2019年のJリーグ開幕を前に、今年のJリーグのレフェリングスタンダードについて上川氏が説明する動画が公開された。
今回のブログは「微妙なレフェリング」のメカニズムを理解していただく良い機会になれば幸いだ。「誤審だ忖度だ」という言葉を使う前に、まずは規則の理解をしておくことは重要だと思う。
公開された動画
まずは肝心の動画を見ていただくのが早いだろう。
今回の動画で紹介されたのは項目は以下の4つの項目。
- ハンドリング(「意図的」の判断について)
- オフサイド(「利益を得る」「妨害する」の判断について)
- 著しく不正なプレー
- PK時のGKの反則
ハンドリング
まず、審判員のためのガイドラインには、ハンドリングの反則は以下のように記載されている。
競技者が手や腕を用いて意図的にボールに触れる行為はボールを手で扱う反則である。
主審は、この反則を見極めるとき、次のことを考慮しなければならない。
・ボールが手や腕の方向に動いているのではなく、手や腕がボールの方向に動く。
・相手競技者とボールの距離(予期していないボール)。
・手や腕が不必要な位置にある場合は、反則である。
この中の「ボールが手や腕の方向に動いているのではなく、手や腕がボールの方向に動く。」に該当しているかどうか、「手や腕が不必要な位置」にあるか。これが動画で説明された部分だ。
簡潔に言えば、「腕が自然な位置にあり、ボールの方向に動いていない」という状態であれば、例え手にボールが当たったとしてもハンドリングの反則ではない。
ペナルティエリア内のハンドリングにおいては、ボールが手に当たった時点で競技者も猛アピールするし、スタジアムも大騒ぎになるのだが、サッカーはこのような規則だということは理解する必要がある。
オフサイド
そしてオフサイドについて。オフサイドポジションにいる競技者が
- プレーの妨害をしたか
- 相手競技者の妨害をしたか
- その位置にいることによって利益を得るか
が判定の基準になる。「オフサイドポジションにいれば全てがオフサイド」なわけではないので注意してね。という内容だ。
動画には載っていないが、「オフサイドポジションからボールに向かって走る」という行為も、それだけではオフサイドにはならない。この辺は少し理解が難しい所だとは思う。
一方で、「オフサイドポジションにいて、相手GKの視線・視界を遮る」ようなポジションに位置していた場合は、ボールに干渉せずともオフサイドになる。
著しく不正なプレー
これについては説明不要だろう。両足を上げての危険なタックルやスパイクの裏を見せてのタックル、相手競技者の安全を脅かす危険なプレーは、著しく不正なプレーとして退場ですよ。という内容。
ちなみに審判員のためのガイドラインには以下のように明記されている。
いかなる競技者もボールに挑むときに、過剰な力や相手競技者の安全に危険を及ぼす方
法で、相手競技者に対し片足もしくは両足を使って前、横、あるいは後ろから突進した
場合、著しく不正なファウルプレーを犯したことになる。
ちなみに動画では説明されていなかったが、この類のプレーが行われた際は基本的にアドバンテージを適用せず、即座にファウルを取って退場を命じる。もしアドバンテージを適用した場合は、次のアウトオブプレーの時に退場を命じないといけない。というのも覚えておきたい。
PK時のGKの反則
これも常識の範囲なので今更取り上げる必要はないでしょう。インプレーになるまでゴールラインから離れるなってやつです。
ハンドリングで必ず起きるコンフリクト
そして、今回このブログで取り上げたいのは「ハンドリング」について。はっきり言って現状のハンドリングの反則の判断は難しくて私は嫌いだ。
私自身、プレイヤーとしても主審としてもピッチに立つ機会は多いのだが、現在のハンドリングの判定基準はコンフリクト(対立)が起きやすい。
それは主審の「解釈の余地」が大きすぎるからだ。
「手の動きが自然かどうか」を、サッカーのスピード感の中で納得感のあるようにジャッジするのは困難すぎる。選手であれば文句を言いたくなるし、主審であればハンドリングを取ろうが取らまいが十中八九文句を言われる。
そもそも上記動画で上川氏が「ハンドリングではない」と紹介したの1つ目の例も、私が主審ならハンドリングの反則だ。私が競技者なら守備をする時にあの位置に手は出さないので不自然だと考えるし、宇賀神との距離を考えてもあの場所にボールが来ることは予知できるはずと考える。上川氏は「(守備者が)ボールを避けるのは難しい」と言うが、守備者はボールから目を切っているので、守備者に過失がある。れっきとしたハンドリングだ。
↓これ
と、こんな感じに、Jリーグがオフィシャルに自信満々に判定したものでさえ、よく見れば解釈の余地があり、意見は分かれるだろう。
これはJリーグが悪いというよりは、IFAB(国際サッカー評議会)の問題なので、規則が変わってほしいなぁと願うばかりだ。
ハンドリングは「手にあたったかどうか」でジャッジするべき
これはJリーグへの提起ではなく、サッカーという競技の規則への提起だが、やはりハンドリングは「手に当たったか」で判断するべきだと私は思う。
主審をやる中で、「手に当たったかどうか」は比較的コンフリクトを起こさずにジャッジをすることが出来る。手にあたった選手は自分で分かるし、主審の目線から考えても「当たった・当たっていない」の判断は簡単だ。手に当たったかどうかの判断だけで解釈の余地が無いので、VARとの相性も良い。
しかし現行の規則では、同じ現象を見て「手の位置は自然だったのでノーファウル」ということもあるし「手の位置が不自然だったのでファウル」になることもある。ジャッジに個人差が生まれやすいし、選手とのコンフリクトも生まれやすい。
そもそも守備側の選手はハンドリングなんかしたくないのだから、基本的にはボールに向けて不自然に手を動かすことなんか無いとも考えられる。ハンドリングを取られてコンフリクトが起きるのも当然だ。
そして本来は攻撃側の利益の事も考えなければいけない。
現行の規則では、守備者の手にボールが当たることで攻撃側が大きく利益を失っているケースがほとんどだ。そうであれば、裁く側・競技者側の両目線から見て「手にあたったならPK」が分かりやすくて良くない?と私は思う。(サッカーは手を使っちゃいけないスポーツだしね!)
時間があれば次回は少し「オフサイド」について書いてみようかと。