ユニットで戦ったガンバ、攻撃の選択肢が少ない鹿島【2019年第14節ガンバ大阪戦マッチレビュー】

2019年Jリーグ第14節、ガンバ大阪VS鹿島アントラーズ戦。マッチレビュー。

試合結果

1-1

【得点】

13分 食野 亮太郎

43分 土居 聖真

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スタメン

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK クォン・スンテ

DF 山本脩斗 チョンスンヒョン 犬飼智也 安西幸輝

MF 三竿健斗 永木亮太 白崎凌兵 中村充孝

FW 土居聖真 セルジーニョ

レオ・シルバと伊藤翔がコンディション不良により欠場したこのゲーム。Jリーグの序盤戦の攻撃を牽引してくれた2名を欠くこのゲームでは、どのような攻撃を構築していくかが鍵となる。

特に今の鹿島の攻撃はレオ・シルバのボールキープと推進力に依存している要素が多分にあるため、彼がいない時のゲームは心配だ。

ボランチとして出場する永木、そして右サイドに入る中村充孝には注目だろう。

前節のサガン鳥栖戦を落としてしまった事実も加味しても、このゲームは落とせない。首位にこれ以上の差を離されると、取り返しのつかないことになる。

試合レビュー

早速試合を振り返っていこう。このゲームについて、いくつかポイントを絞って振り返りたい。

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フォーメーション

まず、念の為両チームのフォーメーションを確認しておこう。

▼鹿島を赤黒、ガンバを白で表現

鹿島はいつも通りの4-4-2、対してガンバは3-1-4-2のような形。3-3-2-2とも言える。ガンバは守備時には5-3-2のような形になることも見逃せない。

ポジションの構造的に、鹿島は中央のスペースよりもサイドに数的優位を作りやすい。

一方のガンバは鹿島にサイドで数的優位を作らせないためには全体がボールサイドにズレて対応する必要がある。そうなってくると鹿島としては「サイドチェンジ」や「ビルドアップでのやり直し」を多用しながら相手の隙を見つけていく展開になる。

完全にガンバペースの前半

このゲーム、前半は完全にガンバのゲームだった。いや、正確には安部が投入される65分くらいまではガンバのゲームだった。

解説の福田氏は「五分五分」という表現していたが、試合内容を冷静に見ると、鹿島の狙いがハマらず、ガンバの狙いの方がハマっていたゲームだったと私は見ている。

鹿島は攻撃を上手く構築することが出来ず、守備も狙い通りにハマっているとは言い難い展開だった。

まずは守備が上手くハマらない要因をいくつかに分けて説明しよう。

  1. ユニットで動くガンバ
  2. 自在に動くガンバ2列目と食野の「下りる動き」
  3. 矢島を抑えられない鹿島

守備がハマらない要因①ユニットで動くガンバ

まずこの試合の鹿島とガンバの最も大きな差は、「選手の距離感」だった。

ガンバの選手は攻守において「自分の一列隣の選手」との距離感を常に一定に維持した動きをしていた。

鹿島はポジションの構造的な問題で、ガンバのアウトサイド(WB)にボールを出させることはある程度許容していたと思う。しかし、ガンバはWBにボールが入った時、「一列後ろのCB」「隣のアンカー」「同サイドのOMF」が近い距離感でサポートに動き三角形や菱形を構築した。

個人ではなく、まさしくユニットで戦ってきた。

鹿島が誘導したアウトサイドから、また簡単にボールが中に入ってきたり、CBを経由して作り直されたために鹿島の守備はハマらなかった。

ガンバの選手は、それぞれがツータッチやスリータッチ程度のリズムでシンプルにボールを捌き、鹿島の網にかからなかった。

鹿島としては、ガンバの連動した動きの前に守備の狙いが判然とせず、「どこに誘導して、どこで奪うか」という意図が選手間で共有できていないように見えた。

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守備がハマらない要因②自在に動くガンバ2列目と食野の「下りる動き」

①の「ユニットで動くガンバ」に大きく寄与していたのがガンバ2列目の動きだった。

ガンバの2列目のOMF2名は比較的自由に動き、サイドに流れたり引いて受けたり裏を狙ったりと、流動性のある動きで永木と三竿を迷わせた。

そしてガンバの2列目の動きと食野の動きが連動していたこともポイントだ。

イメージとしてはこんな感じ↓

鹿島のボランチ2名が、比較的自由に動くガンバのOMFに付いていってしまうと、「空いたスペース」に食野が入ってくる。

鹿島はこのあたりの守備が上手く行っていなかった。

ボランチが人に付いていってしまったならCBも食野に付いていってしまうか、ボランチにはスペースを守ってもらうように動きを制御するか、いずれかの選択をするべきだ。

守備の動きが連動せず、「1番使われたくないスペース」を自由に使われるのは良くない。

奇しくもこの日の食野が行っていた動きは、直近の土居聖真が行った動きと近いものがあった。

守備がハマらない要因③矢島を抑えられない鹿島

鹿島が何度もガンバに攻撃を作り直させてしまった要因は、アンカーの矢島を抑えられなかった点にもある。

役割的には主にセルジーニョ(あるいは土居)が矢島を捕まえる動きを担っていたが、プレッシャーにはなっていなかった。矢島は自由に縦パス・横パス・バックパスを選択できる状況が続き、それが鹿島の守備陣に後手を踏ませた。

矢島は時として縦パスを入れてくるので、中央の警戒は解けない。中央を警戒しているのでサイドに出た時のリアクションは少しだけ遅れる。

そのような流れで守備は後手を踏む。

前節の鳥栖戦で豊田がレオ・シルバに対してみせた守備の強度に近い守備を鹿島のFWが見せれば、流れを鹿島側に持ってくるきっかけになれたかもしれない。

鹿島の攻撃がハマらない理由

では、鹿島の攻撃がハマらなかった要因は何だろう。端的に言えば、鹿島は自らの攻撃の選択肢を狭めてしまった。

それもポイントを絞って書いていこう。

  1. 中央でタメを作れない
  2. ゲームを作り直さない
  3. CBのビルドアップ(土居を有効活用できない)

ひとつずつ簡単に説明していく。

攻撃がハマらない要因①中央でタメを作れない

1つ目は中央でタメを作れなかったこと。

これはレオ・シルバの不在が大きい。

ボランチの両名がボールを保持せずに簡単にサイドにボールを捌いてしまうので、ガンバ側としてはサイドに狙いを絞りやすい。

「あ、サイドにボール来るな」とガンバの選手が思うシーンは存外に多かったはずだ。そうなるとガンバの守備はリアクション側からアクション側に回る。安西や山本にボールが入った時には相手は近い距離におり、相手の守備の体制も整っている。

ボランチとしては、相手DFライン裏へのパスやボールキープ、ドリブル突破を散りばめながら、「選択肢の1つとして」サイドにボールを付けるような動きを見せてほしいところだった。

攻撃がハマらない要因②ゲームを作り直さない

2つ目はゲームを作り直さない事。これは勿体なかった。

冒頭に述べた通り、ガンバはポジションの構造的に、サイドに人員不足になる。それを解消するためには全体がボールサイドにスライドする必要がある。

そのスライドが上手く行われているならば、鹿島はもう一度スンテやCBを含めてサイドからボールを引き取ってサイドを変える作業を繰り返さなければいけない。相手のスライドが遅れる時までゲームを作り直し、粘り強くサイドを変える。

この日の鹿島は同サイドでの崩しに固執してしまったシーンがいくつか見えたので、「やり直して相手を動かす」というプレーを実行するべきだった。

攻撃がハマらない要因③CBのビルドアップ

このゲームもまた、鹿島のCBのビルドアップには課題が残った。これについては3試合連続くらい同じことを書いてる気がするが、このゲームで要求されたビルドアップの能力は、前節とはまた違う。

これは図で説明しよう。

イメージとしてはこんな感じ。

スンヒョン(あるいは犬飼)がボールを持った時、SBへ付けるパスがあまりに多い。そしてそのパスをトリガーに、相手が守備のスイッチを入れる場面が散見された。

  • スンヒョンが山本にボールを付ける
  • 相手はそれを狙っているので、山本には厳しいプレッシャーがかかる
  • 山本は苦し紛れにパスを出すが、そのパスはガンバの網にかかる

このような流れだ。

では、ガンバの守備を惑わせるために、鹿島のCBはどんなビルドアップをするべきだったのだろうか。

最低限必要なのは以下のようなパスの供給だ。

1つが、「矢島(相手アンカー)の両脇」を動いていた土居への縦パス。

この日の鹿島はCBからの縦パスが少なかった。犬飼はいくらかチャレンジしていたが、スンヒョンはもっとチャレンジしなければいけない。ガンバの構造的に、「矢島の両脇」はスペースが出来るので、そこへの縦パスは常に意識してほしかった。

2つ目が、対角線へのロングフィード。

ガンバが全体をスライドしてボールサイドに数的優位を作ろうとしているならば、CBは逆サイドまで蹴ってしまってもいい。もちろん精度が伴えば最高だが、この場合は精度が伴わなくとも、蹴ってしまって良い。

大切なのは相手の狙いを外すことと、(鹿島の)数的優位と思われる場所にボールを運ぶことだ。

これらのビルドアップを見せつけた後、初めて山本へのパスは効果的になる。

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土居と白崎の動き

かなり課題が多い内容になったので少しだけ良かったところも。

鹿島としては、この日も土居と白崎の動きは効いていた。惜しむらくは、チームとして土居や白崎に対する鋭い縦パスを出すようなビルドアップを見せられなかったこと。それが見られれば、彼らの能力はもっと解放されていたことだろう。

彼らに鋭い縦パスを入れるビルドアップを見せることで、他の場所への警戒が薄まる。それが、鹿島が実行するべきビルドアップの姿だった。

山本と中村のプレークオリティ

最後に書いておきたいのは、山本脩斗と中村充孝のプレークオリティについて。少し厳しいことを書く。

山本は左サイドで起用するべきでは?という声も聞かれるが、私は現在の山本脩斗の状態ならば左サイドでもあまり活躍は期待出来ないように思う。

シンプルに対人で負けるシーンが目立つし、守備のリアクションや攻撃のアクションが遅れているシーンも散見される。これは左サイドだろうと変わらないだろう。

次のゲームでは、永木を右SBに戻すか、町田を左に入れて安西を右に持ってくるか、SBの人選は何かしら変化を加えた方が良いように思う。

山本のプレーのクオリティがブランク明けによるものか、年齢的な問題なのかは分からないが、またサイドを駆け上がる万全な山本のプレーが見たい。本当の意味での復活を期待している。

また、プレーのクオリティに関しては中村充孝にも同様のことが言える。彼の場合は怪我前からの課題ではあるが、オフザボールにおける相手との駆け引きという面で白崎や土居よりも見劣りしてしまう。

相手との駆け引きが少ないので、フリーになれる場面が少なく、味方は中村にパスを出しにくい。ボールを触ってナンボの選手にも関わらず、ボールタッチが少なく、「天才的なボールの扱い」という最大の長所を活かしきれていない。

中村に関しては、もう一つ選手としてのバージョンアップを期待したい。

MIP

土居聖真。あのゴールは、土居聖真らしさが詰まった素晴らしいゴールだった。前半に追いついてくれたのも非常に価値があった。また次の試合も頼む!!!!

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