監督が後半開始直後から動くことは殆どないし、2枚替え・3枚替えでゲームの流れを変えようとすることも少ない。

ワンパターン采配でも勝ち続けられるのであれば、「勝利の方程式」のような形で心理的にプラスにも働くだろうが、2018年にそのような状況になっていたかというと、そうではなかった。

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時折感じる采配の「迷い」

大岩監督の采配に、時折「迷い」を感じることがあった。それは主に負けている場面でしばしば起こる。

例えば天皇杯の浦和レッズ戦。負けている状況で、遠藤に替えて小田を出し、右SBだった安西を右サイドハーフへスライド。その後に山本に替えて山口を出し、安西は左SBに移る。これは「迷い」の最たる例。始めから山本に替えて小田、遠藤に替えて山口の2枚替えで良い。ポジションチェンジと交代の時間が無駄だ。

また2018年のJリーグ第1節。左SBで先発させた安西を、途中から左サイドハーフ、最後には右SBにするという事もあった。選手の立場から言えば、1試合で対応できるポジションは多くて2つだろう。アジャストするだけで、活躍する前に試合が終わってしまう。

負けている時こそ堂々と、勇敢に采配を振るってほしい。監督の迷いはピッチにも観客にも伝染する。

まとめ

今回は私が思う大岩監督の課題を書き連ねた。戦術の面では、特に攻撃のプレー原則や再現性に課題があり、采配の面では保守的でワンパターンの采配に課題があると私は考えている。

とはいえ、采配の面での課題は、実は戦術面の課題と密接に結びついていると思う。

戦術が属人的になるのではなく、プレー原則や再現性にある程度の自信があるのであれば、采配も積極的に行えるはずだ。特定の選手に頼るのではなく、「誰が出ても一定の再現性」+αで個性や個人技が乗っかる。という所まで鹿島を持っていってほしい。選手の質的優位にあぐらをかいているうちは、4冠は勝ち取れない。

おそらくそれが出来たなら、鹿島アントラーズの選手は輝きを増すだろうし、控えの選手たちの目の輝きも変わってくるだろう。大岩監督や今年のアントラーズの、更なるレベルアップに期待したい。

 

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