ビッグニュースが飛び込んできた。メルカリが鹿島アントラーズの株式の61.6%を取得し、鹿島アントラーズの親会社となった。
これはかなり衝撃的なニュースであり、関心を持つ人も多いだろう。
今回はこの件にまつわる「影響」と「鹿島アントラーズの経営」について、いくつかの論点に分けて書いていこうと思う。
メルカリが親会社になる事
「買収」や「身売り」という言葉がニュースサイトに踊っているため、鹿島サポーターは不安にかられてしまう事だろう。それによりメルカリを批判するような声も聞こえるが、私は現時点ではそのようには捉えていない。
まず抑えておきたいポイントとして、今回の株式の譲渡は、それまでの鹿島の親会社であった「日本製鉄株式会社の意思」がなければ成立しない。メルカリの意思だけで親会社が変わったわけではない。
日本製鉄株式会社と鹿島アントラーズが株式を譲渡するにあたって、最もふさわしいと考えた企業がメルカリだったわけだ。
その辺りについてのコメントは、以下の記事に書いてあるので読んでいただきたい。
メルカリ社長「アントラーズとビジネスつくりたい」
https://www.nikkansports.com/soccer/news/201907300000738.html
日本製鉄の津加執行役員は、譲渡先としてメルカリを選んだ理由を「本拠地は鹿島で、ホームスタジアムはカシマスタジアムを継続使用する点。地域貢献への取り組み。メルカリで引き続きその理念を大事にする。クラブ設立からの理念を継承することを確認できた」と説明した。
日刊スポーツ
鹿島アントラーズはメルカリの好き勝手にされてしまうのか?
この点を心配されているサポーターは多いかもしれない。鹿島はメルカリの好き勝手にされてしまうのか?
(あくまで噂に過ぎないが)ヴィッセル神戸に三木谷さんが現場介入しているなどの噂もあり、不安に思うかもしれない。
確かにメルカリは鹿島アントラーズの株式の過半数である61.6%を取得し、鹿島の親会社となった。社長をはじめ、取締役の多くは近く刷新されることだろう。
しかし、鹿島はメルカリの好き勝手には出来ない。私はそう断言出来る。
ここで考えるべきは「鹿島のバリュー」だ。
メルカリから鹿島に来るであろう新社長(おそらく小泉社長)の思考を、ゲーム理論式に推察してみれば分かる。
企業(鹿島アントラーズ)は誰のもの?
まずはこれを考えてみよう。
企業は社長のもの。ではなく、ビジネスの世界では株主のものと言われたりする。
つまり鹿島アントラーズはメルカリのもの??
いや、違う。メルカリは「鹿島の持つバリュー」に興味を持って鹿島の親会社になったはずだ。
投資価値があると思って鹿島の親会社になったはずだ。
鹿島アントラーズのバリューとは?
では鹿島のバリューとは何だろうか?
数多くの優勝トロフィー?日本代表の選手たち?
いや、違う。
勘が鋭い人は気付くだろう。
鹿島のバリューとは、この記事を読んでいるあなた。つまり熱心な鹿島アントラーズサポーターたちと、その熱心なサポーターたちが大切にしているジーコスピリット、そしてホームタウンとの強い結びつきだ。
これらをないがしろにする事は、鹿島のバリューを失う事となる。つまりビジネスとして考えた時に、合理的でないのだ。
メルカリがメルカリの利益だけを考えて鹿島アントラーズを経営しようとすれば、鹿島アントラーズのバリューである「熱心なサポーターたち」は間違いなく離れていく。
普通の経営者であれば、そんな愚かな事はしない。鹿島の損失は、自分たち(メルカリ)の損失だ。ましてやメルカリはソフトバンクや楽天のような規模の会社ではない。メルカリも鹿島もどちらもWinになる方法を考えざるをえない。※よほどサイコパスな男が鹿島の経営者になったら話は別だが……。
メルカリは懸命に、そして誠実に、鹿島アントラーズのサポーターが大切にしてきたものと向き合うしか方法がないのだ。鹿島の経営が上手くいくかどうかは別の話だが、「メルカリの利益のためだけに鹿島を利用する」という事は、自分たちの首を締める事になる。つまりそのようにはなる確率は極めて低いと言い切れる。※繰り返すが、よほどサイコパスな男が鹿島の経営者になった場合は話は別だ……。
鹿島アントラーズの持つ事業面での課題
今回の、鹿島のメルカリ子会社化により、私はいくつかの変化を期待している。
それは鹿島アントラーズの事業面の進化だ。
鹿島という企業を「強化部門(選手の強化・育成)」と「事業部門(お金稼ぎ)」に分けて考えるならば、鹿島の強化部門の実力は日本屈指と言える。
しかし「事業部門」についてはまだまだ発展途上だ。むしろ、ビジネス上手とは決して言えない状況と言える。
鹿島のように哲学があり、サポーターが多く、タイトルも取っているチームならば、もっとお金を稼げるはずだし、もっとサポーターの満足度を上げられるはずだ。
事業面においては、6年あまりでメルカリを時価総額3500億円の企業に育て上げた山田CEO、及び小泉COOの知見を生かしてもらいたい所だ。
また、顧客(サポーター)向けのサービス向上にも期待が出来る。
鹿島にいる役員は住友金属工業(日本製鉄株式会社)出身が多いが、もともと住友金属工業はBtoBの企業だ。ここでC向け(一般顧客向け)サービスにおいて日本トップレベルの企業であるメルカリの知見やビジネススキルを鹿島に導入出来るのは大きなメリットだろう。
メルカリは赤字だけど大丈夫?
これも気にされる方がいると思うので一応触れておく。メルカリは確かに年間の決算では7年連続赤字となっている。
とはいえ、その内容は投資目的の赤字だ。これに関しては私は特段問題だと思わない。10年後の1兆円を稼ぐための137億円の赤字、みたいな見方をするのが良いだろうと思う。Amazonだってずっと赤字を続けていた。
むしろ私が気になるのは、メルペイの将来性についての心配だ。メルカリはご存知の通りメルペイに巨額の投資をしてサービスの拡大を狙っている。
現状はLINEpay、paypay、そしてメルペイの3サービスでキャッシュレス決済サービスの覇権を争っているが、私はどうやっても最終的にはLINEpayが勝つような気がしてならない。
3社ともそれなりのシェアを分け合って生きていくならば良いが、もしどこか1社が勝ち残るならば、それはメルペイなのだろうか?という不安がある。
メルカリは国内フリママーケットの覇権を奪ったが、「2本目の事業の柱」として大規模な投資をしているメルペイが崩れると、メルカリの経営は爆発的な伸長を期待出来なくなる。
これはメルペイだけでなくアメリカ市場でのメルカリの普及についても言える。メルカリはアメリカのフリマ市場に向けても投資しているが、まだ日本のフリマ市場におけるシェアほどのインパクトは残せていない。
私がメルカリに対して持っている懸念は、赤字ではなく「新規事業(特にメルペイ)大丈夫かなぁ」という事だ。
テック企業がスポーツに興味を持つ必然
私はメルカリなどのテックカンパニーを目指す会社が、スポーツや文化に興味を持つ事は必然だと思っている。
テック企業は、世の中のあらゆる事を効率化・省エネ化を実現していく使命にある。時間を短縮し、余暇の時間を増やすためのテクノロジーだ。
では「更に稼ぎたいテック企業」は次にどこを目指すのか。それは「テクノロジーで生まれた可処分時間や体力を向ける先」になる。つまりスポーツやフィットネスやアニメや映画だ。PCを触るのが得意なテック企業ゆえに「リアル」の強さも知っている。
テック企業を目指すメルカリがスポーツに参入してくる理由も、容易に理解出来る。
人間は変化を好まない生き物
とはいえ、やはり鹿島サポーターは不安だと思う。
住友金属サッカー部は鹿島アントラーズの前身でもある。住友金属なしでは鹿島アントラーズはあり得なかった。ここまでの大きな変化は不安にかられても仕方ない。
人間は元来、変化を好まない生き物と言われる。これは驚くべき事だが、仕事の効率が悪い人や生活に困っている人ほど現状を肯定したくなる傾向にあるらしい。(『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』参照)
しかし今のJリーグは転換期にある。様々な資本が参入している現状を見ると、変化をしないことは逆にリスクだ。他のクラブが昔ながらのクラブ経営をしている間に、ものすごい選手たちをチームに揃えようとしているクラブも出てきた。鹿島が国内を超えて世界を目指していくなら、なおのことだろう。
メルカリと鹿島の新たな関係性は、鹿島の弱点を補い、サービスの向上を期待できる変化だと私は信じている。いや、そうなってもらわないと困る。
それと同時に、鹿島を長年支えてくれた住友金属工業(ならびに新日鐵住金・日本製鉄)には今一度感謝の気持ちを示したい。これからも鹿島アントラーズファミリーとして、ともに戦っていきたい。