鹿島アントラーズが画策するカシマスタジアムの座席数減少とマーケティングの話

鹿島アントラーズの鈴木秀樹取締役事業部長が、カシマスタジアムの座席数を減らしたいと話した記事が出た。ソースは東洋経済ONLINE。

今回はこちらの記事について考えたい。

座席数を減らす必要性について

まず、なぜ座席数を減らす必要があるのか。改めて考えたい。

私は座席数を減らすことに賛成だ。

現状のカシマスタジアムは、収容率があまりに低すぎる。鹿島アントラーズ主催の試合における収容率は、ここ10年は年間平均45%~60%程度をウロウロしている。

これは以前にの記事にも書いたが、この収容率ではダイナミックプライシングを導入することが難しい。詳しくはこちら↓を参照。

ヴィッセル神戸のダイナミックプライシングと鹿島アントラーズ

現状のカシマスタジアムは、「半分が空席」というのがスタンダードになってしまっている。これはエンターテイメントにおける顧客満足度を考えれば致命的だ。需要と供給のバランスも圧倒的に悪い。

また、この空席はファンやサポーターを「いつでもチケットを購入出来る」という心理状態にさせる点でも良くない。

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空席が多い場合のチケットを買う顧客の心理

1.空席のカシマスタジアムばかりを見る。

2.見に行きたい試合のチケットが販売されても、購入は保留しておく。なぜなら、チケットが売り切れない事を知っているから。

(天気が悪くなるかもしれないし、自分の都合が悪くなるかもしれない。直前に買うのが最も顧客にとって賢い選択になる)

3.購入を保留した人は、チケットを買うかもしれないし、買わないかもしれない。天気次第や順位次第、あるいは内田篤人等の人気選手の出場見込み次第になる。不確定な顧客となる。

スタジアムに空席が多いというのは、マーケティング的に大きなマイナスだ。

満席の場合のチケットを買う顧客の心理

逆に、座席数を減らして空席を減らした場合を考えてみよう。

1.満員のスタジアムをテレビ、あるいはスタジアムで目撃する。

2.見に行きたい試合のチケットが販売された場合、とりあえずチケットを確保しておく。

(自分の都合は悪くなるかもしれないが、「見に行きたいけどチケット売り切れで見に行けない」という損をしたくないから。そしてチケットが売り切れることを知っているので、仮に都合が悪くなったとしても、チケットの譲り先がすぐに見つかることを本能的に理解する。購入へのハードルが下がる。

3.いったんチケットを購入してもらえれば、仮に購入者がスタジアムに来ようが来まいが、あるいは転売されようが、鹿島アントラーズの売上に変化は無い。得るべき売上(利益)を得ることが出来る。

4.チケット争奪戦に飽き飽きし、完売を恐れるサポーターは年間チケットを購入するようになる。鹿島アントラーズにとっては安定的なチケット収入の実現につながる。

これが座席数を減らすことによるメリットだ。顧客の心理状態としては、「2」で「チケットの譲り先がすぐに見つかる」という安心感が更にチケット購入へのハードルを下げる。顧客の間ではよく転売を問題視する人がいるが、事業主側やビジネスとしては転売は大した問題ではない。チケットが売り切れることがまず第一だ。

また、ターゲットの顧客の絶対数が同じだったとしても、後者(座席数を減らした場合)の方がチケットは売れやすくなる。

チケット完売の試合が増えた時、鹿島アントラーズはようやくダイナミックプライシングを導入できる。(需要の多い試合では)チケットの値段を釣り上げ、更に利益を増やすことが出来る。

カシマスタジアムに来る人の絶対数が仮に変わらないとしても、座席数(あるいは空席)は少ない方が儲かりやすい。

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交通の便の問題

また、カシマスタジアムは交通の便にも問題を抱えている。観客数が増えた試合では、東京に帰るバスに観客が乗り切れなかったという話も何度か聞いたことがある。このような試合ではスタジアム周辺の渋滞も酷くなる。

カシマスタジアムは現状4万人のキャパシティに耐えうる交通の利便性ではないため、座席数を減らすことで交通面でのメリット期待来るだろう。

カシマスタジアムの座席数は25,000が妥当か

鈴木秀樹取締役事業部長の話によれば、カシマスタジアムの座席数を25,000まで落としたいとのことだ。

この数字はどのように考えるべきだろうか。

ちなみに25,000名収容の規模感は、サガン鳥栖の駅前不動産スタジアムが最も近い。駅前不動産スタジアムは24,130 人収容で、ほぼ同じだ。ヴィッセル神戸のノエビアスタジアム神戸が28,425 人収容なので、ノエビアよりも少し小さいくらいだろう。

鹿島アントラーズのホームゲーム入場者数の平均

鹿島のホームゲーム入場者数平均は過去最高でも2001年の22,000人。ここ10年のホームゲーム入場者数平均は2万人を下回ることが多かった。これを見ると、25,000人のスタジアムでも充分に見える。

2018年で2万5000人を上回った試合

気になるのは、2万5000人を上回る入場者数の試合がどれだけあったかという事だ。2018年の試合を見てみよう。

  • 5/5 浦和レッズ戦 33,647人
  • 10/7 川崎フロンターレ戦 31,798人
  • 11/3 ペルセポリス戦 35,022人

2万5000人を上回る入場者数を記録したのは、2018年はこの3試合だけだった。

記憶に新しいのはACL決勝だろう。この試合の声援、手拍子は鳥肌ものだった。動画をYouTubeにUPされていた方がいたので紹介させていただこう。

仮に観客数の上限が2万5000人になった場合、ACL決勝のこの迫力を見ることは出来ない。1万人分の手拍子、声援がなくなる。

これは座席数を減らす上での最も大きなデメリットだろう。鹿島アントラーズやサポーターにとってこの空気は財産だ。

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メリットとデメリットのどちらが大きいのか

当記事の冒頭に書いた通り、私は座席数を減らすことはメリットの方が大きいと思っている。

鹿島アントラーズは慈善事業ではなく、ビジネスとしての成功も求められる会社である事を忘れてはいけない。鹿島アントラーズが売上・利益の改善を図り事業を上手く運ぶことは、いつかサポーターの歓喜にも繋がるはずだ。

もちろん、4万人近くの観客が入った時のカシマスタジアムは圧倒的な雰囲気であり、あの空気感をこれからも味わいたいのは言わずもがなだ。しかし、日本の人口がこれから増える見込みもなく(地方である鹿嶋ならなおさら)、空席が目立つ現状を考えれば、ベターな判断だと思う。

また、座席数を減らしたが最後、もう二度と座席数を増やすことが出来ないわけではないことも重要だ。建築物なので、鹿島が超ビッグクラブになった時にまた相応しいサイズのスタジアムにすれば良い。

個人的にはカシマサッカースタジアムの名称を「ジーコスタジアム」にしてほしいな、と、そっと思っている。何百年、何千年も後の世界を生きる人たちが、ジーコのプレーも顔も知らない人たちが、彼の名前を忘れないように。

 

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