川崎に対して3戦0勝をシリアスに考える【2020年J1リーグ第27節川崎フロンターレ戦マッチレビュー】

2020年J1リーグ第27節、鹿島アントラーズVS川崎フロンターレ。マッチレビュー。

先発メンバー

鹿島のスターティングメンバーは以下の通り。

GK 沖悠哉

DF 小泉慶 犬飼智也 奈良竜樹 山本脩斗

MF 三竿健斗 レオ・シルバ ファンアラーノ 土居聖真 エヴェラウド

FW 上田綺世

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1stクオーターで露見した両チームの技術差

1stクォーター(つまり前半22分まで)に、鹿島は川崎に技術差を見せられる事になる。

「止める蹴る」のシンプルな技術に、鹿島と川崎の間には明らかな差があった。

特に止める技術の差は顕著だった。川崎の選手がほとんどミスなく、そして開いたアングルでボールを止める技術を見せたのに対して、鹿島の選手たちの止める技術はややアバウトだった。技術がアバウトゆえに川崎の選手の寄せに捕まり、鹿島ボールになってもボールを奪還されるシーンが散見された。

川崎が即時奪還できる理由の1つに、川崎の選手の止める技術の高さがあるのだろうと思う。

練習から常にボールが止まる選手を相手にしていると、止める技術の高くない選手と対峙した時に隙が見える。当然、ボールが地上を走る展開になると川崎有利に働いていった。

そしてこの技術差は試合中には埋まらない。苦しいゲームが予想される序盤となった。

三竿健斗のジレンマ

試合序盤~前半の劣勢に対して、チームのバランスをギリギリ繋ぎ止めていたのは三竿の守備だった。

そしてその三竿もジレンマを抱えていた。

川崎の「中村憲剛・脇阪・三笘・家長」といったアタッカーたちが、三竿の周囲のスペースを巧みに突いてきたのが前半だった。

その動きのメカニズムはこうだ。

  1. 中村憲剛が(三竿が捕まえるには)やや中途半端な位置取りをする
  2. 三竿が中村憲剛を捕まえにいけば、三苫や家長が中央に動いて三竿の動いたスペースを狙う

三竿は次から次へと自分の周辺を狙ってくるアタッカー陣を相手にしなくてはならなかった。

相手の動きに起因するものだけならまだしも、この日はレオシルバが不調で、レオが不用意にボールを奪われた後の対応まで担わなければいけなかった。

当然、鹿島はボールの取りどころを作れているわけではないので、三竿のリアクションは一歩遅れてしまう。そこでも三竿は何とかボールを奪取しようと試みるも、川崎の選手たちのコントロールの方が早く、ファウルが嵩んだ。

とはいえ、三竿がファウルを覚悟しながらも中央を封鎖しようと孤軍奮闘してくれた事が、ゲームを繋ぎ止められた大きな要因になった。

川崎に中央を好き放題やらせていたら、このゲームは前半で終了していただろう。

また、レフェリーが三竿に対して警告を出さなかったのも鹿島にとっては有り難かった。前半のどこかで三竿に警告が出ていたら、より難しいゲームになっていた。

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チャンスは制空権とFWの質

とはいえ、ただ苦しいだけの前半だったわけではない。光明もあった。

それはエヴェラウド・上田綺世の空中戦。2人の高さや強さはこの日も相手CB(ジェジエウ・谷口)に対して優位性を確保していた。

地上戦では川崎に分があるものの、制空権は鹿島が握っている。それは鹿島が活かすべき明確なポイントだった。

おまけに、エヴェラウドの勇気あるプレーで前半のうちに谷口に警告が出た。相手の弱点を作る事にも成功した。

失点シーンのDFラインの立ち位置

前半の話では、失点シーンについても触れたい。

https://twitter.com/J_League/status/1327582551855288320

この失点シーンで気になったのは、犬飼・奈良、及び山本の攻撃時の立ち位置だ。

アラーノがパスミスをしたのが失点の要因。とは私は思わない。

犬飼や奈良はロストが起きる事も想定して攻撃時の立ち位置を取らないといけない。左サイドバックの山本脩斗も同様だ。

そこが失点シーンの一番マズいところだった。

犬飼は攻撃の時に攻撃の事しか考えられていないし、奈良も犬飼が不用意にアウトサイドレーンまで張り出す事に違和感を持たなければいけない。

山本脩斗も攻撃の意識が先行して高い位置を取るタイミングが早く、リスクマネジメントに欠けていただろう。

鹿島がこの先もボールを保持したいならば、こんなにあっさりと数的不利のカウンターを食らう事は避けないといけない。こんな失点をするくらいならばボールを繋がない方がいいし、さっさとエヴェラウドや綺世に向けてボールを蹴っ飛ばした方がいい。

問題は奈良の守備の対応でもなく、アラーノのパスミスでもない。

攻撃の時に攻撃しか考えられないならば、ボールを保持するサッカーは向いていない。

ザーゴが後半に与えた変化とザーゴの考え方

ザーゴが選手交代によって与えた変化は、ゲームの展開をいくらか好転させた。

中盤に名古を入れ、三竿をアンカー、レオと名古をインサイドハーフに据えるような配置に変えた。

三竿の周りのスペースを付かれていた所を埋めようと試みたのだろう。

そしてFWを2トップに変更。これらの交代は極めて論理的なシステム変更に見えた。

この日の川崎に対して最も有効なのは、エヴェラウド・綺世の2トップを相手CBに当てて、制空権とフィジカルでボールを前進させてしまう極めてシンプルなやり方だ。

緻密な攻撃は要らなくて、アバウトなボールで相手CB(特に谷口)を狙い撃ちにする。それが後半取るべき策だと私は思った。

しかしザーゴの意図に対する私のイメージは半分当たりで、半分ハズレだった。

ザーゴは想像以上に「ボールを繋ぐこと」に固執する考え方のようだった。

ビルドアップの段階からFWの優位性を使うこと(つまりロングボールを使うこと)はせず、あくまでショートパス主体。最後の最後、アタッキングサードについては制空権を活かす。

ザーゴは、「川崎にとっての嫌な手」である「FWへのロングボールからのストリーミング」という手ではなく、あくまでボールを保持して相手を押し込みたいという考え方を持っていた。

だから遠藤康を入れたし、アラーノを外したし、土居聖真は残った。綺世を外して伊藤翔を入れた。

鹿島が川崎に対して優位だったポイント、つまり前線の制空権とインテンシティの高さを活かすのではなく、ボールを保持して相手を押し込もうと試みた。ボールを地上で走らせる、いわば横綱である川崎の土俵で戦おうと試みた。

私はこの考え方は好きではなくて、「もっと相手の嫌がる事をやれよ」と思ってしまう。今シーズンの鹿島を継続して見る限り、ザーゴは相手の立場から逆算して策を打つタイプの監督ではないようだ。

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相手の不利益をどれだけ見るのか

試合は残念ながら引き分けに終わった。ザーゴが意図したように、ボールを保持していくらか川崎を押し込む事にも成功したし、遠藤康はこの日も出色の活躍を見せた。

しかし、それでも川崎には勝てなかった。今年、川崎と3度も戦って1度も勝てなかった。これが結果である。私はこの結果を非常にシリアスに捉えている。

3戦0勝とはいえ、内容は徐々に良くなってるから次は勝てるよ。ハハハ。とは到底思えない。

私がこれからの鹿島を見ていく上で気にしたいのは、「相手の不利益を見るのか」という点である。

サッカーというゲームは「相手の不利益はこちらの利益になる」という特性を持つ。おそらくザーゴは相手の不利益をあまり見ない。少なくとも今はそう見える。

タイトルを取ってきた鹿島は、こちらの利益と相手の不利益を同時に見るチームだった。鹿島にいくつものタイトルをもたらした小笠原満男はそのような選手だった。相手にとっての不利益はこちらの利益であり、それと自分たちのやりたい事は必ずしも一致しない。よほどの実力差を作れない限りは、この原理と向き合わなければいけない。

これからの鹿島が自分のスタイルで相手を飲み込めるチームになるのか。それとも相手の不利益も見ていく狡猾さが必要になるのか。

前者の場合はスタイルを洗練する必要がある。少なくとも川崎との技術差くらいは埋めなければ話にならない。後者の場合はザーゴ自身のサッカー観に変化が必要になる。

ザーゴの鹿島がどのような道に進むのか、進もうとしてるのか、結果は伴うのか。しっかり追いかけていきたい。

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