2020年の犬飼智也の進化とこれからの課題

今年の鹿島アントラーズで最も出場時間の長い選手。それはCBの犬飼智也。ザーゴが最も信頼を置いている選手であり、鹿島のDFリーダー。

ポジション柄、あまりスポットライトの当たる選手ではないが、今年の犬飼の進化と課題について書いてみたい。

右CBという天職とザーゴスタイル

今年の犬飼智也にとって大きな変革が2つあった。それはザーゴの就任と、「左CBから右CBへ」のポジションの変更。

この2つの変化が犬飼のレベルを1つ引き上げたように感じている。

まずはザーゴの就任。

ザーゴが志す「主導権を握るサッカー」は、昨年までの鹿島よりも明確にビルドアップやDFラインの攻撃参加を重要視している。そこで犬飼のパスのセンスやボールを持ち運ぶプレーが輝いている。(この点については後述する)

そして右CBへのポジション移行。これも犬飼のポテンシャルを引き上げた。

今年の犬飼のパスといえば「右足のインフロントでインスイングで巻いたボールを相手DFラインの裏に落とす」。これである。名前が長いので何かキャッチーな名前をつけたいくらいだが、格好良いのが思いつかないので取り敢えず「巻いて落とすパス」と表現しておく。

犬飼はとにかく「巻いて落とすパス」が上手い。

大岩体制では左CBをやる機会が多かったため、この「巻いて落とすパス」を披露する機会は少なかった(左サイドから右足で巻けばアウトしてしまうから)。

犬飼の「巻いて落とすパス」と、エヴェラウドの突進力、アラーノの猟犬のような動きは相性抜群だ。

相手CBは中途半端にDFラインの裏に落とされるボールを処理する度に、全力で突進してくるエヴェラウドと身体をぶつけなければいけない。エヴェラウドにショルダーチャージで勝てるDFはJリーグにいないので、いとも簡単にローリスクハイリターンの攻撃の出来上がりとなる。

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巻いて落とすパスと対角線のパス

犬飼の「巻いて落とすパス」は素晴らしい一方で、同サイドにしか蹴れないという欠点もある。

鹿島のゲームをよく見てる人ならご存知だと思うが、犬飼のロビングパスはほとんどが「同サイド(=右サイド)」に向けて蹴られる。

その精度は素晴らしいものの、対角線のパス(左サイドに蹴るパス)を犬飼は得意としていない。

おそらく犬飼はインサイドやインフロントで回転をかけて蹴るのが得意で、ストレートのロングボールはあまり得意ではない。

これは犬飼のこれからの課題の1つになると思うが、ストレート系のボールを対角線に入れられるようになれば攻撃面はJリーグトップクラスのDFになれるだろうと思う。(逆に関川郁万なんかはストレートのボールが抜群に良い)

運ぶドリブル

今年の犬飼は「運ぶドリブル」にも進化が見られた。

犬飼が鹿島のDFの中で最もボールを運ぶのが上手いのは間違いない。

今年の鹿島は相手に引かれて守られてしまう展開が例年より多かった。それは鹿島がボールを保持する事を例年よりも意識していたからだ。

そこで重要になるのが、まず相手の守備ブロックの第一ライン(例えば相手が4-4-2なら2トップ)を突破する事。そして相手の守備ブロックの2つ目のラインに揺さぶりをかけて歪みを生む事だ。

犬飼は機を見て相手の守備ブロックの第一ラインをドリブルで突破するプレーが増えた。

一見スペースに向けてボールを持ち運んでるだけなので大したプレーには映らないかもしれないが、とても重要なプレーだ。相手の組織を破壊するためにはまずは手前から歪みを作っていき、相手陣地には無かったスペースをこちらの動きによって作り出さなければいけない。

このプレーは恐らくザーゴが求めている事とも一致していて、ザーゴが犬飼を重宝している理由でもあるのだろう。

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対人を諦めてはいけない

最後に、今後の犬飼智也の課題について書く。

犬飼は相手と1対1になる局面で「手を使ってファウルで止める」シーンが多い。

最近だと川崎フロンターレ戦で三笘薫を手で引っ張ってイエローカード、柏レイソル戦でも相手を手で止めた。

犬飼が相手を手で止めるシーンには共通の状況がある。

今年の鹿島のSBは高い位置を取る事が多いため、トランジションでSBの裏を狙われ、犬飼がSBの裏に引っ張り出される。そして相手のアタッカーと一対一になる。この状況になると犬飼は相手を手で止めてしまう。

その相手はドリブラーだったりスピードのあるアタッカーだったりするので、たしかに一対一で止める難易度は高い。おまけに、今年の鹿島はファウルで相手を止めることを是とする風潮もある。

しかしこのようなプレーを続けていると、そのプレーに慣れてしまっていつの日か習慣になってしまう。DFリーダーである犬飼には、何とか一対一でも足掻いてノーファウルで止める術を身につけてほしい。「ファウルで止める」のと「ファウルでしか止められない」の差は大きい。鹿島の選手には後者にはならないでほしい。

相手は明らかに犬飼とドリブラーの一対一の局面を狙ってる。試合序盤に犬飼がイエローカードを貰ってしまえば、2回目からはこのパターンの攻撃を止める術が無くなってしまう。

このような状況はおそらく来年の試合でも起きるし、相手にとっては狙うべきポイントとなる。つまり犬飼が対人戦で強くならないと、鹿島はウィークポイントを克服出来ないという事にもなる。

逆に言えば犬飼の個の能力の進化が、そのまま鹿島の進化に繋がるとも言える。犬飼が強敵たちを一対一で”ノーファウルで”止める日が来るのを待ちわびている。

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