2019年Jリーグ第7節、FC東京VS鹿島アントラーズ。マッチレビュー。
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK 曽ヶ端準
DF 小田逸稀 犬飼智也 町田浩樹 安西幸輝
MF 永木亮太 レオシルバ レアンドロ 土居聖真
FW セルジーニョ 伊藤翔
4月は重要なゲームが続く。前節は首位の名古屋、今節は無敗を続けるFC東京、そして28日は好調の横浜・F・マリノスとの試合だ。
前節の名古屋戦は超重要ゲームだったが、この試合も負けられない試合だ。
この試合における鹿島の目的は、「引き分けでも最悪OK」だと思っていた。アウェイであること、相手は強敵・FC東京であることを考えれば、このゲームは「無理をしてでも勝利を目指す試合」ではないはずというのが私の認識だった。
史上最低の前半
このゲームの前半は鹿島アントラーズ史上最低の内容だった。事実、前半30分までに3失点を喫するのはJリーグ創設以来初の記録だったらしい。FC東京のプレーが素晴らしかった事を差し引いても、鹿島のプレー内容が酷かった事は間違いない。
鹿島アントラーズの立ち上がりが悪い事は今まで何度もあった。しかし、その度に何とか前半を耐え忍び、逆転への糸口としてきたのがこれまでの鹿島だった。
このゲームではそれを全く実行することが出来なかった。焦りやコンディションの悪さ、運動量の少なさでどんどんバランスを崩し、最終的には取り返しのつかない点差を30分の間に取られてしまった。
なぜこのような試合運びになってしまったのか。鹿島の選手のコンディションの悪さは仕方ないとして、それ以外にピッチで起きていた現象を私なりに考えてみた。要因は5つに分けた。
①完全なる質的優位のFC東京2トップ
まず1つ目は、鹿島CB+GKに対するFC東京2トップの完全なる質的優位。
次に試合をした場合も町田と犬飼がFC東京2トップに完敗するとは思わないが、少なくともこの試合においては「完全に」負けていた。
CBに対するFWの質的優位はスコアへの影響力がすこぶる強い。タラレバの話ではあるが、昌子・植田のCBコンビだったら、「めちゃくちゃ内容は悪いが何とか0対0で折り返し」を実現できていたかもしれない。
これがFWの質的優位(あるいはCBの質的優位)の持つ意味だ。
鹿島の両CB(特に町田)がFC東京の2トップに為す術なく完敗してしまった事は、史上最低の前半を生んだ要因の1つだった。また、GKがスンテではなく曽ヶ端であった事もスコアに影響してしまった。
②質的優位×位置的優位×数的優位で殴られ続ける展開
問題は相手FWの質的優位だけではない。前半のFC東京は攻守において、見事に数的優位・位置的優位を鹿島に対して作り続けた。
数的優位はシンプルにFC東京の運動量によって担保されている部分が大きかった。特にネガティブ・トランジション(攻撃から守備への切り替え)時にその運動量は発揮された。
特に永井・高萩・橋本のネガティブトランジションの意識の高さは強烈なものだった。鹿島はボールを奪えてもボールを思うように運べず、まるでFC東京の方が人数が多いかのような戦いぶりだった。
FC東京は前半からスロースターターの鹿島を殺すつもりで戦いを挑んできた。鹿島はそれを真っ向から跳ね返す準備が出来ていなかった。
位置的優位については③に記載する。
③疑似トップ下の久保建英と位置的優位
前半の鹿島は面白いようにボールを回されてしまった。守備が全く上手くハマらなかった。
FC東京は4-4-2を敷いているが、前半の久保はまるでトップ下のような位置取りをしていた。FC東京の攻撃時、ピッチの中央には「高萩・橋本・久保」の3名がいて、そこに東まで絡んでくる。鹿島のボランチ2枚の間や両脇に彼らは位置取る。鹿島のボランチは彼らの捕まえ方が分からず混乱していた。ボランチだけではなく、本来久保のマークに付く予定だったはずの安西までも「中央に絞って久保を見るべきか、サイドのスペースを消しておくべきか」という迷いが生まれていた。
久保と東が中央に入った時は、SBの室屋と小川が上がってくるのでアウトサイドレーンも有効に使われていた。
特に久保は普通の選手ならミスをしてしまうような密集地帯でもミスをしない。鹿島がボールの取り所としたいレオ・永木の場所でボールを奪いきれず、中央からサイドに展開されてクロスを上げられる。あるいはセンターレーン~ハーフスペースをそのまま侵攻される。
この構造で鹿島は殴られ続けた。
④守備をデザインする高萩洋次郎
もうひとつ、FC東京には最も厄介な選手がいた。高萩洋次郎だ。
彼が前線の選手を動かして守備をオーガナイズしていることは明白で、ピッチ全体の中で危険なスペースを意識しながらボールを狩り続けた。鹿島は狩られ続けた。FC東京の「攻守のバランスの良さ」の心臓は間違いなく高萩洋次郎だった。
特に鹿島のストロングポイントである左サイド・安西幸輝の優位性を高萩に消されたのは痛恨だった。
前半の鹿島は、攻撃に困った時にいつものように安西から突破口を見出そうとした。しかしFC東京は高萩がボールサイド(鹿島の左サイド)に寄ってきて、ハーフスペースを消すような動きをした。
安西が攻撃参加した時は常にFC東京の室屋+高萩の2枚を相手にドリブルを仕掛けなければいけなかった。いくら安西でも強敵2枚を突破するのは勝算が低い。いつものように仕掛けることができず、後ろ~横にボールを預けて攻撃を作り直すしかない。
これは高萩のいたサイドだけで起きていたわけではなく、逆サイドでもFC東京は橋本がサイドに寄ってハーフスペースを埋め、鹿島のサイド攻撃に蓋をしていた。
サイドからの攻撃を生命線としている鹿島に対する、高萩・橋本の守備時の動きはパーフェクトとも呼べるものだった。
⑤FC東京の守備を支える永井のプレスバック
④で高萩・橋本が守備時にハーフスペースを消す動きをするわけだが、それを助けていたのは永井のプレスバックだった。
永井は前半からエンジン全開で守備に走っており、「味方ボランチの位置まで下がってくる」というほどではないにしても、「鹿島の低い位置の方のボランチ」くらいまでは必ず守備に戻っていた。永井のプレスバックにより、鹿島は攻撃時でも中央ボランチのポジションで相手に囲まれる場面を作られた。
FC東京はボランチ~FWまで守備の動きがオーガナイズされており、鹿島はそれを破るほどの攻撃のデザイン性は持ち合わせていなかった。
後半も崩せなかったFC東京のバランス
後半は幾分ボールを持つ時間が増えたが、それはボールを握っているというよりも「持たされている」という状況だった。ここでも立ちはだかったのは高萩洋次郎だった。彼は味方を動かし続け、試合終了まで鹿島の壁となり続けた。
攻撃面で非凡だった選手が守備を覚え、周りの選手を動かして勝利に導く高萩のプレーは、悔しいが小笠原を思い出すようなプレーぶりだった。三竿健斗も小笠原のように鬼気迫った表情や激を見せてくれたが、チームを勝利に導く事は出来なかった。
小笠原のプレーを身近に見ていた鹿島サポーターだからこそ、この日の高萩洋次郎のプレーの素晴らしさには敵ながら拍手を送りたい。
最低の土居聖真
この試合、土居聖真は最低のプレーの連続だった。多くのプレーで相手にボールを渡し、相手に向かっていく姿勢すら見せることは出来なかった。
失点を重ねた試合ではCBやGKが批判されることが多いが、この試合については両CBよりも土居の方がずっと問題があったと私は思っている。
町田は確かに3回も失点に直結するマズイ対応をした。しかし、土居が絶対にボールを渡したくない場面で簡単にパスミスをしたシーンは3回を余裕で超えただろう。もちろん、誰が悪いという話ではない。犯人探しは意味がない。しかし、町田を批判するのと同じか、それ以上のエネルギーで、土居のプレーだって批判されるべきだと私は思う。
土居には、もっともっとやってもらわないといけない。期待しているからこそ、この日のようなプレーを続けてはいけない。比較対象は本山や野沢だ。
采配の不透明さ
また、最低のプレーをしていた土居聖真を交代しなかった大岩監督の采配も疑問だった。引いたFC東京を崩すのにはセルジーニョのミドルが必要だったし、土居のプレーぶりには大きな問題があったはずだ。
ハッキリと言うが「いったい何を見ているんだ」と言わざるをえない采配だった。
また、抜擢した小田に託したミッションも不透明だった。事前の想定よりも鹿島の選手の動きが悪く、またFC東京が素晴らしかった事を抜きにしても、小田起用の狙いは分かりかねる内容だった。
MIP
該当者無し。選手全員が猛省して次に繋げるしか無いでしょう。