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杉本太郎という才能【鹿島から松本山雅FCへの移籍に寄せて】

ヴォルティス徳島にレンタル移籍していた杉本太郎の松本山雅FCへの完全移籍が発表された。私は杉本太郎という才能が大好きだった。杉本太郎のプレーが好きなので、鹿島から離れた後も徳島ヴォルティスの試合を見ていた。改めて、杉本太郎という選手について書いておきたい。

一目惚れした杉本太郎のプレー

私が杉本太郎のプレーを見たのは2012年のAFC U-16選手権だっただろうか。とてもインパクトのあるプレーだった。当時はグアルディオラのバルセロナが覇権を握っていた時代で、メッシがファルソ9(偽9番)が世界にインパクトを与えたような時代だったと思う。そう、ユーロ2012年をスペイン代表が連覇で優勝した時代だ。「ティキ・タカ」が世界を席巻していた。

これらの事象と、初めて見た杉本太郎を関連付けて私は記憶した。

なぜか。杉本太郎は、「ティキ・タカ」に打って付けの選手だなぁと思ったからだ。

確かなボールコントロールの技術。すっと背筋が伸びた視野の良い姿勢。球離れの良いプレーと、連続性を持った受ける動き。間隙を縫うゴール前でのポジショニング。インパクトの上手いキック。背丈こそ無いが、当時のスペイン代表のようにボールを地上で操るならば全く問題ない。

こんな選手が鹿島に来てくれるんだ。大迫頼みだった鹿島のサッカーを変えられる選手になるかもしれない。彼が本山雅志や野沢拓也と一緒にプレーするのを想像するだけで、ワクワクが止まらなかった。当時高校生の杉本太郎を見た私は、そう思った。

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杉本太郎の境遇

鹿島としても期待が大きい選手だったはずだ。2012年の新体制発表では、カイオや赤崎・山本脩斗と同じ新加入組の中で、センターポジション(社長の隣)で迎えられたのを覚えている。しかし、杉本太郎は期待通りには活躍出来なかった。

杉本太郎と鹿島の選手たち

一足先に頭角を現したのが同期入団のカイオ。彼は鹿島でのポジションが杉本太郎と被っていた。カイオは杉本どころか、全ての選手を押しのけて、瞬く間にレギュラーポジションを確保。カイオはご存知の通り「モノが違う」選手なので、杉本は少々運が悪かったと言わざるを得ない。

また、私が期待した本山雅志・野沢拓也との化学反応も実現することは無かった。杉本が来る前に野沢は去ってしまい、本山は出番を減らしている時期&杉本は出番を掴めなかった時期が重なってしまった。

もちろんタラレバは意味がないが、杉本の入団が何年か前、あるいは何年か後であれば状況は異なっていたのかもしれない。

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鹿島のサッカーと杉本太郎が活きるサッカー

ここが個人的には大きなポイントだと思う。当時の鹿島のサッカーと、杉本太郎が活きるサッカーに、相容れないポイントが2つあったと思っている。「ポジション」「距離感」だ。

ポジション

鹿島で杉本太郎に与えられた役割はサイドハーフ。本来、杉本は中央でボールを受けて、捌いて、動き直して、が得意な選手だ。それは土居がサイドより中央の方が活きるのと意味としては近い。

技術はあるがフィジカルで優位性を持たない選手は、サイドでボールを受けた時の「逃げ場」や「選択肢」が180度しかない。中央ならば360度。特に杉本のように視野が確保できる選手は、中央でボールを受けた方がむしろボールロストの確率は低くなる。

鹿島時代、杉本が中央でポジションを与えられることは多くなかった。

距離感

杉本太郎は、味方との距離感が近い方が活きるタイプだ。ショートパスの連続性の中で最も持ち味を発揮する。だからこそ、本山雅志とのプレーをたくさん見たかった。それは本山の得意なプレーだからだ。

しかし、当時の鹿島の攻撃時の選手間の距離はやや遠い状況が多かった。広大なスペースの中で1人で運べるカイオや、1人で相手を背負ってキープできる遠藤康が重宝された。単騎での突進が得意なダヴィがいたなどの理由もあるだろう。

「得意な味方との距離感」というのは選手それぞれで異なっていて、「遠い距離感」が得意な選手で顕著なのがダヴィやペドロ・ジュニオール、金崎夢生。フィジカルで優位性を作れる彼らに対して、味方選手はあまりサポートに近寄らずに広大なスペースを作ってあげて勝負させたほうが良い。

「近い距離感」が得意なのは西大伍や本山雅志、中村充孝や杉本太郎。止める、蹴る、動く、という連続性で相手を崩すことが得意。彼らは常に連動してサポートし合うのが良い。

もちろん、この2つはどちらが良い悪いではない。選手の特性の問題だ。

この観点から見ても、杉本と当時の鹿島のサッカーとの相性の悪さやタイミングの不運さは否めない。

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杉本太郎の未来

今回の移籍により、杉本太郎は鹿島とは異なる道を歩むことになった。この移籍は西大伍の移籍とは異なり、推測ではあるが「鹿島が杉本太郎との契約延長を選択しなかった」と考えられる。

もし鹿島側に取捨選択の権利があったのなら、杉本をここで手放すのはもったいないと私は思う。まだ若く、志向するサッカーによっては大活躍できるポテンシャルのある選手だ。もちろん杉本のためにサッカーを設計する必要は無いが、中村充孝や土居聖真、安部裕葵、久保田和音など、今の鹿島は杉本と「距離感の相性」が良い選手が多い。

アタッキングサードの崩しに課題を持っている鹿島ならば、彼らのリズムを活用する方法も検討してほしかった所だ。

とはいえ、もう鹿島で杉本のプレーを見ることは無いだろう。彼のプレーに魅了された、いちサッカーフリークとして杉本太郎の明るい未来を願っている。まだまだやれる選手だ。

 

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