公式戦6連敗から始まった2020年の鹿島アントラーズ。その後、徐々にではあるが結果が上向いてきた。その立役者として、遠藤康の存在がある。今回は彼がピッチの上で行っているプレーを言葉にしたい。
遠藤康が先発に入ってから結果が上向き
少しずつ結果が出てきた鹿島。その「結果が出始めた試合」の全てに、遠藤康はスタメン出場している。
今季、遠藤康がスタメンに入った3ゲームは2勝1分け、スタメンに入っていないゲームは7戦全敗。
結果だけではなく、内容の面でも遠藤康は群を抜いて存在感を放っている。
事実、最近は(結果が出始めた事もあり)ザーゴも遠藤康をトップ下の1stチョイスにしているほどだ。
遠藤康はピッチの上で何をしているのか?
なぜ遠藤康が先発の試合では結果が出ているのだろうか。
そのヒントを紐解くために、彼がやっているプレーを観察してみたい。
彼がピッチの上でやっていて、他の選手がやっていない事は以下の3つに分類出来る。
- 緩急のコントロール(時間と体力のコントロール)
- パスの距離感の補正
- 相手の守備ブロックの歪みを突く
1つずつ説明してみたい。
緩急のコントロール(時間と体力のコントロール)
1つ目は緩急のコントロール。
遠藤康がいる時といない時の大きな違いは、緩急をコントロールする選手がいるかいないか、だ。
その効用を説明するには、ザーゴのサッカーの特徴を理解する必要がある。
ザーゴのサッカーでは、相手の最終ラインの裏を突こうとするロングパスが多用される。昨シーズンまでとの大きな違いだ。
当然ロングパスなので成功する確率はマチマチなのだが、これを繰り返すには前線の選手にはスプリントが要求される。だからこそ、スプリントを繰り返せる和泉やアラーノを、シーズン当初のザーゴは好んで起用したのだと思う。(その攻撃で中々結果は出ていないが)
成功の確率が高いとは言えないロングパス、そして繰り返すスプリント。このサッカーは、ことのほか体力を消耗する。
そしてザーゴのサッカーでは、高い位置からのプレッシングも行う。
効果的なプレッシングをかけるにも、体力が必要だ。しかしロングパスを追いかける事で体力を消耗してしまう側面がある。
つまり(遠藤康のいない)ザーゴのサッカーは、疲れる。
緩急で言う「急」が多く、「緩」の部分が少なかった。「急」が多い故に体力の消耗が激しく、プレッシングも驚異的なものを見せられなかったのかもしれない。
そこで、チームに「緩」を与えてるのが遠藤康なのだ。
相手がブロックを固めてる時はビルドアップ隊に入ったり、自らが相手SBの裏に入って溜めを作ったり、彼にボールを入れる事で「緩」も「急」も選択できるような、そんなチームになった。
遠藤康がやっている事は「緩急のコントロール」でありながら、チーム全体の「体力と時間のコントロール」でもある。
どんなに苛烈なプレッシングをかけるチームでも、休む時間は必ず必要だ。
それを”自分たちの意思で”作れるかどうか、というのはサッカーという体力と時間が限られたゲームでは重要になる。
パスの距離感の補正
遠藤康がピッチの上でやっている事。その②はパスの距離感の補正。
ザーゴのサッカーでは、ビルドアップ隊と前線の5枚(上がった両SBと両SHとトップ1枚)の距離感が開いてしまう事が多かった。
ビルドアップでハーフウェーラインまで運べても、相手陣地では前線の5枚が横並びになってボールを待っている事が多く、ボールホルダーであるCBやボランチとの距離感が20メートル程ある事はザラにあった。
そこに縦パスやロングパスを通そうとするが、距離感が遠いので成功率は低く、相手の対応も間に合ってしまう。
このパスの距離感を補正してくれているのが遠藤康だ。
遠藤康は前線に張り出すのではなく、ビルドアップ隊と前線の中間(そして相手守備ブロックのライン間)でボールを受けてくれる。
20メートル近くあったパスの距離感が、10メートル程の距離感になり、楔のパスの成功率もラストパスの成功率も高くなった。
相手の守備ブロックの歪みを突く
遠藤康がピッチの上でやっている事。その③は「相手の守備ブロックの歪みを突く」。
これについてはYouTubeのロニー会議でも話したので、時間がある方は見てみてほしい。
遠藤康は、相手が守備ブロックを整えて引きこもった時には、後ろからゲームを組み立て、相手のブロックの1人(例えばボランチなど)を引き出す。
逆に相手が前からプレッシングに来るならば、プレッシングに出た選手の裏のスペースを使ってボールを受けてくれる。
相手が極端に高いラインを敷くならば、裏を狙う。
常に遠藤のプレーの基準は相手の動き次第で、それ故に相手は遠藤康を捕まえにくい。
実は鹿島らしいプレー
遠藤康がピッチの上で見せているプレー。それは実はこれまでの鹿島、強かった頃の鹿島の選手たちが自然にやっていたプレーの数々なのだ。
小笠原満男は常に緩急(時間と体力)をコントロールしていたし、本山雅志はパスの距離感を補正して、相手の守備ブロックの歪みを突いていた。
ザーゴのスタイルになろうと、サッカーというゲームの真理は変わらない。
今年の遠藤康のプレーを見ていると、そんな事を感じる。