前回の天皇杯鹿島アントラーズVS浦和レッズで、鹿島が浦和の5バックを崩せなかったというブログを書いたが、Jリーグの最終節で同じようなシステムを相手に、見事に崩してみせた選手がいた。
ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタのゴールだ。今回は勉強も兼ねて、他クラブの選手ではあるがイニエスタの「5バックの崩し方」を確認してみたい。
ベガルタ仙台戦でのイニエスタのゴール
まずはベガルタ仙台戦でのイニエスタのゴールを見ていただこう。
浦和レッズと近いベガルタ仙台
このゴールがケーススタディとして参考になる点は、鹿島が崩せなかった「浦和レッズの5バック(守備時の話)」と、ベガルタの守備時の5バックの位置取りは近いものがあるからだ。
両WBが大外のレーンを守り、真ん中の3レーンをCBが守る。それが共通している。※このときの仙台は一人退場しており、中盤の人数が浦和より1枚少なかったことは認識しておく必要あり。
鹿島は浦和の5バックを崩せなかった。一方で、イニエスタはお手本のように5バックを崩すことが出来ていた。
イニエスタが見つけた「ポケット」
このゴールをコマ送りで確認してみよう。
まずは最初にイニエスタが左サイドに張ったティーラトンに預ける。この時点では、仙台の5バックは形を整えている。大外のレーンにはWBがチェックに行き、残りのDFラインの選手は等間隔を維持している。
ティーラトンがボールを保持していると、7番の三田がボールサイドに寄る。ここで仙台の平岡が三田に釣られてポジションを開けてしまう。そして27番の大岩(3バックの真ん中)が平岡が動いたポジションに対して連動出来ていない。赤で記した場所が「ポケット」となる。
イニエスタは「ポケット」を見つけるやいなや、すぐに動き出してティーラトンからリターンを貰う。この時点で既に「ポケット」を意識していることは間違いない。一方、仙台の大岩は、イニエスタが「ポケット」を狙っていることにまだ気付かない。
イニエスタは前を向いてボールをコントロールするが、まだ「ポケット」は空いている。
イニエスタは16番古橋とワンツーして「ポケット」に侵入。簡単にゴール。「ポケット」が出来た瞬間から、イニエスタが動き出してゴールまで僅か5秒の出来事。
「僅かなズレ」を見つける力
この仙台の「ポケット」は、僅かなズレだ。仙台のDF側に
- 平岡が不用意に自分のポジションを空けてしまった
- 大岩が平岡のポジションを埋める連動ができなかった
という2つのミスがあったのは事実。イニエスタにはこの「僅かなズレ」が「大きなチャンス」に見るのだろうと思う。プレー中のイニエスタの頭の中を想像すると
ティーラトンがボール持つ時:「あー、あそこ空いたなぁ」
ティーラトンからボール受ける時:「まだあそこ空いてるなぁ。古橋は走り込まないのか。じゃあ自分で行こう」
こんな感じだろう。イニエスタのすごい所は、ここで仮に大岩がスライドして「ポケット」を埋めたとしても、今度は大岩のいたスペースを見て、またポケットを探して、と狙いを変えられる所。Jリーグにこんな素晴らしいお手本がいることは幸せなことだ。
5バックの弱点
このイニエスタのゴールからも分かるように、5バックには「横の連動」の意識が薄くなりやすいという弱点もある。
どういう事かというと、4バックは4人でピッチの横幅を守らなければならない。サイドにボールが入った時はSBが対応して、CBがズレて、もう1枚もズレて、逆サイドのSBは絞らなければならない。これが原則だ。相手にサイドチェンジされると、また4枚で横のスライドを繰り返さなければいけない。サイドチェンジには弱いが、常に横の連動は意識されていることが多い。※サイドにボールが入った時にサイドハーフに対応させる、アトレティコのような例もあるので注意。
一方で5バックは大外のレーンはWB、ペナルティーエリア幅に3名(つまり5レーンすべてにDF)を配置できるので、「横の連動」の意識が薄くなる場合がある。サイドチェンジには強いが、4バックの時よりも「横の連動」の意識は薄くなりがちと言える。
もちろん鹿島が対戦した浦和と、この試合の仙台を一緒くたにするつもりは無い。天皇杯の浦和DFの強度は高かった。しかし「お手本のような崩し」という面では勉強になると思う。
来年のJリーグで、鹿島はイニエスタ・ビジャ擁する神戸とも対戦することになる。ビジャも「ポケット」を狙うのが上手い選手だ。鹿島は逆に三竿健斗が「ポケット」を消すのが上手い選手。一瞬の隙も見せてはいけない。今から対戦が楽しみだ。