2019年7月10日、天皇杯の東京ヴェルディ×法政大学の試合を観に行った。鹿島の上田綺世はユニバーシアードに行っているため出場していなかったが、それでも法政大学サッカー部がヴェルディに2-0で勝利した。
上田綺世が所属する法政大学サッカー部のサッカーを見られただけで、個人的には非常に実りのあるゲームだった。しかし想像以上に法政大学のサッカーが素晴らしかったため、「ある論点」について考察してみたくなった。
「ある論点」とは、タイトルにも記載している通り「上田綺世を一刻も早くプロでプレーさせた方が良い」という考え方についてだ。
東京ヴェルディvs法政大学
まずは東京ヴェルディvs法政大学がどのようなゲームだったのか、本当に簡単に伝えておきたい。
法政大学の4-4-2(4-2-3-1)は前半から非常に落ち着いたビルドアップを見せ、守備時は前線からの非常に連動したプレッシング(それもかなりのスピード感!)でヴェルディを苦しめ、ゲームを優位に運んだ。
特に前線からのプレッシングは白眉で、「寄せるスピード」「味方との連動」「切るべきコース(誘導)」「奪うべき場所でのインテンシティ」そのどれもが素晴らしいものだった。
特に「寄せるスピード」「味方との連動」あたりはJ1のクラブよりも優れるような高いレベルだった。
更に驚いたのが、法政大学の戦術の引き出しの多さと柔軟性だった。
「常に前プレ」でもなく、「常にビルドアップ」でもなく、「常にゲーゲンプレス」でもなく、「常に引いてブロックを作る」でもない。
相手の状況やスコア、そして味方の特性を意識した上で、上記を使い分けていた。
立ち上がりはGKを交えたビルドアップで相手の出方を伺い、タイミングを見計らって前線からの苛烈なプレッシングをかけショートカウンターで襲いかかる。
時間帯によっては自陣にブロックを敷いて相手を引き込み、裏をシンプルに狙う。
味方の選手の配置を見てシンプルなロングボールからのゲーゲンプレスも仕掛ける。
それらの引き出しを上手く使い分けながら、J2の東京ヴェルディを相手に、スコアも内容も完勝と言えるゲームを見せた。
戦術だけでなく、フィジカルや高さの争いでも東京ヴェルディに引けを取らず、スピードでも法政大学がヴェルディを上回る場面が多かった。戦術的な引き出しの多さに加え、フィジカル的にも法政大学は充実していた。
上田綺世はこの高いレベルでプレーしているという事実
さて本題だ。
端的に言うと、私は法政大学のプレーに感銘を受けた。
この日の法政大学のサッカーは、「鹿島なら勝てるか?」と自問自答した時に、すぐに頷く事など到底出来ないほどのレベルの高さだった。
上田綺世が大学に入って伸びたという理由も、すぐに理解出来た。
この選手たちとこの戦術レベルのサッカーに身を置き、学業にも励む。素晴らしい環境だと思う。
上田綺世のチームメイトたちも、ピッチ内での自分の仕事を理解し、懸命に走って全うする、素晴らしい選手たちだった。
一方で、上田綺世がコパ・アメリカで日本代表として戦った時に、こんな声も聞かれた。
「上田綺世を一刻も早くプロでプレーさせた方が良い」
気持ちは分かる。
上田綺世はまだ3年生なので、鹿島への正式入団は2021年からだ。「そんなに待っていられない」という気持ちは分かる。
おまけに彼のような才能のあるストライカーは日本サッカーの待望でもある。鹿島も優磨の状況を考えれば今すぐにでも加入してほしいチーム事情である事も事実。
しかし、私は上田綺世には大学サッカーを全うしてもらいたい。この日の法政大学の試合を見て、改めてそう確信した。
環境と成長の話
当たり前だが「人が伸びる環境」というのには個人差がある(これはビジネスの世界でも同じだ)。
高卒で鹿島に来て伸びる選手(柴崎や安部)もいれば、まずはJ2で試合経験を積んでから伸びる選手(安西や三竿健斗)だっている。
そして、大卒入団から活躍して鹿島を優勝に導いた選手(岩政)もいる。
高卒時点で鹿島は上田を獲得しなかったという事は、上田綺世も岩政の類の選手なのだろう。
それぞれの成長曲線も、伸びる環境も異なる以上、「プロだから伸びる」とは、私は口が裂けても言えない。
大学サッカーの環境があまりに酷く、レベルが低いのなら「プロに来れば伸びる」と言えるかもしれない。
しかし現状はそうじゃない。
法政大学のサッカーの戦術的な豊かさやチームとしての連動性は、鹿島アントラーズのそれをも上回る可能性だってあると私は感じた。上田綺世が身をおいてる環境は、そういう環境だ。
上田綺世には大学サッカーでチームとしてタイトルを取りまくり、大学サッカーにやり残す事が無いくらいまでやりきってほしい。
サッカー選手としての時間は確かに有限だ。しかし、体系的な学問を学びながら真剣なサッカーに取り組める時間が貴重である事も事実。プロサッカー選手になっていたら学べなかった事を学ぶ機会だってあるだろう。
大学サッカーでサッカー選手としても人間としても更に成長して、鹿島に入団する頃には「入団即エース」となるほどの実力をつけた上田綺世を見たい。