2019年Jリーグ第26節、鹿島アントラーズVSFC東京。マッチレビュー。
試合結果
2-0
【得点】
2分 ブエノ
78分 セルジーニョ
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォン スンテ
DF 小泉慶 ブエノ 犬飼智也 小池裕太
MF 三竿健斗 レオ・シルバ セルジーニョ 白崎凌兵
FW 土居聖真 伊藤翔
ハイライト
見どころ
今節は2位の鹿島にとっても、首位のFC東京にとっても絶対に落とせない首位攻防戦。シックスポインターだ。
鹿島がこのゲームを負けるようであれば、両チームの勝ち点差は7に広がる。この先も過密日程が続くことを考えれば、このゲームでの敗戦はJリーグ優勝を遠のかせる事に繋がる。絶対に負けられないゲームだ。
勝ち点差以外にも、このゲームには見どころが多い。
- オーソドックスな4-4-2同士の対戦
- 好調のブエノと、FC東京の攻撃を牽引する2トップとのマッチアップ
- 三竿・レオと、高萩・橋本の中盤の主導権争い
- 室屋と白崎のマッチアップ
- スンテと林の守護神対決
などなど。枚挙すれば限りがない。
4-4-2同士の試合だけに、それぞれのマッチアップを制することが出来るか。あるいはどのように数的優位を作ってマッチアップを避けるか。両チームの戦い方に注目だ。
試合レビュー
ポジション
▼鹿島を赤紺、FC東京を白で表現
鹿島を救った犬飼の落ち着き
このゲームは開始2分にブエノのゴールが決まった。
しかしその前に鹿島はFC東京の強襲を受けた。
鹿島ボールで始まったゲームだったが、小泉がいきなり東のプレッシャーに”喰われ”、ブエノも浮足立っていたのか判断とポジショニングが悪く、鹿島の右サイドから大きなピンチを迎えた。
そこでゴール前で落ち着いたポジショニングを見せていたのが犬飼智也。
犬飼は”ミスから始まってしまった試合”に対して慌てる事無く、FC東京の2つのシュートをブロックしてピンチを凌いでみせた。
彼の落ち着いたプレーはゲームに多大な影響を与えた。もしもこの時に犬飼まで焦ってプレーしていたなら、先制点はFC東京側に入っていた事だろう。
また立ち上がりだけではなく、犬飼のプレーは試合を通して安定していた。攻撃においてはパスミスもほとんど無く、効果的なロングフィードを供給。守備においても永井のドリブル突破に2回後手を踏んだ以外は、ほとんど完璧なプレー内容だった。
ブエノ・犬飼と永井・ディエゴのマッチアップ
前半はブエノVS永井、犬飼VSディエゴ・オリヴェイラのマッチアップから鹿島の守備が始まった。
ブエノは永井に突破されそうになるシーンが2回ほど見られたものの、五角以上の戦いを見せる。犬飼はディエゴをほぼ完全に抑えた。
後半から、FC東京はマッチアップの配置を変える。永井を右サイド(犬飼サイド)、ディエゴを左サイド(ブエノサイド)に置く。ブエノVSディエゴ・オリヴェイラ、犬飼VS永井のマッチアップとなる形だ。
後半のFC東京のFWの配置替えは鹿島にとって悪い流れを招く事になる。
永井は身体がキレており、前半はブエノに対して、後半は犬飼に対して脅威を与え続けた。一方のディエゴ・オリヴェイラはブエノに対してもボールをキープでき、後半はポストプレーで起点となった。
あのブエノでも圧勝出来ないのだから、FC東京の2トップはやはりレベルが高い。
制空権は鹿島
このゲームの重要なポイントは「制空権」だった。このゲームの制空権は鹿島が握ったと言って良いだろう。
ブエノと犬飼はFC東京のFWに競り勝ち、FWの伊藤翔もターゲットマンとして奮闘した。
そして何よりも差が生まれたのは、鹿島の両SH(白崎とセルジーニョ)のヘディングの強さだ。彼ら2名はFC東京のマッチアップの相手である室屋とオ・ジェソクよりもヘディングが強い。
鹿島は無理してボールを繋がなくとも、ヘディングで勝機のある両SH目掛けてロングボールを供給する事で「ビルドアップの逃げ場」を作ることが出来た。
勝負を分けた先制点も、セットプレーでブエノが制空権を握っていた事が直接的にゴールへ繋がった。
スタイルが似ており、フォーメーションも同じな2チームに、唯一大きな「差」がついたポイントが制空権だった。
鹿島が狙ったのはアウトサイドレーン
鹿島はアウトサイドレーンを効果的に使う事で試合を優位に進めた。
FC東京は4-4-2のセオリー通り、片側のサイドに密集(狩場)を作ってボールを奪いきろうとする。
そこで鹿島はFC東京の狩場を避けて、逆サイドで待つ両SH(あるいはSB)に向けたサイドチェンジを有効に使い、FC東京の守備のスライドを促した。
鹿島はサイドチェンジをするとSBとSHの2枚でサイドを攻略しようとする。
FC東京はその2枚を抑えるためにSHを下げて対応するしかない。
結果的にFC東京を押し下げる事に成功し、FC東京の高速ショートカウンターを防止した。仮にボールを奪われたとしても、FC東京の前線にはFWの2枚しかいない状況だ。
良い守備は良い攻撃の位置取りから生まれる。このゲームの前半は鹿島の選手同士の距離感も良く、好例だったと言えるだろう。
ラインを下げさせる中間ポジションの土居聖真
また、FC東京を「押し下げる」という意味では、土居聖真が大きな役割を果たした。
イメージは以下のような形。
- 土居聖真が、FC東京の「CB・SB・SH・DMF」の四角形の中間ポジションでボールを受ける
- FC東京はDMFが土居を挟み込もうと守備に戻る
- 土居は無理をせずボールを下げる
- 対面のDMFのポジションが下がったのでレオが使えるスペースが大きい
イメージとしてはこのような形だ。
1つ前の章で書いた「鹿島のサイドチェンジ」を繰り返せたのも、このようなメカニズムでレオや三竿が比較的自由にプレー出来たからだった。
相手の4-4-2の「4-2の間(中盤とFWの間)」がぽっかり空いている場面が多く、そこを鹿島は自由に活用することが出来た。
落ちてくるディエゴと攻撃のスイッチを入れる高萩
後半は前半よりも幾分FC東京の時間帯が続いた。
その要因は、前半よりも中盤に落ちてボールを受けたディエゴ・オリヴェイラのポストプレーと、より攻撃的な位置取りをした高萩洋次郎がキーポイントだった。永井は前半同様、鹿島の脅威となり続けた。
ディエゴは中盤まで落ちでポストプレーをし、逆に高萩洋次郎は最前線まで上がるような、「FWとボランチのポジションチェンジ」のような形を何度か見せた。
鹿島はこの動きに上手く対応できず、ゴール前までボールを運ばれるシーンを何度か迎えた。
また高萩洋次郎に関しては、鹿島の土居と同じように中間ポジションでボールを受ける動きも繰り返しており、鹿島の守備陣にとっては捕まえにくい存在だった。
彼ら2名の動きの変化と、永井のキレによって何度もゴール前に迫られるも、スンテとCBを中心に無失点で守りきれたのは大きな収穫だ。
アクシデントが多い中で掴み取った勝利
このゲームでは、2枚の交代枠を「アクシデント」で使うことになってしまった。
白崎がハーフタイムで交代、交代の予定は無かったであろう三竿も後半途中で交代。自由に使えた交代枠は伊藤翔⇒上田綺世の1枚のみ。
そんな中でも、名古やスンヒョン、上田もしっかりゲームに入り、チームのバランスを崩壊させなかった事は重要なポイントだ。
それぞれの選手が勝利の方向を向き、エゴを出さずに的確な状況判断が出来ていたゲームだった。
MVP
犬飼智也!!!
守備の統率力、落ち着き、攻撃面でのフィード、守備の1対1。
このゲームで犬飼は確実にレベルアップした姿を見せてくれた。犬飼やブエノの「伸びしろ」こそが、鹿島の今シーズンの結果を占う。
これからも、このレベルのパフォーマンスを継続してほしい。