2019年Jリーグ第24節、鹿島アントラーズVSガンバ大阪。マッチレビュー。
試合結果
2-2
【得点】
33分 アデミウソン
44分 セルジーニョ
58分 伊藤 翔
73分 パトリック
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォン スンテ
DF 小泉慶 ブエノ 町田浩樹 小池裕太
MF 三竿健斗 名古新太郎 セルジーニョ 白崎凌兵
FW 土居聖真 伊藤翔
ハイライト
見どころ
今節は金曜夜のフライデーナイトJリーグ。FC東京は土曜の試合のため、鹿島はこのゲームを勝利してFC東京にプレッシャーをかけたい。
対戦相手のガンバ大阪は、前半戦(アウェイ)の対戦ではいなかったパトリック・宇佐美・井手口が復帰しており、別物のチームとなっている。
特に前線の4名(パトリック・アデミウソン・宇佐美・倉田)は個の力でゴールを奪える選手たちだ。鹿島としてはマッチアップするであろうDF陣の奮闘が期待される。
試合レビュー
ポジション
▼鹿島を赤紺、ガンバを白で表現
守備時に5-3-2となるガンバ大阪
ガンバ大阪は珍しい形の布陣を敷いてくるチームだ。
3バックに両WB、井手口をアンカーに据え、2人のOMFに倉田と宇佐美、2人のFWにアデミウソンとパトリックを置く。
攻撃時は3-3-2-2となるが、守備時は両WBが1列下がり、OMFの2名もインサイドハーフの位置まで戻り5-3-2のような形になる。
この配置には弱点になりうるポイントがある。
アンカーである井手口の”脇”と、攻守が入れ替わった瞬間のWBの裏のスペースだ。
土居が突こうとした井手口の”脇”
まず1つ目のポイント。アンカー井手口の”脇のスペース”だ。
井手口が3バックの前に位置取るが、その脇のスペースはどうしても空きがちになる。ガンバの場合は、倉田も宇佐美も攻撃的なポジションを取ることが多いので、その傾向は顕著だ。
宮本恒靖監督のガンバは、守備時に倉田と宇佐美をインサイドハーフの位置まで下げることでその隙を埋めようとしているように見えた。
一方の鹿島は、まさしくそのスペース(井手口の脇)を執拗に土居聖真が狙った。特にインサイドハーフの宇佐美がボールに食いついて前に出た瞬間、土居聖真は「待ってました」とばかりにスペースを活用した。
この動きはそれなりに効果的に働いていたし、ゲームを優位に進める上で重要な動きだった。一方の井手口も土居に侵略させまいと運動量豊富にパスコースを消しにかかり、土居と井手口のスペース争いは非常に見応えがあった。
鹿島が狙ったWBの裏
2つ目のポイントは「攻守が入れ替わった瞬間のWBの裏のスペース」だ。
ガンバは攻撃時に4名のアタッカー+WBも攻撃に参加する。そこで穴になり得るのが、攻守が入れ替わった瞬間のガンバWBの裏のスペース。
鹿島はおそらく意図的に、白崎とセルジーニョがそこを繰り返し狙った。
ガンバはネガティブトランジションに課題を抱えており、鹿島はポジティブトランジションでSHを中心に起点を作ることができた。
鹿島に必要だったポジトラの迫力
鹿島はポジティブトランジションでガンバWBの裏を突けたため、スムースに攻撃に移行できた。しかし、ガンバのバランスが崩れた状態のうちに攻撃を完遂することはできなかった。
ガンバのWBの裏でボールを受けたセルジーニョも白崎も「縦」にボールを運べるタイプではなく、FWの2名も裏抜けを得意とするタイプではないため、攻撃は毎回「遅攻」を選択せざるをえなかった。
一度ボールをキープし、落ち着かせて、じっくり攻める。毎回このパターンだった。これは必ずしも悪い事ではないのだが、ガンバの守備陣形が整うのを待つ事にも繋がる。
今シーズン前半の鹿島であれば、安西が相手WBよりも先に相手陣地に侵攻し、同サイドをSHと2名で侵略して攻撃を速攻で完遂させていたようなシーンだった。この日の鹿島にその動きは見られなかった。
ガンバのネガティブトランジションは大きな課題があったが、鹿島はそこをクリティカルに突く事は出来なかったといえる。
もう少し早く、縦へのベクトルを持つ相馬を起用するような采配も見たかった所だ。
伊藤翔VS三浦弦太
この日のゲームではポイントとなるマッチアップがあった。伊藤翔VS三浦弦太だ。
前半に伊藤翔がサイドに流れて三浦弦太とマッチアップした際、2回中2回三浦に潰されてしまった。これまでの伊藤翔であれば何とかキープしてくれた場面だったが、三浦弦太の巧みな守備の前に伊藤翔が競り負けてしまった。
その後の伊藤翔と三浦のマッチアップでは、三浦が完全に主導権を握り、伊藤翔はボールを失わないようにするのが精一杯だった。
中盤である程度ボールを保持出来る中でも決定的なフィニッシュの場面が存外に少なかったのは、伊藤翔と三浦のマッチアップで劣勢だった事が影響していた。
また、伊藤翔から上田綺世に替わった後もマッチアップの劣勢が変わることはなく、ついに鹿島は勝ち越し点を奪えずにゲームを終えてしまった。
更に言えば三浦弦太はビルドアップでも鹿島の隙を突くロングボールや楔のパスなどを連発し、攻撃面でも脅威的な存在だった。鹿島のDFラインにもあのレベルのビルドアップを要求していきたい。
高い位置を取るべきだった名古新太郎
また、この日の名古のポジショニングにも言及しておきたい。
名古のこの日の攻撃時のポジションは、もっと高い位置を取るべきだったと思う。
もちろん時折高い位置を取る場面もあったが、名古は基本的には低い位置でのゲームメイクが多かった。
ガンバの守備の構造を考えた時に、名古もベースのポジションを井手口近辺まで上げてしまえば、ガンバは「積み」の一歩手前のような状況になったはずだ。
名古が一列ポジションを上げれば、井手口は土居と名古の両名を見なければいけなくなり、つまりOMFの倉田か宇佐美をアンカーの位置まで下げさせなければ対応できなくなる。
倉田か宇佐美をアンカーの位置まで下げさせられれば、ガンバの攻撃の脅威を鹿島ゴールから遠ざける事が出来る。
後ろのゲームメイクを三竿とCBに任せ、もっと2列目に顔を出すプレーを見せてほしかった所だ。
ロングボールを蹴らせるのは得策ではなかったはずの試合
また、この日の鹿島は「ロングボールを蹴らせること」を許容した戦い方に見えた。
失点シーンを見てもそうだろう。
ただ、これが合理的だったのかと言えば、そうは言えないと私は思った。相手にはパトリックがいるのだ。
ブエノと町田は空中戦も強いとは言え、パトリックも強烈な存在。もちろん、夏場の暑さ等、多くの条件を考慮して、プレッシングは最小限に抑える戦い方を選択したのだろうとは思う。
しかし、あまりに満足な状態でボールを蹴らせすぎた。
ガンバが必要最低限しかロングボールを放ってこなかったにも関わらず、鹿島はロングボールから2つの失点を喫した。ガンバがもっとパトリックの高さを頼ってロングボールをバンバン放ってきていたら……と考えるとゾッとする。
おそらく失点は2では足りなかった事だろう。
「崩されたわけではない失点」と解釈する人もいるかもしれないが、あれは崩されていると私は解釈する。ブエノと小泉の個人的なミスではなく、チーム全体の戦い方の甘さによる失点だ。
今後はFC東京との試合でも強烈なFWと対決することになるだろう。もう一度チーム全体として、甘さを見せない戦い方へ引き締め直す必要があるだろう。
MIP
セルジーニョ。
圧巻の右足はセルジーニョの素晴らしさが凝縮されたゴールだった。右も左も蹴れるし、走れるし、真面目だし、体も強い。本当にカイオ以来の圧倒的な貢献度。