2019年Jリーグ第2節、川崎フロンターレVS鹿島アントラーズ。マッチレビュー。
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォンスンテ
DF 内田篤人 犬飼智也 町田浩樹 安西幸輝
MF 永木亮太 レオシルバ 土居聖真 安部裕葵
FW セルジーニョ 伊藤翔
今節でまず注目するポイントは、この試合の目標をどこに設定するか?だ。
私はこの試合における目標は、「最低でも引き分け」だと考えていた。相手は昨年のチャンピオン、川崎フロンターレ。鹿島がリーグ優勝を狙うにあたって、最大のライバルになるであろうという相手。「自チームの勝点3を得るだけでなく、ライバルチームの勝点3を無くす価値がある」というシックスポインターだ。
シックスポインターでまず重要な事は、「負けないこと」。負けた場合、鹿島の勝点3が無くなり、川崎に3が追加されてしまう。それだけは避けなければいけない。
ましてやこのゲームはアウェイゲーム。鹿島のホームゲームが残っている事を考えれば、「勝てればベストだが、引き分けで及第点」といういうのがこの試合における目標だと私は思っていた。
鹿島が目指すべきはリーグ優勝であり、目の前の勝利だけが全てではない。
試合分析
試合を分析していこう。
フォーメーションと基本配置
この試合のフォーメーションを確認しよう。こんな感じ。
しかし、このフォーメーションはあまり意味がない。実態の基本配置はコチラ↓。
川崎は攻撃時にこのような配置になることが多い。
- 後ろを「守田・CB2名・大島」のダイヤモンドでゲームを作る
- 両SBは高い位置を取る
- 家長・小林悠はハーフスペース~センターレーンを動き回る
- 中村憲剛はピッチ内を自由に動く。(最後列に行くことも、最前列に行くこともある)
これは「この試合だけ」のものではなく、川崎フロンターレの「いつもの形」だ。つまり、鹿島はこの形に対して対策を取れていたか?ということが重要になる。
結果的に言えば、「対策は取れていた」と私は思う。
「両SBを捨てる」という選択
鹿島が選んだ戦い方は、「川崎フロンターレの両SBを捨てる」という選択だった。正確に言えば、「大外に開く両SBにボールを持たせ、そこから攻められる分にはOK」という戦い方だ。
そのかわり、川崎フロンターレのストロングポイントであるパス交換からの中央突破やハーフスペース攻略は許さない。そのような戦い方だった。
もう一度、この試合の守備時の基本配置を確認しよう↓。
鹿島は、「中を絞って大外のSBに誘導する」という守り方をした。そして、実際に大外のSBにボールが渡った時は、このように動く↓。
相手のLSB車屋に対しては、右SHの土居がチェックに行く。状況によってはSBが行くこともあったが、その場合は家長にハーフスペースを使われないようにボランチかSHかCBがスペースを埋めて対応する。
この対策は効いていた。川崎は外からクロスを入れたり、SBが縦に突破したり、試行錯誤をしたが、それらは鹿島の想定内だったことだろう。
サイドバックの質的優位への自信
鹿島がこの策を取った理由と、そして実際に大きく崩されなかった理由を推測してみよう。
私はこう考えた。
「川崎の両SBにボールを持たせた所で、大してピンチにはならない。仮に1対1を仕掛けられた所で、質的優位で大きく崩される事も無いだろう。」
という判断だ。
実際に試合でも川崎のSBが「鹿島の想定」を上回ることは無かった。鹿島の想定内の結果だ。これが仮に、相手に西大伍がいたならば話は変わっただろう。「車屋と馬渡から攻めさせる」というのは、この日の川崎に対して有効な策となった。
我慢比べと高さへの対応
ただし、この策を取るには守らなければいけないことが2つある。中央を固められ、両SBから攻めるよう仕向けられた川崎が取る術は何だろう?セオリーとしてはこの2つだ。
- CBや守田経由でサイドチェンジを繰り返し、相手のスライドが遅れるのを待つ
- シンプルにクロスを上げ、レアンドロ・ダミアンの高さ勝負
逆に、それぞれに対して鹿島が取らなければいけない策は
- 何度サイドチェンジされても、守備の横スライドを怠らない
- CBがレアンドロ・ダミアンに対して高さで負けない
ボールポゼッションを志すチームが試合終盤に得点を取ることが多いのは、守備側のチームが「1」の横スライドが遅れてくるからだ。
川崎はボールを走らせれば良いのに対して、鹿島は人が走ってスライドしなければいけない。それがボディブローのように終盤に効いてくるというカラクリだ。
川崎フロンターレがリーグ戦で強い理由もそこにあるだろう。人ではなくボールを走らせる戦い方は、カロリーが少ないので長いリーグ戦に向いている。
「1」に対して言えば、この日の鹿島はかなり頑張ってスライドを繰り返し、守備の崩壊を免れていたと言えるだろう。泥臭く戦っていた。
そして「2」の高さへの対応については、鹿島のCB、主に町田が良く耐えていた。及第点以上の働きぶりだった。
ボールを支配されること=スペースを支配出来ること
この試合における鹿島の評価、川崎の評価には違和感がある。一般的には「攻めきれなかった川崎、耐えた鹿島」と評価されるのかもしれない。実際に川崎の中村憲剛や鬼木監督は「押し込んでいたのに決めきれなかった」という旨のコメントをしている。
しかし、サッカーは「ボールを支配して、相手を押し込んだチームの勝ち」ではない。「ゴールを多く奪ったチームの勝ち」だ。
鹿島は、どのようにこの試合を勝ちに行ったか。それはスペースを支配しようとした。それは奇しくも、第1節で大分トリニータが鹿島に対して行ったのと同じ考え方だ。
相手を押し込んでボールを支配するチームは、CBの裏のスペースを常に相手に支配されることになる。これはサッカーの摂理だ。
ボールを奪ったら、「相手が帰陣するより速く、相手陣地の広大なスペースを攻める」。いわゆるカウンターだ。
このカラクリの弱点を克服するために、グアルディオラは「偽サイドバック」という位置取りをサイドバックにさせてカウンターの芽を摘もうとした。また、ポゼッション型のチームのCBの足が速い方が良いとされるのは、「相手が狙うスペースをカバー出来るから」ということになる。
鹿島は常に川崎の陣地のスペースを意識し、そこを突くことを徹底した。
一方の川崎も「スペース」を使われるのが怖いため、早めにファウルで潰すなどの対策を取っていた。上手く行く場面もあれば、潰されてしまう場面もあった。
CBのクオリティ問題
鹿島が狙うべき川崎の弱点は両SBだけではない。川崎のCBだ。彼らはレベルが高いわけではない。川崎のスタイルであれば、少なくとも横浜FマリノスのTマルチンスくらいのレベルの選手がいなければ、裏のスペースのボールへの対応に欠陥が生まれる。
それが実際に鹿島の先制点にも繋がった。
鹿島はもっと執拗に、相手CBの裏を突く動きと配球のレベルの高さを追求するべきだっただろう。それがこの試合が引き分けに終わった理由のひとつだ。
采配はどうだった?
この大切な1戦で、内田篤人を起用した大岩監督をまず称賛したい。序盤戦で、内田に少し無理をしてもらうならこの試合だった。実際に内田篤人は別格のプレーを見せてくれた。
そして川崎フロンターレ対策もキッチリ出来ているように見えた。対策も効いていた。
土居のオフサイドによる町田の幻のゴールや、安部の2本のミドルシュートなど、もう少しのクオリティでこの試合を勝利することも出来た。これは選手の質の問題なので、監督の責任ではない。
大岩監督は勝つためのプランを用意し、そして想定外の事も起きなかったと言えるだろう。
また、70分に安部裕葵に替えて山口一真を起用した采配は良い采配だった。得点がほしい時間にエースナンバーの選手を下げて、山口を起用する。
山口は自分への信頼を感じ、安部は危機感を覚える。このような采配が、山口・安部双方の成長を促すのだと思う。
采配から戦術にいたるまで、この試合は大岩監督は良い仕事をしていたと私は思う。
MIP
内田篤人と町田浩樹。
内田篤人はピッチの22人の中で別格であることを証明した。チャンスクリエイトの数も圧巻で、内田がボールを蹴ればチャンスに繋がった。こんなプレーも↓
https://twitter.com/ronnie_antlers/status/1101785412203208704
町田は良く川崎フロンターレの攻撃を凌いでいた。首を振って相手FWの位置を常に確認していた姿勢は好感が持てるし、高さだけではなく「後ろのスペースへのカバーリング」の能力も光るものを見せてくれた。
次回以降も町田浩樹を中心にDFラインを構築していってほしいと思う。