2020年ACLプレーオフ、鹿島アントラーズVSメルボルンV。マッチレビュー。
試合結果
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォン スンテ
DF 広瀬陸斗 奈良竜樹 犬飼智也 永戸勝也
MF 三竿健斗 レオ・シルバ アラーノ 和泉竜司
FW 土居聖真 エヴェラウド
見どころ
このゲームはザーゴ新監督の初公式戦となるゲーム。チームとしてどのような意図を見せてくれるか。
ザーゴ監督や鈴木満強化部長からは「アグレッシブなプレー」「ボールを支配する」「奪われたらすぐに奪い返す」というニュアンスの言葉がメディアに並んだ。
それらの特徴をピッチで体現できるのか、そして何よりも重要な「勝利」という結果を出すことが出来るのか。
また、新加入選手たちの躍動にも期待したい。スタメンに名前を連ねたエヴェラウド・アラーノ・和泉・広瀬・永戸・奈良といった選手たちは、鹿島の選手としてどれほどのパフォーマンスを見せてくれるのか注目だ。
試合レビュー
さっそく試合を振り返っていこう。
ベンチメンバーの選考
まずはベンチメンバーの選考から疑問があった。
この日のサブに入ったメンバーは以下の通り。
曽ヶ端、内田、関川、永木、小泉、白崎、伊藤翔
攻撃のカードが少ない。7名の選手のうち、攻撃面でチームを活性化できるのは実質白崎と伊藤翔の2名。内田・永木・小泉は適正ポジションが重なっているため、同時起用の可能性は極めて低い。内田・永木・小泉のいずれかのメンバーを外し、荒木や松村(実質この2名しかいないのだが)をメンバーに入れてほしかった所だ。
奈良とアティウのマッチアップ
試合の立ち上がり、鹿島は奈良とメルボルンの7番アティウのマッチアップを狙われてしまう。
このブログでも度々書いているが、CFのCBに対する質的優位は致命的になる。
奈良は試合序盤から4回ほどアティウとマッチアップする機会があったが、いずれもボールに触れる事すら出来なかった。鹿島は致命的な弱点を抱えたまま、メルボルンは決定的な強みを持ったまま試合を進める事になる。
メルボルンは困ったらアティウに向けてボールを蹴っ飛ばせば良い。鹿島がアグレッシブなプレスをかけようとも、何の意味も無くなる可能性がある。そんな不安からゲームはスタートし、結局アティウが交代する82分までその不安は解消できなかった。
縦パスを入れるタイミングの共有
このゲームで最初に感じた「昨シーズンとの違い」は縦パスだ。単純に縦パスの本数が増えた、というよりも「縦パスに対する意識」が揃っていた。
それが垣間見れたパターンは主に2つあった。
永戸の左足
まずは永戸の左足。
彼が左足でボールを持ったタイミングでは、チームで相手DFラインの裏に抜ける意識を持つようになっていた。
土居聖真・アラーノ・和泉を中心に裏を狙う動きを繰り返していた。
これはザーゴが決め事としているのか選手間でタイミングを合わせているのかは判然としないが、選手の意思統一は図れていたように見えた。
永戸の左足は鹿島の武器であり、そこは共通認識として活かしていこうという意図は感じられた。
エヴェラウドの強さと上手さがベース
もうひとつ、縦パスで顔を出していたのがエヴェラウドだ。エヴェラウドのポストプレーのタイミングの良さと上手さはさすがのものだった。
「(土居や和泉が)DFラインの裏に抜ける」「(エヴェラウドが)DFラインでポストプレー」を同時に準備している事で、相手DFは守備のベクトルを動かされていた。
エヴェラウドはまだまだコンディションが上がっていない状況である事は明白だが、それでも一定のプレークオリティは見せてくれた。伊藤翔や綺世には無い力強さを兼ね備えたポストプレーは、今シーズン重宝される事だろう。
ビルドアップ
ビルドアップもザーゴ体制になってから進化が期待されるポイントだ。
しかしビルドアップについてはこのゲームを見るだけでは何とも言えないというのが正直な所だった。
というのも、メルボルンが撤退守備を選択した事で、(例えば去年までと同じチームであっても)センターラインまでボールを運ぶ事は容易だったからだ。あの相手のスタイルならどんなにビルドアップが下手なチームでもセンターラインまでボールを運ぶ事は出来る。
鹿島におけるビルドアップの真価が問われるのは、「相手のプレスがかかる中でセンターラインを超えるまで」であり、今回の試合で言える事は少ない。
それでも、SBの永戸と広瀬のプレーぶりには光明が見られた。
昨シーズン終盤の鹿島のビルドアップ面の課題の1つはSBからの展開力とゲームメイクの乏しさだった。この試合の左サイドでは永戸がダイナミックなフィードを見せ、右サイドでは広瀬が絶妙な位置取りからゲームメイクをした。
永戸と広瀬の2名から、「ビルドアップの出口からチャンスの入り口まで」を繋いでくれそうな気配は存分に感じる事が出来た。
チャンスの構築
ビルドアップから先、チャンスの構築についても書いておきたい。
昨年までの鹿島はメルボルンの監督の言うように、撤退された5バックを崩す術を持ち合わせていなかった。
今回はどうだっただろうか。
結論から言えば昨シーズンよりもチャンスは構築出来ていた。
昨シーズンに発生していたノッキングのような「同じレーンに複数名が入って渋滞する」という場面は見られなかったし、サイドチェンジもスムースだった。
それぞれの選手がレーンと高さに角度を作り、最終的にはサイドに。SBからのクロスでチャンス構築。という場面はかなり増えた。
一方で選手間の距離はやや遠い印象もあり、和泉や白崎、土居の得意なコンビネーションを見せられる距離感を保つ事は難しかった。アラーノとレオのコンビ、エヴェラウドと彼の落としを受ける選手の距離間は良かったが、そこから3人目が絡むような動きが見られたら更にゴールに迫れただろう。
この辺りはコンディションが上がって、運動量が上がれば解決する問題かもしれない。
良いクロッサーも揃っているので、ワンタッチゴールが真骨頂である伊藤翔や綺世は得点数を伸ばせるかもしれない。パワーのあるエヴェラウドも然りだ。
ボールにチャレンジ出来なかった奈良
再度にはなるが、この試合では奈良のプレークオリティに触れないわけにはいかない。
奈良はピッチの中の誰よりもボールにチャレンジ出来ておらず、対人でもほとんど負けてしまった。
マッチアップのアティウは2mを超える長身で確かに難しい相手ではあったが、それを加味したとしても負けすぎた。
高さで負けてしまうなら仕方ない面もあるが、出足や予測でも遅れを取る場面が散見され、プレーに迷いがあるのか、コンディションに問題があったのか、心配になる内容だった。フィジカル面も充実していないように見えた。
繰り返しにはなるが、ザーゴの鹿島が前線からアグレッシブな守備をするならばCBは対人で負けてはいけない。相手が「逃げのロングパス」を繰り返した所で、跳ね返せる存在でなければならない。新加入選手に対して厳しい書き方にはなるが、アグレッシブな守備とCBの対人の強さはセットだと私は思っている。
奈良の今後の奮起に期待したい。
ACLの敗退
この試合で2020年のACLの出場権が無くなった。
ザーゴの意図を落とし込む時間は存分に用意されていなかった。選手のコンディションも連携も整っていなかった。更には悪天候だった。現時点でザーゴを責める気にはならないが、それでもプレーオフを敗退した事実は消せない。
ザーゴの鹿島アントラーズはマイナスからのスタートになってしまった。ここから如何に挽回してタイトルを奪還するのか。
その過程をこのブログでは追いかけていきたいと思う。