これは必ず記事にしないといけないと思っていた議題があり、新年1発目はこの話題に触れたい。大岩監督続投の判断についてだ。この記事では、大岩監督について主に「実績」から前任の2名の監督と、そして川崎の鬼木監督と比較したい。
大岩監督続投の報道
前提として、大岩監督の2019シーズン続投が公式リリースとして発表されているわけではない。しかし、スポニチの記事で鈴木満常務取締役が続投を明言したと書いてあり、2019年は大岩監督の続投とみていいだろ。
ソースはこちら。
このブログでも再三取り上げている通り、私は采配や戦術的な側面から見る大岩監督の手腕に対してやや懐疑的だ。一方で、印象や戦術的な好みよりも、実績から監督を評価するのがフェアであるという意見も持っている。仮に戦術的に凡庸であっても、勝てる監督であればそれに勝ることは無い。実績や結果だけは全ての反論をねじ伏せる力を持つ。
他の監督と大岩監督の比較
それでは早速、他の監督と大岩監督の実績の比較をしたい。比較対象は、大岩監督の前任の石井監督・セレーゾ監督、そして現Jリーグチャンピオンの川崎フロンターレ鬼木監督だ。
大岩監督の実績
まずは大岩監督の指揮した公式戦の実績を確認したい。対象は各監督とも「Jリーグ・ルヴァンカップ・天皇杯・クラブW杯」の4つのコンペティションとしている。なお、全てのコンペティションを勝点ベースで計算している。「平均勝点」は「1試合あたりの平均獲得勝点」という意味。最高が3で最低が0、3に近付くほど良い。
大岩監督が獲得した1試合あたりの平均勝点は「1.88」。約1年半で優勝数は1回。この数字をどう見るかは他の監督との比較をした上で追って述べたい。ちなみに私は全てのコンペティションを累計して1試合あたりの平均勝点が「2」に達した時に初めて「4冠」という言葉が現実味を帯びると思っている。
石井監督の実績
石井監督が獲得した1試合あたりの平均勝点は「1.93」。約2年で優勝回数は3回。平均勝点は大岩監督より若干高く、優勝回数は3回と今回比較する中で最多。一方で「天皇杯3回戦敗退」や「ルヴァンカップグループリーグ敗退」など、早々にコンペティションを敗退してしまう傾向もある。勝率は今回調べた監督の中で最も高かったが、敗率も高め。大岩監督よりも引き分けが少ない代わりに勝ち負けがつくゲームが多いという実績。
特筆すべきは2016チャンピオンシップや2つのカップ戦タイトル獲得など、勝負強さが際立つ監督だったということ。
セレーゾ監督の実績(第2次)
第2次のセレーゾ監督(2013~2015)は今回対象にした監督の中で、1試合あたりの平均勝点が「1.59」と最も低かった。また、優勝もなく、勝率は低く、敗率は高かった。もちろん選手や状況が石井監督・大岩監督とは大きく異なるのは理解しておく必要がある。石井監督も大岩監督も、セレーゾが種を蒔いた選手を中心にチームを作っている印象は否めない。
川崎フロンターレ鬼木監督
川崎フロンターレの鬼木監督も比較対象として確認したい。鬼木監督は1試合あたりの平均勝点が「1.93」と、なんと石井監督と全く同じ数字だった。勝率は石井監督・大岩監督よりも低いが、敗率が今回調べた中で最も低かった。確実に勝点をとれるサッカーをしている証だろう。その成果もあり、リーグ戦は2連覇を達成している。
しかし、カップ戦では優勝どころか決勝進出が1回のみで、一発勝負は苦手とする監督と言えるだろう。
3名の監督と比較した大岩剛監督の実績
上記の数字を見た上で、大岩監督の実績を考えたい。
安定した実績
大岩監督の特徴は、安定した実績。「コンペティションの早期敗退」がほとんど無いのが特徴だ。石井監督は天皇杯やACL、ルヴァンで早期敗退した経験があり、鬼木監督も同様にACLや国内カップ戦で上位に食い込めずに終わる傾向がある。それらに比べると確実にベスト4には進出している大岩監督は安定した実績を残していると言える。「ジャイアントキリングを起こされにくい監督」と言えるかもしれない。大岩監督の性格が出ている実績だ。
一方で、言い方を変えれば「良いところまで行くが勝ちきれない監督」とも言える。2017年の最終節ジュビロ磐田戦、2018年天皇杯・ルヴァンカップ・クラブW杯の準決勝敗退など、大岩監督の大一番での勝負弱さが露呈している感は否めない。
敗率が低い
大岩監督の実績面での特徴は敗率が低いことだ。この点は鬼木監督の数字と類似しているが、鬼木監督は主にリーグ戦で勝利数を稼いでおり、大岩監督はリーグ戦以外で主に勝利数を稼いでいる。数字は似通っているがリーグタイトルは鬼木監督率いる川崎フロンターレのものとなったというわけだ。
この実績は大岩監督の采配面・戦術面の特徴と一致している。大岩監督は良くも悪くもリスクを取ることを好む監督ではない。
1試合あたりの平均勝点「1.88」
就任以降の大岩監督の1試合あたり平均勝点は「1.88」という数字だった。これは悪くない数字だ。しかし実態としては2017年のリーグ戦連勝で稼いだ勝利が大きく影響しており、2018年の実績となると「1.7」まで数字を落とす。
ちなみに2017年、石井監督が解任された年に石井監督が獲得した1試合あたりの平均勝点は1.8だった。2018年の大岩監督の数字は、解任された時の石井監督よりも悪い数字だった。
鹿島アントラーズが「4冠」という言葉を本気で使うのならば、1試合あたりの平均勝点は「2」が必要になると思う。2018年の大岩監督の「1.7」からは程遠い。鬼木監督の川崎以上、石井監督の鹿島以上の数字が必要だ。大岩監督の続投という判断であれば、私は4冠という目標設定は現実味に欠けると感じる。
大岩監督の続投は妥当か
これらの実績を総括し、大岩監督続投の判断が妥当かを記したい。
大岩監督続投の判断を考える時に重要になるのは、「2019年に狙いに行くタイトルをどのように捉えるか」だと思う。
繰り返しになるが、2018年の大岩監督が獲得した1試合あたりの平均勝点「1.7」を考えると、4冠は程遠いと言わざるを得ない。とはいえ、別の監督を連れてきて1試合あたりの平均勝点「2」をすぐ取れるかというと、クラブとしてはリスクが高めの判断にはなるとも思う。なぜならば大岩監督は「常に安定した成績を取っている」という実績があるからだ。大岩監督はクラブ史上初のACLタイトルをもたらしたのも事実。
これらの事を加味した上で、「大岩監督の成長をクラブとしてサポートしていき、数年後の3冠ないし4冠を目指す」という中期ビジョンであれば、続投は理解できる判断だと思う。あるいは「2019年は少なくともJリーグ奪還を狙う」という目標設定であれば理解できる。
他のコンペティションで思い切ってターンオーバーを敷ければ、戦術的な引き出しに目を瞑るとしても「Jリーグに限り1試合平均勝点2(=68ポイント)」は大岩体制でも目指せるはずだ。おそらくJリーグの監督ガチャに鹿島は加わりたくないという矜持もあるだろう。クラブにとって100点満点の監督などいない世界だ。中途半端な監督を連れてくるよりは大岩体制のサポートを強化した方がリスクが低く、効率が良いのも事実。
一方で、もしもクラブが「2019年にJリーグタイトル+他のカップ戦タイトル(2冠以上)」を本気で求めるならば、大岩監督続投は妥当とは思えない。圧倒的な選手補強でサポートするなら話は別ではあるが、それも中々難しい。この目標設定をするならばリスクを取ってでも別の監督を連れてくるべきだ。
結論がやや中途半端で恐縮だが、大岩監督続投の是非はクラブの目標設定に対して妥当かどうか、という話になると思う。監督の力量がある程度見えてきた現状で、高すぎる目標を課すのはクラブ幹部の怠慢と言える。大岩監督もまだ監督歴が2年目の新米監督だ。多くを求めるのは酷だろう。選手として鹿島に大きな貢献をしてくれたOBの大岩剛が犠牲者になるのは、私も見たくない。オフシーズンの選手補強や、1月に行われるであろう新体制発表での社長の言葉に注目していこう。