2018年クラブW杯準々決勝グアダラハラ戦、貴重な貴重な同点ゴールを奪った永木亮太。この同点ゴールの本質について考察したい。
グアダラハラ戦の同点ゴール
まず、グアダラハラ戦の同点ゴールの流れについて。このゴールは、やべっちFCでは中田浩二が、スーパーサッカーでは福田正博が永木を褒めていた。このゴールの素晴らしさを改めて振り返ろう。
これがセルジーニョがスンテからボールを受けた時点での永木のポジショニング。画像の右側、審判と重なった場所に位置取っているのが永木だ。ここから相手ゴール前まで60メートル以上を駆け抜けた。
この時点でグアダラハラ陣地にいるDF2名は土居の対応をすることになるので、永木を止められる可能性のある選手は鹿島陣地にいる3名のグアダラハラの選手。永木は、この3名とセルジーニョを全員追い越して、誰よりも早く相手ゴール前に走り込んだ。
この60メートルダッシュが鹿島の準決勝進出を生んだ。このゴール、永木でなければ奪えなかったゴールだと私は思った。レオでも、三竿健斗でも、小笠原でも、生まれなかったゴールだ。
「はやい」とはどういう事か
少し遠回りな話をしたい。サッカーにおいて「はやい」とはどういう事を指すだろうか。これには様々な意見があると思う。「50メートル走が速い」だろうか?それとも「10メートル走が速い」だろうか?
私はサッカーにおける「はやい」の意味の一つは、「とあるスペースに、ピッチ上の誰よりも先にたどり着くこと」だと思っている。
これが達成できるならば、足は速くなくてもいい。50メートル走が相手よりも0.5秒遅いなら、相手より0.6秒早く走り始めれば50m先の狙ったスペースに先に辿り着ける。足は遅いかもしれないが、サッカーのゲームにおいては0.6秒早く走り始めた選手のほうが「はやい」。
では永木のゴールシーンはどうだろう。
永木は、私の定義で言う所の、ピッチ上で最も「はやい」選手だった。足が速いわけではない。しかしグアダラハラの選手が永木に気付いてダッシュを始めた時には、永木は既に先頭を走っていた。実際に計ってみたところ、永木はグアダラハラの選手よりも2秒近く早くダッシュを始めていた。
永木の判断スピードに垣間見えた湘南スタイル
このゴールにおいて、永木は「考える・判断する」という作業を省いている、あるいは限りなく短い時間で行っていたように見えた。
- 土居が相手選手2枚を相手にクロスまで持っていけるか?
- 自分の目の前にいるグアダラハラ選手たちよりも自分が先にゴール前まで行けるか?
- 土居がボールを取られて逆カウンターを食らい、自分のポジションを空けてしまうリスク
- それらを加味して、自分のランニングが勝利に結びつく確率
このような事項を考慮して「ゴール前まで行くか、別のポジションを取るか」ということを判断するのが普通のサッカー選手だ。事実、グアダラハラの選手たちは「8番に対して2枚行ったから恐らく問題ないだろう」と動きを止めてしまった。
一方の永木は「考えるよりも先に体が動いている」という動きに見えた。これはチョウ・キジェ監督の指導による湘南スタイルが身体に染み込んだ影響が大きいと思う。危険なゾーンにリスクを持って積極的に入っていくんだ。考えるよりも先に動け。計算や合理性とは別に肉体が躍動する。そんなプレーに見えた。
このプレーは永木の「習慣」とも言えるプレーだと思う。永木にとっては、あのゾーンに走り込むことは当たり前なのだ。とはいえ、このレベルを「習慣」にしている選手なんて中々いない。それが永木のストロングポイントの一つだ。サッカーをやっていた人なら分かるだろう、一夜漬けであの判断スピードは絶対に出せない。
だからこそレオでも三竿健斗でも小笠原でもあのゴールは生まれないと言い切れる。湘南スタイルが身体に染み込んだ永木にしか生み出せないゴールだった。