2019年Jリーグ第12節、鹿島アントラーズVS松本山雅戦。マッチレビュー。
試合結果
5-0
【得点】
25′ レオ シルバ
47′ 白崎 凌兵
54′ セルジーニョ
65′ 白崎 凌兵
83′ 中村 充孝
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォン・スンテ
DF 永木亮太 チョンスンヒョン 犬飼智也 安西幸輝
MF 三竿健斗 レオシルバ 白崎凌兵 レアンドロ
FW 土居聖真 セルジーニョ
スターティングメンバーは前節のヴィッセル神戸戦と同じ。大岩監督はおそらく神戸戦の戦いに手応えを感じたのだろう。伊藤翔を外してセルジーニョと土居の「0トップ」は形になっていた。
私も前節は良い試合内容だったと思う。今節はその形を踏襲した。
これまでの鹿島の「リアクション型」のサッカーから、土居・白崎を中心に相手陣地に迫る「アクション型」のサッカーへ。この型をチームでモノにできれば、鹿島はおそらく1つ上のステップへ行ける。
松本山雅との今節は、神戸戦で見せた「型」らしきものに再現性があるのか。それを確認する上で非常に重要だ。
試合レビュー
早速試合を振り返っていこう。まず初めに書いておきたいが、前節に見せた鹿島の「型」はこの試合でも再現された。しかも、前節よりも精度を高めて。今シーズンベストゲームと言って良い内容だろう。
その「攻撃の型」について、私なりに5分類して説明してみたい。参考になれば幸いだ。
基本配置
まずは両チームの基本配置から抑えておこう。
▼赤黒を鹿島、白を松本で表現
これが基本配置。鹿島は、守備時はこの形と同じ4-4-2の位置を取る。攻撃時については追って説明するような形に変化する。
松本は守備時はWBとST(シャドー)がそれぞれ1列降りて5-4-1という形になる。
鹿島としては、「相手が引いて守った時の崩し」は昨シーズンからの課題だ。この試合では、引いて守る松本山雅をどう崩すのかがポイントとなったわけだが、かなり機能していた。
その「鹿島の攻撃の型」を分類して説明していきたい。
攻撃の型①2-4-4-型
まずはこの型。図解から見ていただきたい。
まずはこの形から。これはこの試合の特徴的な型ではなく、以前からもずっとあった型だ。この型は「鹿島の攻撃時のベース」と言える。
SBとSHがそれぞれ攻撃的な位置取りをし、ボランチとFWはそのまま。
相手が引いてきた時は、このパターンをベースにサイドアタックとサイドチェンジを繰り返す。目新しい型ではないので細かい説明は割愛させていただく。
ちなみに鹿島の4点目(土居のクロスから白崎のヘッド)は、この型で点が取れた。
攻撃の型②疑似3TOP型
2つ目は「疑似3TOP型」だ。
2-4-4のベースから、土居がボランチの位置まで落ちて、替わりにSHの2名がFWのような位置取りをする。この型への可変は「土居のボランチ落ち」がトリガーとなる。
この型のメリットは、土居が「相手ボランチの横」など中間ポジションに位置取りすることによって、相手の中盤の守備に迷いを生む。そして鹿島の中盤に数的優位と位置的優位の2つを生み、ボール運びを円滑にする。
攻撃の型③ブラジルトリオ型
3つ目はブラジルトリオ型。これはレアンドロの復調と、セルジーニョ・レオとの同時起用によって見られるようになった。
右サイドのレアンドロがボールを持った時、レオとセルジーニョが近い位置取りをすることでトライアングルを形成する。
レアンドロは相手の逆を取るのが上手く、レオは五分五分のボールに必ず勝ってくれて、セルジーニョはシンプルに残りの2名を使いながらゴールを狙う。相手にとっては面倒くさい事この上ないトライアングルだろう。
鹿島の3点目(セルジーニョのミドル)は、この型を形成しそうな所を相手が警戒し、その隙をセルジーニョが射抜いた。
攻撃の型④安西特攻型
今シーズンの鹿島は、この型一辺倒な試合が多かった。
安西が高い位置を取り、大外のレーンでアイソレーション(1VS1)を仕掛ける。
これが「あくまで型の1つ」となっていたのが松本山雅戦だ。この型に依存しない分、安西の負担が減り、相手が他を警戒している所に安西が飛び出してくるので、より有効に安西を使うことが出来る。
この型をより効果的にしているのが、白崎と土居の存在。白崎はボールを持ちすぎずにテンポよくボールを回すため、安西のタイミングを外すことが無い。土居は中途半端なポジションを取ることで、相手を動かしてスペースを作ってくれる。
この3名のトライアングルは、ブラジルトリオのトライアングルと同じくらいに相手の脅威となっていた。
「安西頼み」から「安西を有効に使う」への進化は、大きな意味がある。
攻撃の型⑤レオ・シルバFW型
最後はレオ・シルバFW型。
「疑似3TOP型」と近いが、セルジーニョが中盤に降りてレオが最前線に飛び出る。三竿・土居・セルジ・レオが、レオを頂点にダイヤモンドを組むようなイメージだ。
これもトリガーは土居のボランチ落ちなのだが、土居に加えてセルジーニョまで中盤に落ちちゃうのが特徴。
セルジーニョは中盤に落ちても遜色なくパス回しに参加出来るし、ミドルシュートも持っている。レオはパワーを持ってゴール前に侵入出来るので、攻撃が停滞した時にそれぞれの特徴を活かして変化を加える事が出来る。
この型によってゴールが生まれたわけではないが、何回かこの動きが見られ、試合展開によっては有効に活用できそうな型だった。
型よりも重要なこと
攻撃の型を5分類しておいて申し訳ないが、攻撃の型よりも重要な事がある。
それは鹿島の選手がそれぞれインテリジェンスの高い動きをしていた事だ。
例えば白崎と土居聖真。土居が相手の中間ポジションに引いてボールを受けようとするのを見れば、白崎は相手の背後を狙う。選手同士が気を利かせて動くによって相手の守備の距離感を適切に保たせず、迷いも生ませる。
つまり、「味方と連動した動きをする」という事だ。
これがブラジルトリオの間でも起きていたし、目立たないが三竿も絶えず繰り返していた。
私が分類した「攻撃の型」は、おそらく予め決められた動き方ではないと思う。「あいつはこのように動きそうだから、俺はここに動こう」という、選手同士の気の利いたポジショニングによって結果的に生まれたに過ぎないものだと思う。
↓こんなイメージ
正確には前節からですが、今日の鹿島は選手たちが共鳴しているような感覚がありました。
強い時の鹿島にあった感覚。小笠原が言う「本山や野沢は細かい事を喋らなくても分かってくれたのでやりやすかった」という、まさにそれ。これを、上位相手にもやれれば優勝がやっと見えてくる。
— ロニー (@ronnie_antlers) May 18, 2019
キーマンは土居聖真・白崎凌兵・三竿健斗
私は今の鹿島の有機的な動きのキーマンは土居・白崎・三竿の3名だと思っている。
きっかけは土居聖真
まず土居。彼がすべての攻撃の型のトリガーになっている事が多い。「さぁ、どうやって攻めようか?」とい状況でファーストアクションを起こすのはいつも土居聖真であり、ボールを失わない土居ならば安心してボールを預ける事が出来る。
土居が試合に出ない時に、これほど有機的なプレーを見せられるどうか、というのは、鹿島の大きな課題になるだろう。
土居が下がった後、白崎をFWに据えたのは、「土居以外の選手でも同じ攻撃を構築できるか」という意味合いも強かったのではないだろうかと思った。
この日生まれた2ゴールは、白崎の動きの質のよって生まれたものだった。
攻撃をスムースにする白崎凌兵
白崎凌兵。彼は動き方が賢い。決して難しいプレーをしているわけではないし、テクニックとして超上級なものを披露しているわけではない。足元の技術だけなら安部裕葵の方が上だろう。
白崎の動きの賢さは、「相手を見ていること」「基本的な動きをサボらないこと」の2つによって担保されている。
白崎は相手を見て、絶妙に嫌なポジションに位置取る。これを繰り返す事で、例え自分にボールが来なかったとしても味方を自由にする役目を担っている。
そして素晴らしいのは、基本的な動きをサボらないことだ。
裏に抜ける選手が誰もいなければ抜ける。中盤でパスが滞っていたら助けに行く。チャンスがあればゴール前に侵入する。すべてが基本的な動きだが、それをサボらない事は重要だ。これに関しては伊藤翔と通ずるものがある。
攻撃し続けるための三竿健斗
今の鹿島が上手く回っているのを土台で支えているのは間違いなく三竿だ。
攻撃を仕掛けている時でも常にリスクマネジメントに気を配り、攻撃が滞ったら受け皿になれる場所に位置取る。ネガティブトランジションの時に真っ先にボールを奪いに行ってくれる三竿がいることで、鹿島はずっと攻撃を続けられる。
ビルドアップの進化も目を見張るものがあり、間違いなく鹿島の心臓となっている。
松本山雅はどうだった?
鹿島の話ばかりになってしまったので、松本山雅についても最後に書き記しておこう。
私は以下の2点がポイントだったと思う。
- 前田大然とスンヒョンのミスマッチ
- シャドーを守備に回らせる
まず前田大然とスンヒョンのスピードのミスマッチ。松本山雅はこれを最大限活かすべく戦術を練るべきだった。事実、鹿島が脅威を感じたのは前田大然がスンヒョンに仕掛けた単騎特攻だった。
前田大然とスンヒョンのミスマッチを松本山雅が突いてこなかった(突けなかった)のは、鹿島にとっては助けられた。
もう一つ、松本山雅がシャドーの2名を守備に回らせたのは悪手であり、鹿島にとっては有難かった。前田大然が安西に付いて守備に回ると安西の対策にはなるが、その分鹿島にとって最も脅威な選手がゴールから遠ざかる。
安西や永木に前田が付いてくるなら、安西と永木は高い位置にいれば良い。それが鹿島にとって最も効率的な守備になる。
それらを加味して松本山雅は守備をデザインしなければいけなかったのだろうと思うし、逆にそうさせなかった鹿島の攻撃は、称賛されるべきだろう。
MVP
MVPは白崎凌兵!文句なしでしょう!誕生日おめでとう!