2019年Jリーグ第5節、ジュビロ磐田VS鹿島アントラーズ。マッチレビュー。
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォンスンテ
DF 内田篤人 犬飼智也 町田浩樹 安西幸輝
MF 永木亮太 レオシルバ レアンドロ 土居聖真
FW セルジーニョ 伊藤翔
今節に求められる結果は勝利。鹿島はゲーム前の状態で4節を終えて勝点7。
私は、「優勝争いに加われる基準」として「平均勝点2」が必要だと思っている。ジュビロ磐田との第5節を勝利すれば勝点が10に届き、平均勝点2に到達する。引き分けで終われば勝点8。平均勝点2には届かない。
この試合が引き分け以下だった場合、Jリーグ序盤戦の鹿島は及第点とは言えない。
また、この試合には気になるデータがある。大岩監督率いる鹿島は、名波監督率いるジュビロ磐田に一度も勝ててない。全て引き分けだ。2017年にはヤマハスタジアムでの最終節で苦い思いをした。なんとか今年こそはヤマハスタジアムで勝利を掴みたい。
試合分析
さっそく試合を振り返っていこう。
ジュビロ磐田の可変システムと森谷賢太郎
この試合のジュビロは、3-4-2-1をベースとした布陣を敷いた。攻撃時には森谷がDFラインに降りてパス回しに参加、4-3-2-1のような形になることもあり、また守備時はWBがDFラインに加わって5-4-1のような形になった。
ジュビロのキーマンは森谷賢太郎だった。
ジュビロのビルドアップは、森谷を中心に行われ、右から攻めるにも左から攻めるにも森谷を経由するような形だった。また、ボールの動かし方も森谷が指示する場面も多く見られた。
ビルドアップ時にDFラインとボランチの間をウロウロする森谷を、鹿島としては少し自由にしすぎてしまった感がある。
このあたりは、リーグ戦初出場だった森谷の動きをスカウティング出来なかったという所があったのだろう。本来であればセルジーニョとレオあたりが連携を取りながら、もう少し森谷から自由を奪いたかった。
決定機を作らせない鹿島の両CB
森谷を中心にDFラインでのポゼッションを許した鹿島だったが、大きく崩される場面は無かった。ジュビロの攻撃は「アダイウトン頼み」の攻撃が多く、そこに対するリスクマネジメントは両CBとも徹底されていた。
なぜ磐田は「アダイウトン頼み」になりがちだったのかというと、
- 森谷がDFラインに入ることで磐田の中盤(のセンター)は田口1人でゲームメイクをする必要があった
- 田口1人でのゲームメイクが難しいと大久保嘉人や山田がゲームメイクに参加する
- 両WBは高い位置を取らないのでアダイウトンは前線に孤立しがち
このようなメカニズムだった。鹿島としてはアダイウトンにさえ注意を払っていれば、さほど危険な場面を迎えることは無かった。両CBの対応も安定感があった。
「浮く」鹿島の両SBと、オーバーワークな磐田のシャドー
鹿島は前半、両SB(特に内田サイド)からチャンスを作った。
磐田の守り方の問題で、鹿島のSBは「浮きがち」だったからだ。鹿島の攻撃時のジュビロの布陣はこのような形が多かった。
ジュビロは守備時に5バックのような形を取るため、鹿島の内田がボールを持った時にシャドーの位置である大久保が戻らなければならない。
これは逆サイドでも同じ現象が起きていた。安西がボールを持った時に、ジュビロは山田が守備に入らなければならない。
ある程度攻撃に専念させたいシャドーの選手に、ここまでの守備のタスクを担わせるのは中々難しい。オーバーワークとも言える。そこを突いた内田は上手く位置取りをして好機を演出した。
この試合の鹿島のキープレイヤーは、明らかにサイドバックだった。サイドバックがいかに「中途半端な位置取り」をして、相手を迷わせるかが重要になる。
その点で内田のポジショニングは絶妙に「中途半端」で、ジュビロの選手たちに「大久保が戻るのか、松本が行くのか」という迷いを生ませた。後半、内田が交代した後はSBの位置に入った永木が高い位置を取りすぎていたため、ジュビロにかえって守りやすくさせてしまった。
失点の兆候があった「諸刃の剣」の守り方
鹿島としては悪い試合運びではない中、先制点を奪われてしまう。しかし失点のシーンの前から、失点の兆候はあった。
鹿島の左サイドからジュビロが攻めてクロスを上げた時、逆サイドの松本(ジュビロの左WB)は常に「ドフリー」だった。それは失点の前からずっとだ。
そして内田はおそらく、松本がドフリーだと(失点前から)気づいていた。しかし、レアンドロに「戻れ」と指示することは無かったように見える。
これは私の憶測に過ぎないが、内田は「この守り方でイケる」と目論んでいたのではないかと思う。内田はこの試合に限らず、「1人で2人を見る」ような守り方をする。そのようなポジショニングが絶妙な選手だ。前節の札幌戦も、レアンドロを無理に戻らせることはせず、「1人で2人を見る」というポジションを取って成功していた。
内田が2人を見る代わりに、レアンドロに攻撃の自由が与えられる。いわば諸刃の剣の守り方だ。
この試合においても、レアンドロにあえて守らせず、カウンター要員として前に残しておいてあげた。レアンドロに守備をさせるよりもカウンターの脅威とする方がチームのメリットになる。そのような内田の判断だったのだろうと思う。
実際、前半はレアンドロからのカウンターでチャンスを何本か作った。内田の「目論見」はそこまで間違っていなかったのだが、失点シーンの大久保嘉人のプレーは内田の想定を超えたのだろう。
内田の守り方については「今回は凶と出た」という表現しか出来ない。前節の札幌戦は「吉と出た」わけだから、非常に難しい問題だ。しかし何も考えずに失点したわけではなく、おそらく狙いを持ってプレーした中での失点なので、そこまで失望するようなものではないと思う。
安部裕葵-安西幸輝のホットライン
後半の鹿島は左サイドを中心に攻撃を組み立てた。安西と安部はすこぶる相性が良い。
安部が意図的にアウトサイドレーン(タッチライン際)にポジションを取れば、ハーフスペースを安西が侵攻。安西が流れの中でアウトサイドレーンに入れば安部がハーフスペースへ。
2人の動きと連携が円滑で非常に美しく、レオの得点シーンもその動きの延長で生まれた。
安部は特に、「タッチライン際まで自分が広がることで味方が攻めやすくなる」ということを理解しているのだろう。安部が直接攻撃に関わらずとも、安西やレオなどがプレーしやすくなるのが顕著だ。
安部-安西のホットラインは、今年の鹿島の大きな武器となるだろう。この2名はコンビネーションだけでなく単騎でも相手を剥がせるので、更にタチが悪い。笑
采配はどうだった?
この試合の采配についてはやや疑問が残った。
1点目は、「パワープレーの仕込み」。ハッキリ言って最後の磐田の攻撃は皆無だったので、鹿島としてはある程度のリスクを取ってでもパワープレーを使ってゴールを狙う姿勢がほしかった。例えば関川の投入、キッカーとして平戸の投入など、出来ることはあったはずだ。
2点目は、「白崎凌兵のベンチ外」。引いた相手を揺さぶりながら崩すのに最も秀でた選手は白崎だろう。三竿が投入されたビハインドの状況であれば、三竿よりも白崎の方が適任だ。
特に「パワープレーの仕込み」については、まだ今シーズン一度も見れていないので気になる所だ。
MIP
レオ・シルバと永木亮太。レオは値千金のゴラッソ。永木は球離れのタイミングやパスの精度、左右の揺さぶりなど、攻撃面での大きな成長を感じた試合だった。これからもこのペースでゲームメイクを期待したい。