2012年の鹿島アントラーズ回顧録:スタイルの見えないジョルジーニョと流れを変えたドゥトラ【第7節~第9節】

2012年、ジョルジーニョ率いる鹿島アントラーズの試合を観ての回顧録。前回はコチラ

第7節 セレッソ大阪戦(3-2○)

GK 21 曽ヶ端 準 90分
DF 22 西 大伍 90分
DF 3 岩政 大樹 90分
DF 4 山村 和也 90分
DF 7 新井場 徹 90分
MF 27 梅鉢 貴秀 31分⇒柴崎岳
MF 15 青木 剛 45分⇒ドゥトラ
MF 25 遠藤 康 90分
MF 40 小笠原 満男 90分
FW 9 大迫 勇也 90分
FW 13 興梠 慎三 79分⇒ジュニーニョ

  • 前節、2012年リーグ戦初勝利を上げたものの、順位は17位の鹿島アントラーズ。スターティングメンバーは前節と同じ11人で挑む。
  • 前半は圧倒的なセレッソペース。ボールを支配され、攻め込まれ、ゴール前でパス回され、シュートも打たれまくる。
  • 鹿島はセレッソの中盤の4人(キム・ボギョン、清武、山口、扇原)が比較的自由にポジションを変えて動くのに全く対応できない。セレッソはスペイン代表的な、ティキ・タカ的なノリをやりたいんだと思う。で、そのノリで結構やられる。
  • 具体的なメカニズムとしては、セレッソのボランチを鹿島のボランチが見る予定だが、キム・ボギョンと清武までも中央に侵攻してきて、ボランチ2枚で4枚の選手を見なきゃいけない状況を作られていた。逆に鹿島のSBは誰を見ればいいのか分からない感じ。
  • 前節まで好パフォーマンスの梅鉢はファーストプレーで安易にボールを奪われてピンチを作る。攻撃面は課題。
  • 前半のうちにキム・ボギョンに2点を取られてしまう。キム・ボギョンは技術があるのはもちろんだけど、何よりも走れる。メチャクチャ走れて上手いので圧倒的な存在感。
  • 梅鉢が前半30分で柴崎に交代。ジョルジーニョは梅鉢のプレーが気になった模様。梅鉢の問題というより構造的にやられてるのが問題なので、正直誰がボランチでも一緒だと思うが……。
  • 柴崎は左MFに入り、小笠原はボランチに移る。柴崎は肉離れからの復帰早々に出場する事に。私は休ませてあげたいけどジョルジーニョは使うらしい。
  • 攻撃面では興梠がなんとかボールを引き出そうと奮闘する。しかし茂庭も興梠がキーマンだと理解しているので、厳しいマンマークで潰しに来る。
  • 攻められまくったけどなんとか前半を2失点で終える。
  • 後半からドゥトラを投入、中盤をダイヤモンドにして「ボランチ柴崎、右に遠藤、左に小笠原、トップ下にドゥトラ」のユニットに。セレッソに中央で数的優位を作られていたので、このシステム変更は流れを変える。
  • 後半は一転、鹿島ペースのゲームに。中盤のシステム変更、セレッソの運動量が相当落ちた事、ドゥトラが推進力のあるドリブルでボールを運んで相手を押し込めた事が要因。
  • ドゥトラはとにかくパワフルでエネルギッシュ。この時の鹿島の中盤の選手に最も足りなかったものをもたらしてくれた。ボールタッチに粗さはあるものの、差し引いても充分なパフォーマンス。
  • 前半はFWに「よろしくー」みたいなロングボールばかりで、興梠がボールを収めても誰も追随してくれなかったけど、後半はドゥトラが自分でボールを運んで相手をひきつけた所でパスをくれるので興梠の仕事が「点を取る事」に集中できている。
  • 57分にドゥトラがゴール。続けざまの62分には興梠が同点ゴール。カシマスタジアムが一気に沸き立つ。
  • そして85分、右サイドの西大伍がジュニーニョとのコンビネーションからハーフスペースに侵攻。左サイドで待つ遠藤康にスルーパスを通すと、遠藤が左足でニアに突き刺す!またヤスが勝ち越し!
  • この頃の西大伍は、守備のポジショニングや激しさ、攻め上がるタイミングなどはかなりイマイチ。でもボールタッチやパスの能力なんかは「若くてもやっぱり西大伍だ」と思える。しかしまだSBの選手ではなくて「SHの選手がSBやってる」みたいな感じ。
  • ゲーム内容(特に前半)的には会心の勝利ではないものの、連勝した事が重要。小笠原のパフォーマンスも少し向上した感もあり、遠藤康も良い動きを継続している。この時の鹿島はメンタルの状態が良くないように見えるので、勝利で自信を深めてほしい。ちなみにこのセレッソ戦でカシマスタジアム通算200勝達成。
  • MOMはドゥトラ。この時のドゥトラは助っ人のレベルとしては超高い。アラーノとかの比ではないくらい高い。
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第8節 ガンバ大阪戦(5-0○)

GK 21 曽ヶ端 準 90分
DF 22 西 大伍 90分
DF 3 岩政 大樹 90分
DF 4 山村 和也 90分
DF 7 新井場 徹 90分
MF 20 柴崎 岳 90分
MF 25 遠藤 康 90分
MF 40 小笠原 満男 66分⇒青木剛
MF 11 ドゥトラ 77分⇒本山雅志
FW 9 大迫 勇也 90分
FW 13 興梠 慎三 77分⇒ジュニーニョ

  • 鹿島と全く同じ勝点の積み方をしてるガンバ大阪との対戦。
  • スタメンは中盤ダイヤモンドのアンカーに柴崎、左に小笠原、右にヤス、トップ下にドゥトラの形。
  • 試合序盤から鹿島が貪欲に攻め立て、シュートを打ちまくる。
  • 攻撃を牽引したのはドゥトラ。前節までの「FWよろしくー」の攻撃の組み立てだけではなく、トップ下のドゥトラが強引にドリブルでボールを運ぶという選択肢ができた。で、ドゥトラが超エネルギッシュでパワフルなのでかなり効果的。
  • 誰もドゥトラを止められない。高いし強いし速い。チャンスメイクしまくり。
  • 地味に興梠もポストプレーでボールを引き出し続ける。大迫との息も合ってる。
  • 鹿島はダイヤモンドのアンカー柴崎なので、ガンバが中央に複数名侵入して攻めてきたらヤバい状態なんだけど、なぜかサイド攻撃に拘ってくれたので鹿島としてはかなり守りやすかった。サイドの守備は2-2で守れるし、クロスが入ってきても岩政と山村が高いので負けない。
  • ガンバは鹿島のセレッソ戦のビデオ見てなかったのか……なにこの戦い方……と少し心配になるほど酷い。
  • 西が攻め上がって大迫がサイドでボールを引き出し、西がインナーラップ。PA内で再び西がボールを受けて、最後は遠藤が豪快に決めて先制点。
  • 後半は新井場が超絶パフォーマンス。何度も攻め上がるし、パスもトラップもドリブルもキレッキレ。開幕から8試合。ようやく本当の新井場が見れた感じ。対面の加地亮を完全制圧。左サイドから攻め放題の状態に。
  • 2点目は左サイドから。ドゥトラ⇒新井場⇒興梠で2点目。
  • 3点目も左サイドから。新井場がライン際でマルセイユルーレットで相手をかわしてクロス。こぼれをドゥトラが凄い勢いで拾ってPAにドリブルで侵入。最後は横で待つ大迫へ。蹴り込んで大迫が待望のシーズン初ゴール。スタジアムもジョルジーニョも、ベンチに下がった小笠原も「待ってました」という表情。
  • 4点目も左サイドから。新井場のスローインからヤス・ジュニーニョで崩して中央の大迫へパス。大迫がヒールで落とした所に途中出場の本山雅志。シュートうま!本山!!
  • 5点目は遠藤が大迫にロングフィード。ボールが長くなったけどガンバGKの藤ヶ谷が処理で空振って大迫が無人のゴールに流し込む。
  • 終わってみればシュート21本。ポストに当たったシュートも決定機ももっとあったので、8点くらい取れたゲーム。爆勝。
  • 小笠原のコンディションが少し戻ってきた感。闘志も戻ってきた感じ。
  • ドゥトラがもたらしてくれたエネルギーは大きい。この推進力とか、前に挑んでいく力が必要だった。
  • MOMは新井場徹。ロナウジーニョがSBやってるみたいなプレーぶりだった。ここまでサイドを蹂躙すると5点取れるらしい。あとは地味に岩政が空中戦で圧勝してたのもデカい。岩政が影のMVP。

第9節 清水エスパルス戦(0-3●)

GK 21 曽ヶ端 準 90分
DF 22 西 大伍 90分
DF 3 岩政 大樹 73分⇒ジュニーニョ
DF 4 山村 和也 90分
DF 7 新井場 徹 90分
MF 20 柴崎 岳 90分
MF 25 遠藤 康 90分
MF 40 小笠原 満男 90分
MF 11 ドゥトラ 60分⇒青木剛
FW 13 興梠 慎三 90分
FW 9 大迫 勇也 60分⇒岡本英也

  • GWの連戦2試合目。アウェイゲーム。
  • 清水には伊藤翔がいたり、小野伸二がキャプテンマークを巻いていたり、高卒1年目の白崎や高原直泰がベンチに入っていたりと、今見ると中々興味深いメンバー。
  • 鹿島は前節と同じスタメン。連勝しているからとは言え、どう見ても小笠原のインサイドハーフは違うと思うんだけれど、ジョルジーニョは小笠原をそこで使う。
  • 梅鉢がとうとうベンチ外に。セレッソ戦のパフォーマンスがそんなに気に入らなかったのか……。普通に梅鉢アンカー、柴崎とヤスのインサイドハーフがこの時の鹿島の最強スカッドだと思うよージョルジーニョさん。
  • ゴトビ監督の清水は、コンセプトも伝わるし動きも鹿島より統制されていて好印象。バルサ式4-3-3。プレッシングもトランジションも速く、クロスの狙いも的確。かなり良いチーム。
  • 小野伸二が上手すぎる。バカ上手い。バルサ式4-3-3のインサイドハーフやらせたら小野伸二の右に出る選手はいない。コンディションも良さそう。
  • 小野伸二⇒右SBからオーバーラップした吉田豊が高速クロス⇒伊藤翔がこぼれ球押し込んで失点
  • 鹿島は一応中盤の数が相手より多いのでビルドアップで数的優位を作りやすいはずなんだけど、そういう細かい事はやった事無い時代なので、清水の統制されたプレッシングにやられちゃってる。清水の方が人数多く見える。これはガチで監督の差。
  • どこの場所にボールがあっても基本的に清水の方が数的優位。ボールの動きに合わせてラインを上げ下げして選手の距離感を整えてる清水と、攻撃3枚と守備陣で完全に分断されてる鹿島の差。結果、柴崎やヤスの無駄走りがめちゃ増える割に全然状況は改善されない。
  • 清水はプレッシングに人数かけてるので、CBは同数で守ってる。カウンターでどうにかなりそうだと思ってしまうが、そもそもFWまでボールが来ないのと、たまに来てもカルフィン・ヨン・ア・ピンの能力が高すぎて大迫はほとんど何もできず。
  • 後半に大迫に代えて岡本。ドゥトラに代えて青木を投入。柴崎を上げる。
  • 柴崎を一列上げたことで高い位置からボールを奪いに行けるようになる。少しずつ流れが良くなる。
  • 伊藤翔のポストプレーから高木俊幸がドリブルで持ち込んでデルピエロゾーンから決められて0-2。伊藤翔良いプレーしよる。
  • 立て続けに失点。今度は高原が中盤でキープいてサイドに展開。高木俊幸がクロス上げて大前がボレー。実況の桑原さんも「パーフェクトカウンター」と絶賛。とどめを刺されて万事休す。
  • MOMは清水のカルフィン・ヨン・ア・ピン。この頃のヨンアピンはブエノ感ある。強い。
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2012年7節~9節までの感想

セレッソ戦の劇的な勝利、ガンバ戦の爆勝で「あれ?強いんじゃね?」と勘違いしそうになったところで、清水に現実を見せられるという3試合だった。

ガンバ戦は選手のパフォーマンスも良く、おそらくこのシーズンのベストゲームだと思うのだが、鹿島の選手のコンディションの良さに加えて相手の松波監督が相当ヤバかったというのもある(この年にガンバは初の降格を経験する)。

逆に清水のゴトビ監督は、2020年の今見てもモダンなフットボールを作り上げていた。選手の質は鹿島の方が高いはずなのに、完膚なきまでに負けた。このゲームに関しては、両チームの差は監督の差と言って良い。統率の具合がまるで違った。

この時代はペップがバルサで最強を作り上げた時代で、クロップがドルトムントでゲーゲンプレスを見せつけた時代。つまり戦術的な大きなトレンドが移ろう時代だった。

Jリーグでも自らのスタイルをピッチに落とし込めた監督と、そうでない監督に差が生まれていたんだなと感じた。ガンバと鹿島は後者側だったのだと思う。

その象徴が清水×鹿島の試合。

もう一つ、「ジョルジーニョはなぜ中盤ダイヤモンドに拘ったのか?」については、まだ仮説すら導けない。セレッソ戦のシステム変更は当たった。あの試合だけは合理的だった。でも他の試合については今の所「なんでダイヤモンドなんだ……」としか思えない。

ジョルジーニョの目指すサッカーのコンセプトもほとんど分からないまま9試合が経過してしまった。爆勝したガンバ戦も結局、3連覇した時の遺産のような戦い方に見えた。

小笠原のインサイドハーフはもう見たくないよジョルジーニョ。

次に続く。

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