鹿島のカオスと秩序のバランスの話

J1リーグ 第3節の湘南ベルマーレ戦、鹿島は見事3-1で勝利した。このゲームのみに関わらず、私にとって非常に興味深いテーマの1つについて記事を書いてみたい。そのテーマは「カオスと秩序のバランス」について。

鹿島とアラーノのカオス

ザーゴが就任して以降の鹿島アントラーズには”カオス”を巻き起こす事の得意な2列目の選手がいる。ご存知ファンアラーノだ。

”カオス”の定義についてはfootballistaの記事を参照していただきたい。(記事はこちら

今回扱うのはフットボールの特性上の「広義のカオス」ではなく、局面における「狭義のカオス」だ。攻撃と守備の局面ではある程度デザインされた位置取りになっており、このようなカオスはトランジションの局面で発生しやすい。攻めから守りに移るチームは位置的なバランスを崩しており、守りから攻めに移るチームも個々の判断や動きに依存する。そうなってくると、特に攻守が一瞬で切り替わる中盤はカオスに陥りやすい。

引用元:footballista 結城 康平

ボールの保持が入れ替わる瞬間、つまりトランジションの瞬間のアラーノのボールへアプローチする動きは非常にスピーディーで、自らのポジションを捨ててボール周辺へアプローチしていくスタイルは「カオスの体現者」と言える。鹿島が巻き起こすカオスの中心にはいつもアラーノがいる。

この光景は2019年までの鹿島には無かったものだ。それまでの鹿島のボールを奪われた後のアクションは、一度ポジションを取り直す事を優先することが殆どだった。

しかしザーゴが監督になり、アラーノが試合に出ると、鹿島の試合で頻繁にカオスが発生するようになった。もちろんアラーノだけが暴走してボールに突っ込んでいくとチームが機能しなくなるので、ボランチやSBの選手も彼のカオスに引っ張られるようになった。

ザーゴもアラーノの巻き起こす嵐を許容している、あるいはその効果に期待している事は間違いないだろう。

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荒木遼太郎のカオス

アラーノに触発されてか否か、2020年新加入の荒木遼太郎も「カオスのフェーズ」で真価を発揮するタイプの選手だった。

見た目の印象から、華麗なプレーが得意な選手に見られがちだが、荒木遼太郎の価値はそこだけではない。トランジションの瞬間にボールに激しくチャレンジしていき、即時奪回を試みるメンタリティこそが彼の真価である。

彼もアラーノ同様にカオスを巻き起こすタイプの選手と言える。(ただし、巻き起こすカオスの規模と頻度はアラーノほどではない)

湘南戦ではアラーノと荒木がピッチに立つ事で、ピッチではやはり局地的にカオスが訪れた。

永木亮太もカオスに突っ込んでいくのが得意な選手なので、前半の鹿島は特にボールに対する激しいプレーが続いた。

しかしこの「カオスのフェーズ」だけを切り取ってザーゴ鹿島の全てと言って良いかと言えば、そうではない。そこが今回の記事のミソだ。

土居聖真と遠藤康の秩序

局地的にカオスを好むザーゴ鹿島ではあるが、一方でカオスではなく秩序をもたらす選手が重宝されている事実もある。

その象徴が土居聖真と遠藤康。長年、鹿島で主力を張る2選手だ。

彼らはハッキリ言ってしまえば、「カオスのフェーズ」では活躍していない。ポジションを捨ててボールに激しくプレーしに行く事は得意ではない。むしろブレーキをかける事も多いので、アラーノの巻き起こす嵐に足を踏み入れる事を躊躇う場面すら見られる。(特に土居聖真は顕著である)

しかし彼らはザーゴに重宝されている。それはなぜか?

彼らは攻撃において秩序をもたらしてくれる。ボールを保持する局面でボールを落ち着けて、自分たちの「攻撃のターン」を作ってくれる。

ボールを保持する時間を高めたいザーゴにとって、彼らが作ってくれる秩序は欠かせないものなのだと思う。(私の憶測では、ピトゥカも秩序をもたらす側の選手なのではないかと思っている)

考え方によっては、土居聖真と遠藤康がアラーノと荒木遼太郎の苛烈なプレーのブレイクタイムを作ってくれていると考える事も出来る。実際、ザーゴとしてもそういう意図なのかもしれない。

昨年から継続して土居と遠藤が重宝されてる理由がここにある。途中交代で土居に変えて遠藤が起用される理由もここにあるのだろう。ザーゴは攻撃におけるボールの落ち着きどころがほしいのだ。出来る事ならボールを保持しながら休みたいのだ。

カオスと秩序。このバランスを絶妙に保っている時に今の鹿島は良いゲームをする。

ザーゴは湘南戦と鳥栖戦で、2列目の両翼に激しい運動量を要求して、トップ下の選手には秩序をもたらす選手を配置した。当面の鹿島は、このバランスでチームを構築していくのではないかと思う。

システム的な話をすれば、現状では綺世とエヴェラウドをW起用する4-4-2よりも、2列目の人数を増やす4-2-3-1の方がカオスと秩序のバランスが絶妙に保たれているように見える。※もちろん4-2-3-1にする事で出来たメリットは他にもあるのだが、ここでは割愛する。

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欲張りなザーゴと鹿島の2列目

これは憶測ではあるのだが、ザーゴは秩序とカオスをどちらも高レベルで求める監督なのではないかと思っている。

以前紹介した、RBブラガンチーノのClaudinhoという選手は、まさにそのような選手だった。カオスのフェーズではボールに激しくチャレンジし、秩序のフェーズではボールを大切にして確実に繋ぐ。どちらも高い次元でやってほしい。

荒木遼太郎なんかは、欲張りなザーゴの要求に応える選手に成長できると思う。というか成長しつつある。

他にも、土居聖真が時に苛烈なボールアプローチをしてくれれば、相手を恐怖のドン底に陥れる事ができるだろう。アラーノは逆に丁寧なボールコントロールが出来れば鹿島の攻撃が更に安定するだろう。白崎や染野や和泉もまだまだ出来るはず。

彼ら2列目の選手の成長や進化が、鹿島のサッカーを次のフェーズに押し上げてくれると思う。その先に初めて優勝が見えてくる。

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