小笠原満男の鹿島アントラーズ・アカデミー・アドバイザー就任が発表された。小笠原が今後も鹿島にいてくれること、そしてその経験を後進に伝えられる役割についたことは非常に喜ばしいことだ。
今回の記事では、小笠原満男のアカデミー・アドバイザー就任に見る、鹿島アントラーズの「戦略」について書きたい。
アカデミー・アドバイザーとは?
まず、そもそもアカデミー・アドバイザーって何?ということから。鹿島の公式リリースから引用させていただくと
スクールからユースまで育成部門の全カテゴリーに対し、これまでのプロ経験を生かして実技や指導等のサポートを行う。
とのこと。これは鹿島にとってポジティブな影響が大きい。
鹿島のアカデミーに選手を入れれば、日本人最多17個ものタイトルを獲得した小笠原満男から指導のチャンスがある。
子供たちにとっては勿論有益であると同時に、子どもたちの親世代への影響力が大きい。
「ウチの子が、柳沢と小笠原からサッカーを教えてもらえるかもしれない」
という”ブランド力”は、親たちにとってこの上なく贅沢に映ることだろう。
ユース寮への投資
小笠原のアカデミー・アドバイザー就任と合わせて、鹿島アントラーズのユース寮新設についても触れたい。
鹿島は5億円を投資して、クラブハウスに隣接する新たなユース寮を新設するとのこと(ソースは日本経済新聞)。
ユースはユース専用の施設があり、トップチームはトップチーム専用の施設がある。ジーコも口にしているように、これが恐らく鹿島の目指す環境なのだろう。
これはヨーロッパのスタンダードではあるが、鹿島が追いついていなかったところだ。
良い選手をユースに入れるために、まず必要なのは「環境を整えること」だ。鹿島は近年、土居や優磨、町田や平戸などの選手をユースから輩出しており、実績の面では良いアピールになっていることだろう。これに加えて、素晴らしい環境を整えることが出来たなら、鹿島のユースのレベルアップ、ひいてはトップチームの生え抜き選手増加とレベルアップにも繋がっていく事だろう。
スタメンのほとんどを鹿島アントラーズユースを始めとする生え抜きの選手で固めるような、そんな未来も来るかもしれない。
サッカークラブに重要な「戦略」の話
ここからは、「戦略」の話に移りたい。以前に書いた↓の記事の続きのような内容にもなるかもしれない。
私はこの記事の中で
「戦力の差」だけは先程挙げた変数の中でウェイトが重いと私は考えている。サッカーは基本的には、上手くて速くて強くて頭の良い11人を揃えたら勝てる。「戦力差」は、勝利への影響力がすこぶる強い。
と記載した。そう、「戦力の差」は監督の手腕ではないところ。つまり「サッカークラブの戦略」の部分に当たる。
「上手くて速くて強くて頭の良い11人」(=最強の11人)を集めるのがサッカークラブの戦略だ。戦術を浸透させるよりも何よりも、それが最も勝利への影響力が強い。
ヴィッセル神戸の「戦略」
「最強の11人」とまではいかないが、「戦略」レベルで明らかに異常な動きをしているJリーグクラブがある。ヴィッセル神戸だ。
ポドルスキを獲得し、イニエスタを獲得し、ビジャを獲得し、サンペールを獲得した(山口蛍も、西大伍も)。
他のJリーグクラブが「戦術がどうだ」「連携がどうだ」「スタジアムがどうだ」と苦心している中、最も手っ取り早い方法で勝利への道を進もうとしている。有能な選手を集め、「戦略」レベル(=戦力差)で埋めようのない差をつけてしまえ。それがヴィッセル神戸、三木谷浩史という男のやっている事だ。
三木谷オーナーがやろうとしていることは、サッカークラブが勝利を目指す上で「戦略」的に合理的だ。
ピッチの上だけで起きていることが、プロサッカークラブの全てではない。試合までの「準備」で、勝負の大勢が決してしまうことは有り得る。
ヴィッセル神戸以外のクラブは、常に「ヴィッセル神戸」を意識して行動しなければいけない。
「戦略」レベルで、ヴィッセル神戸に劣らないものを捻り出していく必要がある。
もちろん三木谷オーナーが”飽きて”しまい、ヴィッセル神戸が凋落する可能性はある。あるいは、ヴィッセル神戸はサッカークラブ単体の事業で考えれば健全な経営をしているわけではないので、いつこの勢いが破綻するかも分からない。
とはいえ今年のヴィッセル神戸のモチベーションが今後何年も続くならば、当面マークしておくべき敵は川崎フロンターレでも浦和レッズでもなく、ヴィッセル神戸になるのは間違いない。
鹿島アントラーズの「戦略」
では、鹿島アントラーズはどのような「戦略」を取ろうとしているのか。
どのような方法で、「最強の11人」を作ろうとしているのか。
その「戦略」がヴィッセル神戸よりも優秀であれば、鹿島アントラーズは「勝利を掴み続けられるクラブ」になるだろう。
鹿島の「戦略」の一つが、この記事で述べた「アカデミーへの投資」ではないだろうか。小笠原をアカデミーのアドバイザーに加え、ユース寮を新設する。
ヴィッセル神戸が「完成された選手」に大金を払って獲得するのに対し、鹿島は「未完の大器」を鹿島色に染め上げて「最強の11人」を目指していく。恐らくだが、これが鹿島の思い描く戦略の一つになるのではないか。
マネーゲームでヴィッセル神戸と戦うのは非現実である。というか不可能だ。となれば、優秀な若い選手の囲い込みに成功するか否かが、今後20年の鹿島の獲得タイトル数に大きな影響を及ぼす。
鹿島はアカデミーだけではなく、ユース監督だった熊谷皓二がスカウト担当になるなど、スカウトにも力を入れる動きをしているようにも見える。
良くも悪くも、DAZNマネーの投入、ヴィッセルの積極補強がJリーグ各クラブの「戦略」に火を付けるのは間違いないはずだ。
鹿島は鹿島の道で、他クラブが追いつけない「戦力の差」を作っていってほしい。