2018年Jリーグ第29節 鹿島アントラーズVS川崎フロンターレ戦マッチレビュー
スタメン
鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。
GK クォンスンテ
DF 安西幸輝 チョンスンヒョン 犬飼智也 山本脩斗
MF 三竿健斗 レオシルバ 遠藤康 安部裕葵
FW セルジーニョ 鈴木優磨
状況をおさらいすると、首位川崎と3位鹿島の試合前の勝ち点差は11。鹿島は「リーグ優勝」を狙うのであれば絶対に勝ち点3が必要なゲーム、シックスポインターだ。逆にいえば、このゲームで勝利以外の結果であれば、残り5試合で首位と勝点差11となるため、優勝は現実的には難しくなる。
スタメンを見てみると、ACLから大幅な入れ替えはなく、「もちろんリーグ優勝も狙いに行く」というメッセージを感じられる。
水曜日のACLから、スンテ・スンヒョン・犬飼・山本・三竿・遠藤・安部・セルジーニョ・優磨の9人が連続スタメン出場。勝っている時はメンバーを弄らないという鉄則もあるが、複数のコンペティションをある程度固定されたメンバーで戦っているのが鹿島の現状である。川崎は前の試合から1週間空いており、鹿島は過密日程の真っ最中で中3日。ハッキリ言ってコンディションでは雲泥の差があるだろう。
大岩監督がチョイスした「固定メンバー」という選択が吉と出るか凶と出るか。
試合分析
早速試合を分析していこう。
鹿島アントラーズの狙い(基本型)
鹿島の狙いを分析しよう。こちらがこの試合における鹿島の守備陣形の基本型だった。
いわゆる「ブロックを敷く」と言われる、DFライン・MFラインの2ラインをコンパクトに保つ守り方だ。ただしこれは対川崎用の特別なものではなく、ボール保持を得意とする相手に対して鹿島がよくとる守備形態。
「無理にプレッシャーをかけず、相手にボールを回させとくが、要所は締める」といった守り方だ。これは水曜日のACLで、「前線からプレスをかけにいったがDFが連動せずピンチを招く」という事態が発生していたため、修正を施したのだろう。また、連戦で体力的に厳しい面も考慮してのチョイスだったのかもしれない。この安定した試合の入り方は正解だったと思う。
鹿島アントラーズの狙い(対川崎用)
では対川崎のため特別な守り方をしていたのか。それが分かりやすく垣間見えたシーンがこちら。
川崎は両SBが極端に高い位置をとる。ペナルティエリア幅にほとんど全選手が入り、大外のレーンをサイドバックが使うようなイメージだ。これに対する鹿島の守備として、「大外(相手SB)はある程度捨てる」という選択をした。その代わり、中を徹底的に締めて、川崎得意のパス交換のリズムを中央では絶対作らせないという意図を感じた。
憶測に過ぎないが、鹿島はこの試合について以下のような約束事を実行しているように見えた。
- 中村憲剛を三竿が必ずケアする。中村憲剛が鹿島の最終ラインまで上がれば三竿も最終ラインに吸収される。
- 中村憲剛がボランチまで下がってゲームメイクをする時は三竿はついていかない。FWに任せる。
- ボールコントロールの少し怪しい守田がボールを持った時はレオが強めに狙いにいく。
- 鹿島の方が体格的な優位性(フィジカル的な優位性)があるので、攻撃は細かく繋ぐというよりシンプルに裏を狙う。相手にもなるべくロングボールを蹴らせる。
これらを実行してすることで、川崎は前半は中央のパスからゴールに迫ることは出来なかった。中村憲剛もほとんど仕事をすることができなかった。三竿が見事な仕事をしたと言えるだろう。
このスタッツを見てもらえば分かるように、鹿島の守備時における「中央は締める」という狙いは機能していた。ここまでサイドに偏った攻撃は、川崎の得意とするところではないはず。
しかし、川崎は右SBエウシーニョから何度も突破口を見出す。鹿島の守備ブロックの外側にいるエウシーニョ・車屋は、鹿島の守り方から考えれば当然攻撃の起点になる存在だが、車屋は機能せず、エウシーニョは機能していた。小林悠にPKを献上したシーンもエウシーニョからのパスだった。
エウシーニョを機能させてしまった理由
なぜ鹿島はエウシーニョから何度もチャンスを作られてしまったのか。逆にいえば、車屋には何もさせなかったのにエウシーニョにはそれができなかったのか。仮説としては以下が考えられる。
- 対峙する鹿島・安部のポジショニングが悪く、遠藤はポジショニングが良い
- そもそもエウシーニョは車屋よりも能力が高く、ボールもエウシーニョサイドに集まりやすい
私はこの2つのどちらも「エウシーニョを機能させてしまった理由」としては当てはまるものだと感じる。遠藤は守備時の車屋との距離を絶妙に維持しており、ボールが車屋に渡ればすぐにプレスにいける状態だった。逆に安倍は中央に絞りすぎてる感があり、エウシーニョにボールが渡った時の距離感が遠く、自由にプレーさせてしまった形だ。
もちろんエウシーニョの方が車屋よりもオフザボールの動きが秀逸であるという点も考慮すべきなので、「遠藤>安部だからエウシーニョにだけチャンスが生まれた」という訳ではないことは理解する必要がある。
空中戦で戦いたい鹿島VS地上で戦いたい川崎
試合序盤の川崎のゴールキックのシーン。
川崎はCBとボランチがショートパスを受けてボールを保持したいが、鹿島は前からプレッシャーをかけてロングボールを蹴らせるように仕向ける。この狙いは、「いつもの川崎のプレーをさせない」と同時に「空中戦であれば鹿島の方が有利」ということもあっただろう。スンヒョン・犬飼・レオ・三竿・優磨あたりは川崎相手であれば空中戦で勝つ確率は高い。守備だけではなく、攻撃においてもシンプルなクロスやロングスローを選択する事がいつもより多かった。
このシーンだけではなく試合を通して「空中戦では有利」という鹿島の共通認識が見受けられた。試合後に大岩監督の話していた「川崎のウィークポイント」の一つだと分析していたに違いない。このチョイスは間違いではなかったと思う。
鬼神・クォンスンテのPKストップ
この試合においてスンテのPKストップを語らないわけにはいかないだろう。動画がこちら。
特筆すべきは、小林悠が蹴るその瞬間まで全く動かず、蹴ると同時に動いてあの位置まで手が届いた事だ。
「最後まで真ん中を残しながらも、ちょっと飛びました」
と本人が語っていたように、真ん中に来る可能性を最後まで残していた事が凄まじい。小林悠は真ん中に蹴っても止められていたのだ。PKストップの後に笑顔を見せずに次のプレーに集中している所も素晴らしい。一瞬の緩みも見せない。これこそ鹿島の選手。
采配はどうだった?
安部→土居
この選手交代は理解できるものだった。安部は攻撃において存在感を見せる事ができなかったし、守備においても対峙するエウシーニョへの対応にも後手を踏んでいた。また、川崎はスピードに課題を持っているチームなので、土居の投入はチャンスを生む可能性が高い。
事実、川崎・阿部の退場を呼び込んだカウンターなどは土居のスピードが生きたシーンであった。
遠藤→内田
ここで安西を一列上げて遠藤OUT、内田を投入。またもや大岩監督は安西をサイドハーフで起用したが、この采配には疑問が残った。前の記事にも記載したが、安西のサイドハーフ起用が当たったことはあまり無い。彼はサイドバックの位置から駆け上がってこそ魅力を発揮する。
内田を入れること自体に疑問は無い。ただし、この試合の場合は「山本を下げて安西を左、右に内田」あるいは「安西を下げて内田」が良かったのではないか。特にこの試合は勝ち点3を奪わなければいけない試合だったため、守備にストロングポイントを持つ山本を下げるという勇気ある選択が欲しかったところだ。
セルジーニョ→永木
この交代は意味不明だった。なぜ攻撃においてはブレーキをかけうる永木をわざわざ起用する必要があったのか。セルジーニョに問題があったのならば、中村充孝か金森の投入が妥当であり、勝たなければいけない状況でサイドハーフに永木を置くというメリットは、私には見当たらなかった。特に川崎はDFラインの裏へのスピードに大きな課題を持つチームなので、スピードのある金森がうってつけだったのではないか。ここで金森を使わないのならいつ使うのか。大岩監督は何を狙っての永木投入だったのか、本当に勝ち点3を狙ったのか、甚だ疑問が残る采配であった。
MVP
クォンスンテ!PKストップ、クロスへの対応、シュートストップ、ほとんど全ての面でパーフェクトだった。
このクロスをキャッチングしたシーンなんかは凄まじかった。日本でこのプレーできるGKはスンテだけ。
スンテやCB、ボランチのプレーが素晴らしかっただけに、勝ち点3が欲しかったゲームだ。