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【2018クラブW杯グアダラハラ戦試合分析】前半と後半に何が起きていたのか

2018年クラブW杯準々決勝、鹿島アントラーズ×CDグアダラハラ。今回のマッチレビューは、采配といよりも、「劣勢だった前半に何が起きていたのか?優勢だった後半には何が起きていたのか?」を中心に書きたい。

劣勢だった前半

この試合の前半、鹿島は明らかに劣勢だった。逆に言えば、グアダラハラは試合をかなり優位に進めた。その要因を試合を見直して検証してみた。

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要因①相手の思惑通りに多用してしまったバックパス

この試合の前半、鹿島はバックパスを多用してしまった。これが「前半を劣勢にしてしまった要因」の1つだと私は考える。もう少し詳しく説明しよう。

この試合の前半、グアダラハラと鹿島は互いに4-4-2のミラーフォーメーションだった。前半のグアダラハラは、「鹿島がDFラインでボールを持つと猛烈にプレッシャーをかける」という作業を徹底した。フォーメーションは4-4-2のミラーなので、グアダラハラの選手は対面の鹿島の相手に対して猛烈にプレッシャーをかけていく。2枚のFWはCBに、サイドハーフはサイドバックに、という具合に。

こうなった場合はどこで数的優位を保つかというと、GKを使って組み立てをするのがセオリーだ。GKがパス回しに参加すれば一人分、鹿島の方がポゼッションの人数が多くなる。例えばマンチェスター・シティなどは、この「GK一人分」を優位に使って組み立て(スペイン語でサリーダ・デ・バロンと言う)を行う。

前半のグアダラハラは、鹿島のDFがプレッシャーを嫌がってGKにボールを下げると、FWがそのままのスピードでGKのスンテにまでプレッシャーをかけてきた。こがミソだ。

このシチュエーションにおいて、鹿島のGKは「高い確率でロングボールを蹴る」。これはスンテの特徴ではなく、鹿島というチームの性質だ。例え一人分の数的優位を持っていたとしても、鹿島はプレッシャーが厳しい中でGK-CB間でパスを回して組み立てすることを好むチームではない。そうやって勝ってきたチームだ。

前述のマンチェスター・シティならば、GKに下げた後はCBが再度ポジションを取り直して一枚分の数的優位を使って組み立てを行う。しかし、鹿島はそれをやらないチーム。

  • 「ボランチとSBに強度の高いプレッシャーをかければ、CBにバックパス」
  • 「CBに強度の高いプレッシャーをかければGKにバックパス」
  • 「GKにそのままプレッシャーをかけると、ロングボールを蹴る」

ということを恐らくグアダラハラはスカウティングしていたのではないかと思う。鹿島はこれらの過程において、相手を剥がしてパスを回そうとするチームではない。レオ・シルバは独力で相手を剥がそうとするし、西大伍は相手の裏を書こうとするが、それ以外の選手は基本的には想定通りの動きをしてくれる。

GKにロングボールを蹴らせれば、グアダラハラのDFの仕事は楽チンだ。ムキムキの4番と5番が、セルジーニョと土居を相手にヘディングで競り勝てば良い。

響いたのは優磨の不在

これらの「GKにロングボールを蹴らせるように仕向けた」グアダラハラの作戦が成功した一つの要因は、優磨の不在だ。鹿島が今シーズン対戦した相手の中にも、GKに向かってFWが突進してくるチームはあったが、グアダラハラほどハマらなかった。それは前線でボールを待つ優磨がロングボールに対する空中戦で「少なくとも五分五分」にしてくれるから。

この試合はロングボールを五分五分にしてくれる優磨がいない。鹿島が劣勢になるのは当然の帰結と言えよう。

ちなみにスンテはこの不利な状況に気づいていたのだろう。FWに向けて蹴るプレーでは劣勢が続くことを察して、左右に蹴り分けたり、空いてるサイドバックに向けてミドルボールを配給したり、多くのチャレンジが見られた。成功はしなかったものの、スンテの戦術眼とチャレンジは評価に値するものだったと思う。

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要因②グアダラハラ式ストーミング

もう一つの要因はグアダラハラ式のストーミングにあったと思う。前半のグアダラハラのスタイルは、ストーミングの一種だったと私は思う。

▼ストーミングが分からない方はこちらが分かりやすいので参照

新概念「ストーミング」考察:ボールを手放すことを厭わない概念

密集を作る早さ

前半のグアダラハラは、4-4-2のフォーメーションではあったが、各自の動きは非常に流動的だった。具体的に言うと、

  1. 攻守において「ボールの付近に数的優位を作る」ことを最優先にする
  2. 1の結果、当然自分の本来のポジションは空くが、そこは近隣のポジションの選手が走り込む、あるいはカバーする

この約束事が守られていたチームだった。例えば左サイドハーフの選手は、レオ・永木のあたりにルーズボールが来ると、密集を作るべく中央にポジションを移す。そこにはグアダラハラのボランチもいるが、密集(数的優位)を作る事を優先する。

当然数的優位を作るのでボールを奪う確率は高まる。ボールを奪った後、本来自分のいるべき左サイドのポジションは人がいないはずだが、左SBが長距離をランニングすることでカバーする。

このような動きがピッチのアチコチで繰り広げられていた。

「ポジションを守ること」ではなく、「密集を作ること」を優先し、空いたスペースは近隣のポジションの選手が走り込んで活用。これは非常に疲れるし自分たちのバランスも崩しやすいサッカーだ。ただし、ストーミングは「自分たちのバランスが崩れること」はある程度許容する。それ以上に相手のバランスを崩せればOKという考え方だ。

鹿島は数的優位をあちこちで作られてしまい、ボールをキープするのが難しい状態だった。

味方ロングボールに対するゲーゲンプレス

また、前半のグアダラハラは味方ロングボールに対するゲーゲンプレスというのも徹底されていた。相手DFラインにいるFW・SHめがけてロングボールを配球。そのこぼれ球を周辺の選手が常に狙い続けていた。先程の「密集を作る早さ」が際立っていたため、ゲーゲンプレスも成功しているように見えた。

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優勢だった後半

鹿島が優勢になった後半には何が起きたのか、要因を考察してみたい。

要因①グアダラハラのプレッシャー強度低下

これは間違いない。前半劣勢要因の「要因①相手の思惑通りに多用してしまったバックパス」の所で述べた、

  • 「ボランチとSBに強度の高いプレッシャーをかければ、CBにバックパス」
  • 「CBに強度の高いプレッシャーをかければGKにバックパス」
  • 「GKにそのままプレッシャーをかけると、ロングボールを蹴る」

グアダラハラは、これらを後半は全く維持出来なかった。GKのスンテまでプレッシャーに来る場面は後半は皆無だったし、鹿島CBへのプレッシャー強度も下がった。GKのロングボール中心だった鹿島の攻撃は、後半になると一転、CBからの配球を中心に組み立てることが出来た。

空中を飛ぶボールであれば土居もセルジーニョも相手に対して不利だったが、足下を転がるボールは得意技。グアダラハラのムキムキのCBを相手に、アジリティとテクニックで戦うことが出来た。

要因②グアダラハラ式ストーミングの弱点を突いた安部裕葵

もうひとつ、後半優勢の要因に安部裕葵の動きを挙げたい。前半の劣勢の要因として記載したグアダラハラ式ストーミング。その弱点を突いたのが安部裕葵だった。

具体的には、グアダラハラが密集を作る動きを繰り返す中で、どうしても「隙」となる場所があった。それは相手のボランチとCBの間。このスペースを安部が「外から中へ動いて使う」ことによって有効活用した。

得点やシュートには結びつかなかったが、以下のようなシーンだ。

このシーン、グアダラハラの右CBがボールを持って、昌子のいるあたりにボールを蹴って密集を作ろうとしてる場面。

昌子がボールを跳ね返して、ボールはレオの元へ。ここから相手のボランチと安部の動きに注目してほしい。まず相手ボランチは、自分の後ろのスペースが空いているが、グアダラハラのチームの鉄則通りに密集を作ることを優先。レオを挟みに行く。

レオから永木へボールが渡る。ここでもグアダラハラはボールに密集を作ろうとする。同時に安部は、密集の代償として出来た「ボランチの後ろのスペース」に侵入してボールを受けようとする。

グアダラハラはSBが絞って安部に対応しようとする。結果的にはファウルされたが、グアダラハラのDFに綻びが出来ていることは確認できる。

なぜこの動きが重要か。それは、ここだけはグアダラハラ式ストーミングの弱点だから。

グアダラハラはボランチが前に出て密集を作ることはするが、ボランチの本来いるべきスペースを埋める選手はいない。CBはこのスペースを埋めることは基本的には無い。なぜならば、CBはセルジーニョと土居を見なければいけないから。ボランチのスペースを埋めに前に出ると、鹿島のFWをフリーにしてしまう。最終ラインにピン止めされてる状態だ。

「自らのチームのバランスがある程度崩れることを許容する」という戦術ではあるが、CBが前に出るバランスの崩し方は許容出来ない。そこを安部が突いた。安部にはグアダラハラのSBが一生懸命付いて行くしかないが、ボランチのポジションまでSBが埋めに行くのは、相当厳しい仕事になる。当然、安部の自由度は増す。

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まとめ

このように、前半は鹿島のバックパスの多用とグアダラハラ式ストーミングによって劣勢になり、後半はプレッシャーの強度低下と安部の選出眼によって試合を優勢に運べたというメカニズムだったと私は考えた。

もちろん、ここには書ききれないほどの変数は幾多もあったことは事実で、本当はもっと色々書きたいが、時間の制約があるので、今回は焦点を絞って記載した。

世界一まであと2勝。まずはレアルをやっつけよう。

 

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