2019年ACLベスト16、鹿島アントラーズVSサンフレッチェ広島戦2ndLeg。マッチレビュー。
試合結果
2-3(トータルスコア3-3)アウェイゴールにより勝ち抜け
【得点】
24分 セルジーニョ
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォン・スンテ
DF 永木亮太 チョンスンヒョン 犬飼智也 町田浩樹
MF 三竿健斗 レオシルバ 名古新太郎 遠藤康
FW 土居聖真 セルジーニョ
1stLegのマッチレビューはこちら▼
献身的な遠藤・白崎とセルジーニョの質的優位がもたらした勝利【2019年ACLベスト16サンフレッチェ広島戦1stLegマッチレビュー】
このゲーム、鹿島は苦しい采配を強いられる事になった。
鹿島の好調を支える白崎が先発を回避し、安西は引き続き欠場、そしてスンヒョンはハムストリングの損傷でルーキーの関川が急遽CBに入ることになった。
1stLegは手堅い試合運びをすることが出来たが、このゲームの広島は決死の覚悟で攻撃を仕掛けてくるだろう。
試合経験の少ないメンバーを含めた鹿島が、きっちり勝ち抜けを決められるかがポイントとなる。もちろん無失点で終われればベストだが、例えこのゲームを落としたとしても勝ち抜ければ良い。そんなメンタルのコントロールが重要になるゲームだ。
試合レビュー
試合を振り返ろう。
前半の基本配置
両チームの前半の基本配置はこのような形だった。
※鹿島を赤紺、広島を白で表現
鹿島はいつも通りの形、そして広島は3-4-2-1のような形だった。
しかし序盤から攻勢を仕掛けた広島、それを受ける鹿島の配置は、実態としては以下のような形が多かった。
広島は3-4-2-1というより3-2-5といった感じで、両WBが高い位置を取り、ボランチの川辺も積極的に攻撃参加する。そんな形だった。
一方の鹿島は、高い位置を取る広島の両WBを両SHとSBが見ながら前半を戦った。
そこまで崩されなかった前半
鹿島は前半、広島に攻め込まれるものの、そこまで崩されたという感じではなかった。想定通りの前半といった感じだっただろう。
その理由は、「8名で守る鹿島、6名で攻める広島」という構図にあった。
鹿島は土居とセルジーニョ以外の8名のフィールドプレイヤーで守り、広島は3バックと吉野を含めた4名以外の6名のフィールドプレイヤーで攻めるという形が多かった。
鹿島は常に広島の攻撃の選手より数的優位で守る事ができ、落ち着いて守備することが出来た。
また、前半の広島は右サイドの清水からボールを放り込む場面が多かったが、そのクロスの精度は高くなく、また中央のD・ヴィエイラにも高さの迫力がそこまで無かったのが幸いした。
ルーキーの関川もしっかりゲームに入ることが出来ていた。
「前半は問題ないな~」とは思いつつ、「これパトリック出てきたらヤバそうだな」という嫌な予感はしていた。その嫌な予感は的中することになる。
後半の配置
両チームの後半の基本配置はこのような形だった。
※鹿島を赤紺、広島を白で表現
広島がパトリックを投入し2トップへ。同時に4-4-2となる。が、実態としては以下のような配置になることが多かった。
3-2-5から2-4-4-へ
後半の配置を見てもらえば分かるように、広島は前半の3-2-5から2-4-4のような形に変貌する。
右サイドに回った柏は高い位置を取って左の佐々木はバランスを取っていたので、右サイドに偏重した2-3-5とも言える。
この配置転換はゲームを一変させた。
その要因についていくつか記載していこう。
1vs1の増加
広島が後半から2-4-4に配置替えしたことにより、鹿島の選手と広島の選手の1対1の局面が増えることになった。
前半は「8名で守る鹿島、6名で攻める広島」という構図によって数的優位を作って守る事ができたが、後半は「8名で守る鹿島、7~8名で攻める広島」という構図になり、鹿島が守備時に数的優位を作れる場面が減った。
そうなると局面の1vs1は増えてくる。
全てを変えたパトリックの質的優位
局面の1vs1が増えたのに加え、パトリックという強烈な選手の投入は鹿島に追い打ちをかける。
正直な所、今の鹿島にパトリックを1vs1で止められるDFはいない。
パトリックは、あの昌子がJリーグで最後まで1vs1で止めきれなかった唯一のアタッカーだ。
このゲームではパトリックとマッチアップした関川を責める声もあるが、それは少し厳しいと思う。あの昌子でさえも1vs1では後塵を拝する選手なのだ、パトリックという選手は。
スンヒョンだったとしてもパトリックに空中戦で勝てたかもしれないが、スピードで置いていかれるだろう。
鹿島にパトリックを1vs1で止められる選手がいない以上、「パトリックと1vs1の状況を作らせない」のが、鹿島が取るべき策だった。
鹿島の後半のマネジメントとして、最も失敗したのは「パトリックを関川や犬飼の個の力だけで守ろうとした事」だ。これは彼ら2名の問題ではない。監督を含めた、チーム全体の失敗だ。
SB経験の浅い町田の裏
また、広島は「パトリックで仕留める」ための下準備をプランニングしてきた。
攻撃力のある柏を右サイドに回し、SB経験の浅い町田と試合出場経験の浅い名古で形成される鹿島の左サイドとマッチアップすることになる。
その「町田の裏のスペース」を広島は何度も狙ってきた。
前半も町田の裏は森島が斜めに動いて狙ってきたが、レオが町田の裏をカバーし、名古がレオの動いた場所を埋めて、というような形で、前半は「数」で何とか守り切る事は出来ていた。
しかし後半は広島が前線に人を多く配置してきたので、それぞれの選手が見るべき相手が増え、町田の裏のカバーに気が回る選手がいなくなってしまった。
鹿島が何度も左サイド(広島の右サイド)を攻略されていたのは、広島が配置変更から互いの選手の質・経験を踏まえてきっちりプランニングした証だ。決して偶然ではない。
土居聖真の変貌
広島の良い所ばかり書いてしまったが、鹿島側の視点で忘れてはならないのが、やはり土居聖真の変貌だろう。
前半はワンチャンスを決めきる。後半には広島が2点を取った直後に相手GKを退場に追いやるドリブルを見せ、最後は足を攣りながらも途中出場のパトリックよりも走って2ゴール目を奪った。
鹿島のACLベスト8進出は、間違いなく土居聖真がもたらしたものだと言って良いだろう。
土居聖真は春以降、目覚ましい活躍を続けている。チームの攻撃のきっかけ作りを続けてくれる土居のプレーを見て私は「彼の評価軸はゴール数やアシスト数だけではない」と書いた。
しかし土居は自分のゴールでチームを勝たせるプレーまで見せてくれるようになった。
しかも超重要な試合で、かなり苦しいチーム事情の中で、だ。
土居聖真が、いよいよヤバい。今年は土居聖真とACLもJリーグも優勝したい。そう思わせてくれるプレーぶりだった。
ジャッジについて
このゲームについては、物議を醸していたのでジャッジについても少し触れておこう。私自身、(勿論アマチュアだが)現役の審判員なので、それなりの見識と経験はあると思っていただきたい。
主に選手が抗議していたのは4つのシーンだろう。1つずつ見ていく。
パトリックへの関川のチャージ
まずはパトリックをエリア内で関川がショルダーチャージして倒したシーン。
これは難しい判定だと思うが、規則通りに裁くならPKだと私は思う。
関川のチャージは肩で行われていたが、ボールにはチャレンジ出来ておらず、一方のパトリックはボールをコントロール出来ていた。規則に記載してある「不用意なプレー」に該当すると私が審判ならば見る。
しかし、このジャッジには重要な視点がある。それはこのプレーの前に、関川がこのプレーと近しいチャージをD・ヴィエイラにしており、それもノーファウルというジャッジだったのだ。
関川はそれを含めてあのチャージを行ったと見るのが自然であり、レフェリーとしてもジャッジに一貫性はあった。
GK中林の退場
土居がドリブルでGKの中林を抜いたところで接触があり、中林が退場になったシーン。
これは中林のプレーが決定機の阻止(DOGSO)に該当するので退場で正当だと思う。
中林と土居の接触がかなり軽微なので、広島側としては文句を言いたくなるのも分かる。分かるが、規則に則るならば退場が相応しいだろう。
この判定の重要なポイントは、「土居がゴールに向かった」ということ。土居が向かって右方向に中林を交わして引っ掛けられたならば、このプレーは決定機の阻止には値しなくなる。
土居がゴールに向かったからこそ決定機の阻止(DOGSO)が適用されたのだ。
柏のシミュレーション
これは別に詳しく書く必要は無いだろう。どう見ても柏のプレーは審判を欺く行為(反スポーツ的行為)なので、転んだ時点で反則の上、警告の対象だ。その後のプレーがどうなったかは全く関係ない。
関川のPK
最後は関川が後半ロスタイムにパトリックを手で倒したシーン。
これも厳密に言えば確かにPKで間違っていないと思う。
プレーエリアに先に入られてしまい、その上で手を使ってしまってはいけない(パトリックの倒れ方も上手だった)。
関川も、このゲームのレフェリーは手を使うプレーに対して厳しくファウルを取っていたことを認識しておくべきだっただろう。
とはいえ、関川の2つのペナルティエリアでのプレーについては、いずれもプレーするリーグによっては誰も気にもとめずノーファウルだったりするものだろうとも思う。あくまで「規則に則れば」いずれもファウルを取られてしまっても仕方ないプレーだった。
MVP
土居聖真!!!!間違いないでしょう。土居聖真と一緒にアジアを獲ろう。