献身的な遠藤・白崎とセルジーニョの質的優位がもたらした勝利【2019年ACLベスト16サンフレッチェ広島戦1stLegマッチレビュー】

2019年ACLベスト16、鹿島アントラーズVSサンフレッチェ広島戦1stLeg。マッチレビュー。

試合結果

1-0

【得点】

24分 セルジーニョ

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スタメン

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK クォン・スンテ

DF 永木亮太 チョンスンヒョン 犬飼智也 安西幸輝

MF 三竿健斗 レオシルバ 白崎凌兵 遠藤康

FW 土居聖真 セルジーニョ

先に謝っておきたい。私はこのゲームの録画を忘れてしまった。現地で見てはいたが、細かな分析まで落とし込むことは今回のマッチレビューでは難しそうだ。

いつものマッチレビューは、だいたい2~3回程度は最低でも試合を見返して書いているが、今回は現地で見た記憶を手繰りながら書くことになる。

1回しか見ていないゲームのマッチレビューを書くのは、私がブログを書き始めてから初めてのことだ。不安しかない。現地では酒も少し飲んでいたし、応援もしていたのでいつもより更に不安だ(苦笑)。

でも折角なので記憶だけを頼りにマッチレビューにチャレンジしてみたいと思う。

前置きが長くなった。まずこのゲームの重要性ついて少しだけ。

鹿島はACLのグループリーグ後半戦で悪い結果を出してしまったため、グループを首位通過したサンフレッチェ広島と潰し合わなければいけなくなった。

おまけに広島とはACL2連戦の後にJリーグで当たることになる。こいつは面白い。

予め理解しておきたいのは、このゲームは厳密には「3連戦」ではなく「2試合と1試合」と考えるべきだということ。

1試合目で考えるべきことは、1試合目と2試合目のこと。3戦目のJリーグのことは考えなくて良い。あくまで1stLegは、「2試合を通じて勝利する」ための90分にしなければいけない。求められる結果は無失点での勝利だ。

試合レビュー

試合を振り返ろう。

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基本配置

両チームの基本配置はこのような形だった。

※鹿島を赤紺、広島を白で表現

鹿島は遠藤が右サイドに入り、あとは最近のゲームの定番のメンツだ。広島は3-4-2-1のような形。

即時奪回が効いた前半

鹿島の前半は良い試合内容だった。

その要因はいくつかある。中でも際立ったのは三竿健斗を中心にボールを「即時奪回」して攻撃につなげた点だった。

広島の立ち上がりが悪く、ボールコントロールが不安定だった点を三竿や白崎は見逃さなかった。

自陣深くではなく、いわゆるゾーン2(ピッチを横に3分割した真ん中)のポイントでボール奪取に成功する場面が見られた。

これはDFラインを高く設定し、チーム全体がコンパクトに布陣していたことに起因していた。

鹿島は「ボールをロストした直後」のネガティブトランジションの意識が高く、良い流れでゲームに入ることが出来た。

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質的優位のセルジーニョ

前半を優位に進めた要因は他にもあった。

セルジーニョの、相手CB(主に野上・吉野)に対する質的優位だ。

広島のDF陣は空中に浮いたボールに対する処理に問題を抱えていた。

例えばスンヒョンがアバウトにセルジーニョめがけて蹴った浮き球のパス。これをセルジーニョは殆どの確率で相手DFより先に触り、鹿島ボールに収めてくれた。もし相手にチョン・スンヒョンがいたならば、おそらくこんな攻撃は全てヘディングで跳ね返されてしまっただろう。スンヒョンが味方で良かった。

セルジーニョが勝てると見るやいなや、積極的にセルジーニョを使う柔軟性を鹿島の選手が持っていた事も良かった。

セルジーニョの質的優位は、おそらくだが広島のプランを崩した。私にはそう見えた。

広島のプラン

では、広島はどのようなプランで試合に臨んだのだろうか。

私の見立てでは、広島はボールの取りどころを限定していたように見えた。それは鹿島の「両SBとレオ・シルバ」だ。

鹿島の両SBにボールが渡るタイミング

まず広島は、鹿島の両SBにボールが渡る瞬間をプレスのスイッチにしていたように見えた。

鹿島のSBに入ると対面のWBが詰めて、それに連動して同サイドのCBが前にスライドする。

このプレスに対し、鹿島の左サイドが苦戦する事は少なかった。それは単純に安西と白崎の技術が高いのに加え、土居聖真がビルドアップのヘルプに入る場面が多かったからだ。

広島は中盤に降りてボールを受ける土居を捕まえきる事は出来なかった。

一方の右サイド。こちらはやや広島の思惑通りの守備をさせてしまったかもしれない。右サイドは土居のヘルプが入らない場面が多かった事も影響していた。とはいえ、永木の相手のタイミングを外すプレーやオーバーラップの仕掛けなどで何とか奮戦していた。

レオ・シルバにボールが入るタイミング

広島はレオが自陣深くでもボールを保持しようとする癖も突いてきた。川辺と両シャドーはレオに入った時に激しく守備をかけた。後半はレオのキレも落ち、この守備に引っかかる場面も散見された。

広島のプレスは鹿島がビルドアップ時に以下のような現象になる事を考慮したものだと思う。

  • 土居が降りるので前線がセルジーニョだけになる事が多い(広島はDFラインに人数を残しておかなくて良い)
  • 鹿島CBがSBにつけるパスは読みやすい
  • レオ・シルバはプレッシャーが来ても逃げずにボールを保持する

広島が設定したプレスのポイントは、それなりに合理的だった。

個の力が戦術を壊す

しかし、広島のプレスのスイッチも前半はそこまで機能しなかった。

それは前述の「セルジーニョの質的優位」がもたらしたものだった。

広島はある程度の人数をかけてプレスをかけて鹿島の攻撃のバランスを崩すが、鹿島はテキトーにセルジーニョに向けてボールを蹴れば攻撃を成立させられた。

「個の力」や「質的優位」が戦術を壊す良い例だったと思う。

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偽DFの遠藤康と白崎の守備力

一方の鹿島の守備(広島の攻撃)はどうだっただろうか?

このゲームの影の殊勲者は遠藤と白崎の守備だった。

広島はキレのある左WBの柏を積極的に使って攻撃を組み立てていこうとした。ここで粘り腰を見せたのは遠藤康。

柏を完璧に封じたとは言えない。けれど遠藤は「守備の要所を抑えている」という動きを見せてくれた。

広島の左CB(佐々木)がビルドアップに参加した時は、柏へのコースを切りながらプレッシャーをかけたり、柏と1対1になりそうになった時は自分一人で柏を抑えようとせずに、ボランチや後ろの永木とのユニットで「最終的に崩されなければいい」という守備を見せてくれたり、ベテランらしい落ち着いた守備だった。

遠藤がもしもレアンドロだったならば、柏への対応については手を焼いただろうと思う(逆にレアンドロだったら攻撃で結果を残してくれたかもしれないが)。

このゲームの役割においては、遠藤はSHではなく「5人目の偽DF」といった具合だった。彼の守備が無失点に貢献していたことは間違いない。

一方の白崎。彼も対面の清水に大きな仕事をさせない地道な守備を見せてくれた。

彼はそもそもの守備の位置取りをサボらない。たまに広島の右WB清水にボール入った時も、ボールを受けた瞬間から既に清水に主導権が無いような状況が多かった。

クレバーで技術が高いだけが白崎の良い所ではない。泥臭い仕事をサボらない所が白崎の真髄だ。

流れが変わった後半

後半は流れが変わり広島ペースとなった。

これはある程度、鹿島側が無失点を狙いに引いた影響もあったが、それ以上に鹿島が「コンパクトさ」を保てなくなっていたことに要因があった。

狙いとしてはある程度自陣に引いて相手を招き入れ、相手陣地の広大なスペースを突いて2点目を奪おうとしたのだと思う。しかし後半は相手CBの動きも改善され、セルジーニョの動きも落ちたため、前半のようなアバウトな攻撃は通用しなくなっていた。

チームとしても重心が後ろに下がっていたため、セルジーニョ近辺のこぼれ球を奪回することもままならず、相手に断続的な攻撃を許すことになった。

無失点のミッションを達成した守備陣

しかし、犬飼・スンヒョン・スンテを中心とした守備陣がペナルティエリア内の戦いで広島に負けなかった。これは昨年の苦しいトーナメントを勝ち抜いて手に入れた堅さだろう。パトリックの迫力にはヒヤヒヤさせられたが、試合終了まである程度の安心感を持って試合を見ることが出来た。

周りとの距離感を常に意識した三竿のポジショニングや指示も、無失点には大きく貢献していただろう。今年の三竿は間違いなく「チームメイトの動き」をよく見ている。キャプテンマークは巻いていないものの、その立ちふるまいはリーダーそのものだった。

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MVP

セルジーニョ!

ゴールへの意思を見せた土居聖真も、ボールを跳ね返し続けたスンヒョンも素晴らしかったが、やはりスコアを動かしたこの男を無視してはいけないだろう。前半はほとんどのデュエルで勝利し、広島のゲームプランを崩すのに一役買った。

ゴール後にサポーターズシートへ深いお辞儀をする姿も好印象。

2ndLegも大きな仕事をしてくれ!

 

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