サッカーにおける「戦術」の考え方をなるべく丁寧に言語化してみる

サッカーの戦術とは何だろう?私はいつもこの事に頭を悩ませている。このブログを書く時もそうだし、自身が選手としてプレーする時、監督としてチームビルディングする時にも悩ませる。

この記事では、私の考える「戦術」の捉え方を言語化し、解説することにチャレンジしたい。お付き合い頂けると幸いだ。

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戦術の立ち位置

まず、サッカーにおける戦術の立ち位置を確認したい。

サッカーチームが目指すものは何だろう?チームごとに異なるだろうが、私は鹿島アントラーズが好きなので鹿島アントラーズで考えよう。

Jリーグで考えれば、リーグ優勝するのが目的だ。優勝するためには、目の前の試合で勝利することが必要だ。この順序で思考を進めていく。では、試合で勝利するためには何が必要か。

  • 戦力の充実
  • 選手のコンディション
  • モチベーション
  • 環境の整備
  • 観客の動員(応援の力)
  • スカウティング

他にもあるかもしれないが、これらと「同列の変数」として、「戦術」が存在すると私は思っている。

勘違いされてる人がいるかもなぁと思うのは、戦術が常にこれらの変数よりも上位だと考えているパターン。

分かりづらいだろうので、例を出す。

私が監督。バルセロナのメンバーを率いて、Jリーグに参入したとする。目指すはJリーグ優勝。

その場合、私は何の「変数」に重きを置くだろう?

最も重要なのが「怪我をさせないこと」。次が「モチベーションを落とさせないこと」になる。戦術を考えることは、かなり優先度が低い。なぜならこの場合は、「戦術を考える」というのはコストの無駄だからだ。GKにテア・シュテーゲン、DFラインにピケがいて、ラキティッチとメッシとスアレスとコウチーニョがいれば、好きにやらせても勝てる。

戦術について考える時間があるなら、彼らが怪我をしないことに私の情熱の全てを費やすだろう。目標はJリーグ優勝だからだ。

もちろん、これらの変数よりも戦術が重要度を増すパターンもあるだろう。ただし、「戦術が常に最も重要」という考え方は危険だ。試合や対戦相手、状況によって変数の影響度は変わる。

サッカーは不確定要素が多く、変数が多いゆえ、戦術に劣ったチームが常に勝てないわけではないし、戦術に優れたチームが常に勝てるわけでもない。戦術で全てを語るのは不可能だし合理的ではない。

「気持ちでプレーしろ」を否定してはいけない

ここで一応書いておきたいのは、「気持ちでプレーしろ」という指導者についてだ。このような事を言う人は馬鹿にされがちだが、あながち間違ってはいないと私は思う。

「気持ち」もサッカーの勝敗を分ける変数の1つであることは間違いないからだ。

戦力差が拮抗しており、戦術レベルに差がなく、コンディションも同等だった場合、勝敗への影響が強い変数は「気持ち」だ。だから監督にはモチベーターと言われる人が存在するし、そのような監督が必要なチームだってある。

ただし、「気持ち」も「戦術」も変数の1つだということは理解しないといけない。それを分かってて「気持ち」という言葉を使うのと、理解せずに使うのとでは雲泥の差がある。

なぜ戦術の重要性が叫ばれるか?

サッカーにおける「戦術」は、目的達成のための数多くの変数のうちの一つだと書いた。それではなぜ「戦術」について語る人が多く、重要性が叫ばれるのかを考えよう。

それは先程の例を考えてみてもらうと分かりやすい。

繰り返すが、バルセロナのメンバーを率いてJリーグに参戦した場合、戦術の重要性は低い。なぜか。バルセロナは「圧倒的な戦力差」を保てるからだ。

「戦力の差」だけは先程挙げた変数の中でウェイトが重いと私は考えている。サッカーは基本的には、上手くて速くて強くて頭の良い11人を揃えたら勝てる。「戦力差」は、勝利への影響力がすこぶる強い。

ONE PIECEで言えば、現在の強くなった麦わらの一味とドン・クリークの一味が戦ったら、ドン・クリークは瞬殺されるだろう。戦力の差を埋めるには、戦術やモチベーションよりもまず覇気を使えるようにならないといけない。

しかし、Jリーグにおいて、あるいはプレミアリーグにおいて、「圧倒的戦力差」が生まれるゲームはあるだろうか?

そう、ほとんどない。同じリーグ内であれば、「圧倒的戦力差」は起きにくいので、他の変数が勝利への影響を及ぼす。

他の変数を考えよう。

互いにプロサッカー選手で、モチベーションやコンディションに大きな差が生まれるか?応援で結果を左右するほどの圧倒的な差が生まれるか?と他の要素を潰していくと、最も差が生まれそうな「戦術」という変数が残る。「戦術」はチームによる差が生まれやすいのではないかというのが私の仮説だ。

おそらく「戦術は重要だ」と考える人の多くが、頭の中でこれらの事象を無意識に考えているのだろうと思う。

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戦術を考えるプロセス

では、「戦術」がどうやらサッカーの試合で勝利するための重要な変数だと判断したとして、私がサッカーの試合において戦術を考えるプロセスを紹介したい。少しでも、サッカーを見る時のお役に立てれば幸いだ。

私は以下の順序で戦術の大枠を考える。(あくまで大枠に過ぎない)

  1. 目的の確認(勝ちたいのか、引き分けたいのか)
  2. 2つの質的優位の確認
  3. ゲームモデルの確認
  4. 「繰り返されるプレー」の確認
  5. フォーメーション(ポジション)の確認

順番に解説していこう。

目的の確認

まずは目的の確認。これを抜きにして戦術は絶対に語れない。この試合で目指すものは何なのか。勝利なのか、引き分けなのか。

全ての戦術やプレーは目的から逆算で選択されるため、この確認だけは忘れてはいけない。過去に↓のような記事を書いたのも、「各チームの試合における目的の確認」をしたいからだった。常に全チームが勝利を目指しているわけではないことは、戦術を理解する上で重要だ。

2018年Jリーグ最終節で談合試合が起きる可能性を考えてみる

アマチュアチームや育成年代にたまにあるのだが、もし勝敗ではなく「楽しさ」等の定性的な感情を試合の目的に置く場合は注意が必要だ。その場合は、あまり戦術について考えることは向いていない。1人1人の楽しさを最大化していくと、原則や約束からはかけ離れた形になりがちだ。

多くの場合の目的は「勝利」だと思うので、今回は「試合の目的は勝利」をベースに書きたい。

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2つの質的優位の確認

私の場合、「試合における目的の確認」を行った後、2番目に行うのは「質的優位」の確認だ。質的優位には2種類あると考えている。「完全な質的優位」と「部分的な質的優位」だ。いずれも私が勝手に名付けたものだが、もし気に入った方がいればドシドシ使ってほしい。

完全な質的優位

まずは「完全な質的優位」がピッチ内で起きるかを確認する。「完全な質的優位」は、「状況を問わず1対1を制することが出来る」という定義にしておこう。

例えば対戦相手のFC東京にロッベンが来たとする。その場合、ロッベンを1対1で止められる選手は鹿島にはいないので、「ロッベンにボールを渡さない方法」「ロッベンを止める方法」を事前に想定し、予め守備の原則を作っておく必要がある。守備の時はSBは縦を切って中に追い込み、ボランチとSBの2枚で潰そう。みたいな原則だ。

逆に、自分のチームに絶対的な質的優位の選手がいる場合は、それをどのように活かすか。あえて囮に使うのか。デザインしておく。

「完全な質的優位」の戦力を持っているチームは有利だ。単純に局地戦で勝利できるからというのに加えて、「完全な質的優位」の戦力を持つチームは、それを存分に使ってもいいし、あえて使わなくてもいい。でも「完全な質的優位」を相手に持たれたチームは、基本的にはその選手を潰すことから戦術をデザインしなければいけない。

漫画「キングダム」で言えば、龐煖は敵の野営地に一人の乗り込んで壊滅的ダメージを与えられる。龐煖が一人いれば、完全な質的優位を持って戦争を優位に運べる。龐煖を敵に迎える場合は、常に龐煖を警戒した戦い方を考える必要がある。

部分的な質的優位(ミスマッチ)

その次に、「部分的な質的優位」だ。これはプロ同士の試合でもしょっちゅう起こる。「部分的な質的優位」は「状況を限定すれば1対1を制することが出来る」という定義にしておこう。ミスマッチという言葉と一緒だと理解してくれても良い。バスケットボールではよく使われる言葉だ。

「部分的な質的優位」とは、「関川郁万はロングボールに対するヘディングなら相手FWに勝てる」みたいなこと。この場合はいわゆる高さのミスマッチだ。もちろん速さのミスマッチもあるし、技術のミスマッチもあるし、フィジカルのミスマッチもある。

完全な質的優位ではないが、「足が速い」「競り合いが強い」など、敵味方の選手の特徴に対して特定の状況を作れば、有利になる。

この「部分的な質的優位」はフィールドのアチコチで発生しているので、まずはそれをチェックするだけでも試合観戦が楽しくなると思う。

「関川郁万はロングボールに対するヘディングなら相手FWに勝てる」という状況ならば、鹿島は相手にロングボールを蹴らせたほうがいい。そのように相手を追い込んでいき、少しでも勝利の確率を上げる。それが戦術になる。

選手として何かストロングポイントを持っている選手が重宝される理由も、この「部分的な質的優位(=ミスマッチ)」を作りやすいからだと思ってくれて構わない。

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ゲームモデル(スタイル)の確認

次にゲームモデルの確認だ。

ゲームモデルとは、コンセプトやスタイルという言葉が近いと私は思っている。アイデンティティという言葉も含蓄しているだろう。「どのように戦って勝利を目指すのか?」というのがゲームモデルだ。

苛烈なプレッシングをかけ続けてショートカウンターを狙うチームもあれば、ムキムキの選手を揃えてキック・アンド・ラッシュを採用するチームもある。もちろん、どれか一つだけを採用しなければいけないわけではない。

最前線からのプレッシングとキック・アンド・ラッシュを併用するチームもあれば、体力を休めるためにボールポゼッションを組み合わせるチームもある。

どうやってゲームモデルを確認するのか?というと、それは「繰り返し(=原則)」に着目すると良い。

「繰り返されるプレー」に着目

ゲームモデルの確認に有効なのは、「繰り返されるプレー」だ。私は「原則」という言葉を使う。

例えばCBやGKがボールを持った時、「このチームは絶対にロングボールを蹴らない」というチームを見たことがあるだろう。それはゲームモデルによって選択されたプレーのひとつだ。相手にプレッシャーをかけられようが、ショートパスを繰り返す。その繰り返しが、そのチームのゲームモデルを理解する手助けになる。他にもピッチ上のアチコチで「繰り返されるプレー」は存在する。

ピッチ上の「繰り返されるプレー」(原則)を拾い集め、そのチームのゲームモデルを推定する。

自分のチームのゲームモデルを100%公にする監督はいないので、対戦相手や観戦者は推定することしか出来ない。戦術分析の全ては仮説だ。

  • 相手チームは◎◎のプレーを繰り返している
  • 相手チームのゲームモデルは○○なのではないか?
  • 自分のチームがこのように動けば、相手は△△のようなプレーを選択するのではないか?
  • そのような選択をするなら、✕✕を行えば相手は混乱するのではないか?

このように、原則からプレーモデルを推定し、推定した要素から仮説を立てて、対策を考えていくのが戦術だ。あるいは、自チームのチームビルディングをしていくのが戦術だ。プロのチームは、これを試合前に行う。スカウティングというヤツだ。もちろん、それがハマる時もあるし、ハマらない時もある。グアルディオラだって推定を誤ることがあるくらいだ。

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フォーメーション(ポジション)の確認

次に行うのはポジションの確認。4-4-2とか、3-6-1とか、そういうやつだ。各チームは、ゲームモデルを実行するのに最も適したフォーメーションを採用する。

これはあまり私が解説する必要は無いかなと思っている。WEB上にも各フォーメーションの特徴などについての情報が溢れているし、パターンもある程度決まっている。

重要なのはフォーメーションよりポジション(配置)だ。ベースのフォーメーションが4-4-2だったとしても、ビルドアップの時は3-5-2になったり、撤退守備をする時は5-4-1になったり、そんなことは日常茶飯事だ。

基本が↓の4-4-2だったとして

ビルドアップ時は以下の3-5-2になり、

撤退守備時は5-4-1になる

こんなチームは珍しくない。大事なのは、「4-4-2のフォーメーション」ではなく、「状況によって選手の基本配置」が変わることだ。

これを理解出来ておらず、常に「4-4-2」に対して対策を行っていると、思ったように事が運ばない。それはそうだ。想定と配置が違うのだから。

これらの「状況による選手の配置」も、プレーモデルのもとで繰り返されるので、試合中にある程度推定することは可能だ。フォーメーションを掴む事よりも、ゲームモデルを掴む事を優先する方が効率が良いのは、そのような理由による。

フォーメーションやポジションは、ゲームモデルを実行するための手段に過ぎない。

戦術を考えるプロセスのまとめ

少し長くなってしまった。私の場合、もう一度まとめるとこのようなプロセスで戦術の大枠を考えている。

  1. 目的の確認(勝ちたいのか、引き分けたいのか)
  2. 2つの質的優位の確認
  3. ゲームモデルの確認
  4. 「繰り返されるプレー」の確認
  5. フォーメーション(ポジション)の確認

このプロセス、人によって順番は異なるだろうと思う。一番始めの確認としてスタンダードに言われるのは「ゲームモデルの確認」なのだが、私の場合は、それよりも重要な事がある。目的の確認と2つの質的優位の確認だ。

なぜなら、これが効率が良い。目的を考えずに戦術を策定することはできないし、「質的優位」はあらゆる戦術をぶち壊す可能性がある。それを予め理解しておかないと、痛い目に遭う。

と、かなり堅い記事になってしまったが、今回は私の頭の一部を公開させていただいた。もしあなたのサッカー観戦が少しでも楽しくなれば幸いだ。

 

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