ヴィッセル神戸のダイナミックプライシングと鹿島アントラーズ

Jリーグのチケットにおけるダイナミックプライシングが話題だ。今回のブログでは、ヴィッセル神戸のダイナミックプライシングを例に、Jリーグのダイナミックプライシング導入について、そして鹿島アントラーズのチケット価格について考察したい。

ダイナミックプライシングとは?

まず、ダイナミックプライシングについて説明しよう。概要をご存知の方は読み飛ばしていただくと良いと思う。

需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法。需要が集中する季節・時間帯は価格を割高にして需要を抑制し、需要が減少する季節・時間帯は割安にして需要を喚起する。

引用元:コトバンク

スポーツチケットにおけるダイナミックプライシングを超簡単に言うと、

「チケットを固定価格にせず、人気の試合や席はチケットの価格を上げて、人気の無い試合や席は安くする。同じ席でも購入タイミングによってチケットの価格を変える。」

こんな感じのものだと思ってもらえれば良い。それを人力で操作するのではなく、機械学習でアルゴリズムを組んで自動で行うものだ。アルゴリズムを組む際の変数は、販売実績や順位、天候や曜日などが使用されるようだ。

WEBで調べた所、ダイナミックプラス株式会社がサービスに関する資料をUPしていたものが分かりやすかったので以下に引用させていただく。

引用元:ダイナミックプラス株式会社

ヴィッセル神戸のダイナミックプライシング

最近話題になっているのが、2019年Jリーグのヴィッセル神戸のチケット価格だ。まずはこちらをご覧いただきたい。

▼第2節ノエビアスタジアムでのサガン鳥栖戦のチケット価格(1/28時点・一部抜粋)

席種 価格
前売
ヴィッセルシート南 25,000円
ヴィッセルシート北 25,000円
RakutenSS指定席南 18,000円
RakutenSS指定席北 18,000円
RakutenS指定席南 15,000円
RakutenS指定席北 15,000円

▼第4節ノエビアスタジアムでの清水エスパルス戦のチケット価格(1/28時点・一部抜粋)

席種 価格
前売
ヴィッセルシート南 15,000円
ヴィッセルシート北 15,000円
RakutenSS指定席南 12,000円
RakutenSS指定席北 12,000円
RakutenS指定席南 9,000円
RakutenS指定席北 9,000円

見ての通り、同じノエビアスタジアムでの試合だが、最も高額なヴィッセルシートでは1万円の価格差がある。

  • イニエスタにビジャや山口蛍、西大伍を加えた新生ヴィッセル神戸のホームでの初めての試合であること
  • 2019年Jリーグホーム開幕戦であること
  • 対戦相手はトーレス、クエンカのいるサガン鳥栖であること

この要素だけでも需要が高くなりそうな事は予測できるし、ダイナミックプライシングを適用すればチケット価格が釣り上がるのは理解できる(もちろん予測が外れてこの後値段がメチャクチャ下がる可能性もあるが)。

ダイナミックプライシングの是非と、そのメリット

このようなチケットの価格設定に対し、一部のJリーグファンからは否定的な意見が出ている。先述のサガン鳥栖戦のケースでは最低価格のサポーターズシートでも4000円。これまでのJリーグの価格帯の常識からは少し逸脱しているという気持ちも分からなくはない。

しかし、私はダイナミックプライシングの導入について肯定的だ。いや、肯定的という言い方は違うかもしれない。「当たり前のこと」だと思っている。需要が高いサービスやイベントの価格が上がるのは経済の原理原則だからだ。

例えば私は、ステファン・カリーの出るNBAの試合を観る時に2~3万円くらいは平気で払うだろう。それはウォリアーズの本拠地であるオラクル・アリーナには2万人しか入れない事を知っているし、カリーを見たい人は2万人を大きく上回る事を知っているからだ。

この例で言えば、2万人のキャパに対して、「ウォリアーズの試合を見にいきたい人」が10万人いるとする。もしチケットを5千円で売ってしまったら、速攻で完売する。速攻で完売した後、チケットはどのように流通するか。

チケットを手に入れた人2万人(の中の一部)と、チケットを手に入れられなかった8万人の間で転売が始まる。この状況で転売になると、「チケットを持ってる人」は強気の価格設定をすることが出来る。チケットを欲しがる人は山程いるので、5千円で買ったチケットは3万円でも売れる。この「3万円」がチケットの本来の相場だ。

この例で最も儲かるのは誰か?

「転売をした人」と「転売サイト」だ。ウォリアーズはチケット1枚あたり5千円の売上しか上がっていないのに、「転売をした人」は3万円から元手の5千円&手数料を引いた2万2千円の利益を得て、「転売サイト」は手数料である3千円を得る。どうせ誰かが儲かるなら、本来は興行主が一番の利益を得るべきだ。その利益はチームの強化費や顧客へのサービスに活用出来る。転売屋が儲けたお金は、サポーターへのサービスに還元される事は無い。

需要が供給を上回った状態でバカ正直に固定価格のチケットを売ってしまうと、クラブが最も損をすることになる。固定価格だろうがダイナミックプライシングだろうが、チケットは最終的に3万円で流通するのだから。

残念ながら経済はこのような仕組みなので、「ダイナミックプライシング」の導入は当たり前だと私は思う。しかもヴィッセル神戸は、22歳以下の年齢の人は4000円より安くチケットが変えるようにチケット価格を設計している。

「ダイナミックプライシングによってお金の無い若者が試合を見れなくなる」という批判を先回りして設計しているのは、流石である。

鹿島はダイナミックプライシングを導入するのか?

しかし、全てのクラブがダイナミックプライシングを導入出来るわけではない。導入コストがかかるというのも勿論だが、ダイナミックプライシングには「相性」がある。

例えば鹿島アントラーズはダイナミックプライシングと相性が良くない。

それはカシマスタジアムがチケット完売になる機会が少ないからだ。カシマスタジアムはキャパが大きく、アクセスに課題を持ってるゆえ、人気の座席を除けばいつでもチケットを購入出来てしまう。

カシマスタジアムは需要が供給を上回る機会が少ないので、チケットが高額転売されることも少ない。人気のカードや座席を除けば、基本的には定価以下で取引されるだろう。悲しい現実ではあるが、それがカシマスタジアムのチケットの相場だ。ダイナミックプライシングを適用したところで、チケット価格を下げられてしまう。

おまけに、カシマスタジアムはダイナミックプライシングでチケット価格を下げた所で動員が大幅に増えるわけではない。それは「カシマスタジアムに足を運ばない理由」がチケットの価格に由来していないからだ。鹿島サポーターの場合は「アクセス」や「チームの成績」に由来しているケースが多い。

チケット価格を下げた所で動員が大幅に増すわけではないのだから、チケット価格は下げない方が利益を確保できる。このメカニズムで、鹿島アントラーズはチケット価格を変動させるメリットが少ない。カシマスタジアムは素晴らしいスタジアムだが、ビジネスの観点で見ると、現状では需要に対するキャパが大きすぎる。

基本的にはダイナミックプライシングという仕組みは「完売するか、ギリギリしないか」というキャパのスタジアムと相性が良い。MLS(メジャーリーグサッカー)の一部のチームでは、敢えて大きなスタジアムを作らず、需要が供給を少し上回るようにスタジアムを設計しているチームもあるという。

完売必至のカードではチケット価格を上げて利益を確保し、売れ行きの悪い試合は価格を下げて無理やり満員状態を作り、物販収益やスタジアムグルメ収益を最大限に増やす。クラブ側は常に最大限の利益を享受する。スタジアムは常に満員をキープ出来るので、観客の満足度は高まり、また需要が増していく。この好循環がダイナミックプライシングの魅力だ。

勿論、私はカシマスタジアムが大好きなので、スタジアムの移転や新設をしてほしいとは思わない。「供給」を下げるやり方ではなく、「需要」を増やしてカシマスタジアムが常に満員になるようなクラブ運営を模索していってほしいと思う。

 

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