2019年Jリーグ第13節、サガン鳥栖VS鹿島アントラーズ戦。マッチレビュー。
試合結果
0-1
【得点】
90分+4 豊田 陽平
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォン・スンテ
DF 山本脩斗 チョンスンヒョン 犬飼智也 安西幸輝
MF 三竿健斗 レオシルバ 白崎凌兵 レアンドロ
FW 土居聖真 セルジーニョ
スターティングメンバーは前節の松本山雅戦から永木亮太⇒山本脩斗に変更。この意図はおそらく、永木を休ませたいことと、鳥栖の豊田への高さ対策だろう。
清水・神戸・松本山雅と3試合を好調に戦い抜いたチームのベースは変えずに、この試合では甦った鳥栖の強度の高さを前に、勝利を掴めるかがポイントとなる。
試合レビュー
早速試合を振り返っていこう。このゲームについて、いくつか絞ってポイントを挙げていきたい。
フォーメーション
まず、念の為両チームのフォーメーションを確認しておこう。
▼鹿島を赤黒、鳥栖を白で表現
基本のポジションは互いに4-4-2。「普通に戦えばがっぷり四つで組み合うが、どうやって数的優位を確保していくか」というのはポイントになるので、頭の片隅に入れながらこの後の文章を読んでいただけると幸いだ。
鳥栖と鹿島のプレッシングとロングボール
まずこのゲームを見る上で重要だったのが、両チームのプレッシングについて。
鹿島のプレッシング
鹿島は前までのゲームと同様に、FWの選手が相手陣地の深い位置までプレッシングをかけにいった。
相手の両CBに鹿島の両FWが行き、DFラインに落ちるボランチにはレオが付いていく。
前節まで上手く行ったこの前線からの守備を、この試合でも繰り返した。
しかし、鳥栖と松本山雅・神戸には決定的な違いがあった。それは鹿島が前からプレスをかけた時、鳥栖はロングボールを迷わず蹴ったこと。
鳥栖側の視点に立てば、前線には競り合いの強い豊田・金崎を揃えているのでロングボールを蹴り出すのは当たり前だろう。鹿島が前からプレスをかけてこようが、大してダメージはない。
鹿島側としても、スンヒョンや山本がいるので「ロングボールを蹴られてもオッケー」という認識だったのだろうとは思う。
これは、「お互いがそれなりに想定内」の展開だったはずだ。しかし、鹿島側にとって不利に働いた。鹿島のDF陣は想定よりもロングボールに圧勝する事ができなかった。金崎はスンヒョンの苦手なタイプだったし、豊田も流石の空中戦を披露した。
戦術の前提を「選手の質や相手との相性」が覆すのは、この日のゲームのようなケースだ。
鳥栖のプレッシング
一方のサガン鳥栖も鹿島のDFラインがビルドアップ行う時、プレスをかけてきた。
両CBには鳥栖のFWが、三竿には原川、レオには福田がそれぞれ厳しいプレッシャーをかけ、ボールは唯一空いているスンテのもとに。
鹿島はGKを含めたビルドアップをあまりしないので、スンテは約束どおりにロングボールを蹴った。
※これはスンテが悪いわけではなく、鹿島は昔からGK含めたビルドアップをあまりしない。
しかし、「鳥栖のロングボール」と「鹿島のロングボール」は意味合いが違う。鹿島の前線は空中戦を得意とする豊田・金崎ではなく、セルジーニョと土居だ。しかも鳥栖のCBの空中戦は強い。
当然、ロングボールの勝率は悪い。
鹿島と鳥栖は五分五分に戦っているように見えて、「想定内だった鳥栖」と「想定外だった鹿島」という差は確実に生まれていた。
こだわり続けたプレッシング
鹿島はこの試合、前線からのプレッシングにこだわり続けた。こだわり続けたというか、ほとんどハマっていないのに習慣のようにダラダラとCBの位置までプレスをかけに行ってしまった。
これはハッキリ言って悪手だった。
土居とセルジーニョが前線からボールを追ったところでロングボールで逃げられるだけだし、ロングボールで逃げられた先で空中戦に勝てるとも限らない。
それならば土居・セルジーニョ・レオは前からのプレスをやめて、全体をコンパクトに保ちセカンドボールの回収に回ったほうが効率が良い。
前線からのプレッシングを続ける事は監督からの指示だったのか選手の判断かは判然としないが、当初のプランがハマらない場合は、柔軟に戦い方は変えるべきだ。「自分たちのやり方」よりも「勝利」の方がウェイトは重いのだから。
鹿島の生命線レオ・シルバ封じ
サガン鳥栖がこの試合に施した策の1つは、レオ・シルバ封じだった。
レオが低い位置にいる時は豊田や金崎がプレスバック、レオがアタッキングサードに侵攻した時は福田が、執拗にレオを追い回した。
鹿島の攻撃の生命線はレオ・シルバであり、一方でレオは相手に囲まれても自力で打開しようとするきらいがあるため、鳥栖の罠にかかりやすかった。
鳥栖の両FWの献身性は、この試合におけるMVP級の働きだったし、鹿島にとってはこの上なく困る存在だった。
鳥栖右サイドの「縦切り」
さらにサガン鳥栖の仕掛けた策はこれだけで終わらなかった。
鹿島はこの試合、左サイドの安西と白崎が抑えられてしまった。
彼らを抑えた方法は、鳥栖の右サイドの2人による「縦切り」によって成立していた。
このメカニズムは図を見ていただこう。
- 豊田がレオの位置までプレスバックをする
- 豊田が戻ってきてくれるのでボランチの福田が余る
- 鳥栖の松岡や小林祐三は、安西・白崎と対峙した時に縦切りをして中央に誘導する
- 福田の所で数的優位を作る
このようなメカニズムで、鳥栖は上手く数的優位を作ることに成功していた。
福田が余っているポジションは、本来土居聖真が動き回りたいポジションであり、レオがドリブルで侵入したいポジションだ。
豊田のプレスバックをトリガーに、ピッチ中央で数的優位を作り、そこに相手を誘導する。
サガン鳥栖の、献身性によって担保された実に合理的な守備だった。
鳥栖の守り方が鹿島にハマってしまった理由
この鳥栖の守り方が鹿島にハマる理由がある。それは前のACL山東戦のマッチレビューにも書いた課題と同じ理由による。
鹿島CBのビルドアップが相手にとって脅威ではないこと。
これだった。レオに実質2名のマークが付くということは、犬飼が空いている。本来は犬飼がレオの代わりにボールを運んだり散らしたりすることによって、豊田を引きつけたり福田を引き出したりする役目を負わなければいけない。
一方でレオも、もっと上手く犬飼を活用してゲームをコントロールしなければならない。
フィールドプレイヤーの数が10人同士である以上、どこかに数的不利があるということは、どこかに数的優位が発生している。
CBを参加させた攻撃については、今後も鹿島の課題といえるだろう。
MIP
三竿健斗。強度の高いゲームでも、人一倍のインテンシティを見せてくれた。「実は鳥栖のゲームだった」にもかかわらず、一見五分五分のゲームに見えたのは三竿が肝心な局地戦で勝利していたからに他ならない。
攻撃が停滞した時のゲームコントロールさえ身につければ、三竿は国内最強のボランチになれるだろう。次はチームを勝利に導く活躍を期待したい。