2019年Jリーグ第20節、鹿島アントラーズVSサガン鳥栖。マッチレビュー。
試合結果
2-1
【得点】
20分 レアンドロ
23分 金崎 夢生
35分 白崎 凌兵
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK 曽ヶ端準
DF 永木亮太 町田浩樹 犬飼智也 小池裕太
MF 三竿健斗 名古新太郎 レアンドロ 白崎凌兵
FW セルジーニョ 伊藤翔
ハイライト
見どころ
このゲームは、今シーズンチームを引っ張ってきた土居聖真、レオ・シルバ、クォン・スンテの3名が欠場。苦しいチーム事情で迎えることになった。
加えて5月のアウェイゲームでは0-1で敗北した難敵・サガン鳥栖が相手。前回のゲームではバチバチに肉弾戦を仕掛けてきたサガン鳥栖だ。
非常に苦しいゲームが予想されるが、優勝を狙うためには絶対に落とせないゲームとなる。
試合レビュー
ポジション
▼鹿島を赤紺、鳥栖を白で表現
互いにベースは4-4-2だった。しかし互いに攻撃時は可変する形を取った。鹿島は攻撃時にボランチがCBに落ちてSBが上がる3-1-4-2、鳥栖は両SBが高い位置を取る2-2-4-2のような形だった。
立ち上がりは両チーム蹴り合い
このゲームの立ち上がりは、ロングボールの蹴り合いから始まった。
鳥栖は鹿島のDFラインに苛烈なプレッシングをかけてくるため、鹿島はリスクを回避して前線へのロングボールを多用。
一方の鳥栖もストロングポイントである豊田と金崎の競り合いの強さを活かそうとロングボールを多用した。
両者の思惑は一致するような形になった。
リズムに歪みをつけるレアンドロ
ロングボールの蹴り合いになり、サガン鳥栖は試合を有利に進めるために「突っ込む守備」をしてきた。DFの時に前向きの矢印を強く保ち、かわされそうになるようであればファウルでも止める。
これを繰り返した。
そんな中、突っ込んでくるサガン鳥栖の守備を外せる存在、サガン鳥栖のリズムを狂わせる存在が鹿島にはいた。
レアンドロだ。
レアンドロは日本人選手にはないリズム感でボールを持つため、鳥栖の守備のリズムに歪み(ひずみ)が生まれる。鳥栖の1stディフェンダーはかなり高確率でレアンドロに外された。
ボールを離しそうなタイミングで離さない。ドリブルを仕掛けそうなタイミングでパスを出す。常にレアンドロはリズムに歪みを生んだ。日本人選手の一般的な仕掛けのリズムからは程遠いリズムをレアンドロは持っている。
鹿島の1得点目はまさに、ボールを狩りに来る鳥栖のDFのリズムをことごとく外し続けたレアンドロのドリブルによって生まれたゴールだった。
名古レーダーとファーストタッチ
鳥栖の「突っ込む守備」に対し、レアンドロ以外にも相手を外せる選手がいた。
先発起用された名古新太郎だ。
彼はレアンドロのように独特のリズムを持っているわけではない。名古の場合はシンプルにファーストタッチの置き所が良い。
自分の周囲10メートル程度のスペースと相手の位置を事前に把握し、「相手には届かず、自分には届く」という場所にボールを置く。名古レーダーとでも呼ぼうか。それが名古の攻撃性能の高さを象徴するプレーの1つだ。
名古のファーストタッチは鳥栖の前向きなプレスと相性が良く、入れ替われる場面を多く作れた。
名古はなるべく前に(相手ゴール方向に)ボールを止めていた事も重要だった。後ろ向き(自分のゴール向き)にファーストタッチを置くと、鳥栖の前向きなプレスと豊田のプレスバックの餌食になる。
白崎と原の走りあい
決勝点をあげた白崎はこの日も特別な働きを見せてくれた(この所、彼はずっと特別な動きを見せている)。
白崎のマッチアップの相手となった原輝綺は、攻撃時に何度も鹿島陣地深くまで攻め上がってきたが、白崎はその殆どの攻撃をきっちり守備に戻ってシャットアウトした。原も相当な運動量だったが、白崎の運動量は原のそれを凌駕した。
この守備に向かう走力は、間違いなく白崎がチームナンバーワンだ。この日の鹿島の左SHは、白崎でなければ成立しなかっただろうと思う。
ちなみにこの日の白崎の走行距離は、両チーム合わせてダントツの11.162kmだった(2位は鳥栖・松岡の10.888km)。
白崎の素晴らしさは守備への献身性だけではない。逆に鹿島の攻撃時には鳥栖の原よりも一歩早くポジションを取るようなシーンも見られた。
決勝点のシーンは、まさにその形だろう。クロスボールに対して、相手より一瞬だけ早く動く。白崎はその動きを毎回サボらない。だから白崎はチャンスの時に「必ずそこにいる」。
白崎はこれからもコンスタントに結果を残し続けるだろう。
たとえボールが来なくても、白崎は得点シーンのようなゴール前への入り方を何度も繰り返していた。
犬飼のビルドアップの進化
選手個人への言及が多くなってしまうが、この試合は犬飼のビルドアップにも触れないわけにはいかない。
彼のビルドアップの能力は間違いなく進化している。
ボールを前に運んで相手を外すタイミング。縦にボールを入れるタイミング。安定したトラップとキック。
恐らく犬飼は自分のプレーをしっかり見直して、毎試合少しずつ改善をしている。対人の守備も向上し、DFラインの統率力も去年より格段に増している。
このまま鹿島で好パフォーマンスを見せ続ければ、日本代表だって見えてくるはずだ。そろそろ自分のプレーに誇りと自信を持っても良い頃合いだろう。
鳥栖の2-2-4-2への鹿島の守り方
ちょっと個人への言及が増えてしまったので、チーム全体としての動きについても触れておきたい。今回言及しておきたいのは、鳥栖のポゼッション時の鹿島の守り方だ。
鳥栖は試合序盤にロングボールの蹴り合いを選択してきたが、その後は全体を押し上げてボールを繋いできた。
4-4-2のベースから、両SBがSHの外まで上がり、SHがハーフスペースに入るような2-2-4-2の形だ。
その攻撃に対し、鹿島はそれなりには上手く対応出来ていた。↓のような形
鹿島の守り方はこのような感じ(もちろんボールの位置や状況によるので、大体のイメージ)
- アウトサイドレーンを上がってくる鳥栖のSBは両SHが絞りながら見る(ボールが出るまでは放っておく)
- ハーフスペースの鳥栖SHは鹿島のSBが見る
- 豊田はCBコンビで見張る
- 自由に動く金崎は、三竿がマークを受け渡しながら見張る
厄介だったのは上下左右に自由に動く金崎だった。それ以外は比較的上手く守れていたが、やはり金崎は嫌な所に動く。
三竿の近くでウロウロする分には、三竿が鉄壁の守備をしてくれるので問題ない。しかしサイドに流れた時にはさすがに三竿が毎回付いていくわけにはいかない。
SBに金崎を受け渡し、代わりに三竿が相手SHを見るような形を取る。そうなると金崎はサイドでのアイソレーション(1対1)が得意なので鹿島は後手を踏みやすい。
失点の形も、そのような形だった。
私はオフサイドだったと思うが、奇しくも鹿島の元10番にゴールを決められたのは、やはり悔しい。
家本主審のジャッジとアクチュアルプレーイングタイム
このゲームについては、家本主審のジャッジにも触れておこう。
家本主審は、この試合で何度も繰り返された鳥栖のファウルに対して警告を出す事が少なかった(この日出した警告は3枚のみ)。このジャッジの影響で、鳥栖は危険なシーンを迎えると迷わずファウルを選択した。
警告が出ないのだから、鳥栖は何度もファウルを選択することが出来た。
するとプレーは止まる。鹿島の選手も警告を出さない事への抗議をする。この一連の流れが多く、選手が「実際にプレーする時間(アクチュアルプレーイングタイム)」は減っていくばかりだった。
これはサッカーのあるべき姿ではない。
主審は、選手を怪我から守るためにも、またアクチュアルプレーの時間を増やすためにも、繰り返されるファウルには警告を出さなければいけない(というか、そういうルールだ)。
もちろんこのゲームでは、鹿島がリードしている状態でファウルが繰り返されたのでまだマシだった。
リードしている鹿島にとって「アクチュアルプレーイングタイムが減る」という事は、歓迎すべき事だからだ。相手に逆転のための時間を与えない事になる。逆に言えば、鳥栖は負けている状況なのだからファウルを繰り返すべきではなかったのだが、まぁそれはどうでもいい。
しかし、もしも鹿島が負けている状況で、「繰り返されるファウルに警告が出ない」というジャッジをされたらと考えるとゾッとする。
この日のカシマスタジアムは、このジャッジの影響もあり凄まじい一体感が生まれていたので、なんとも皮肉な事ではあったが……苦笑
MVP
白崎凌兵!!
この日の白崎の動きの質と量は凄まじかった。白崎でなかったら、鹿島の左サイドはもっと厳しい戦いを強いられたに違いない。
そしてパスも殆どミスなし。決勝ゴールも決めた。文句なしだろう。